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【君の歌声は二度恋をさせる】第4章 「名札を貼れば恋が動く」

第4章テーマは、ラベリング効果(Labeling Effect)
ラベリング効果は【他人や自分に特定のラベル(評価や属性)を貼ることで、その通りの行動を取りやすくなる心理現象】というものです

しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります

それでは、第4章 「名札を貼れば恋が動く」をお楽しみ下さい

前回のあらすじ

俺、工藤翼は最近ある呼び方に取り憑かれている

それは「玲奈は俺にとって癒しの女神だ」という言葉だ
口にするたび、なんだか本当に彼女が光をまとった存在に思えてしまう

初めは内心で唱えるだけだった。彼女と話す前に「癒しの女神、癒しの女神」と唱えると、緊張がすっと消えて会話がスムーズになる。単なるおまじないみたいなものだった

だが一度口に出してしまったのが運の尽きだ

「玲奈って、本当に癒しの女神だな」

そう言ってしまった俺に、彼女は目を丸くした

「女神って……そんな大げさな」

頬を赤らめ、少し笑ってごまかす姿がかわいすぎて、俺は確信した。——これは効いている、と

それからは会うたびに口にした

「玲奈は癒しの女神だ」
「今日も癒しをありがとうございます、女神」

言いすぎて自分でも馬鹿みたいだと思うが、やめられない。なにより彼女が否定しつつも、どこか受け入れている気配がある

ある日、彼女がピアノを弾いた後に深呼吸していると、俺はつい言った

「やっぱり玲奈は癒しの女神だ。音のひとつひとつが俺の肩こりに効く」
「……肩こり?」

笑いながらも、玲奈は髪を耳にかける仕草をした。その仕草が「女神らしさ」を意識しているように見えた。俺の呼び方が、彼女を少しずつ変えている

そんな俺の習慣は、気づけば仕事場でも発動していた

建築現場の昼休み。弁当を広げながら同僚に話してしまったのだ

「いやー、昨日も“うちの女神”に会ってきてさ」
「女神?」
「そうそう、癒しの女神なんだよ。俺の心を整えてくれる」

現場は一瞬静まり返った。誰もが「また始まったぞ」という目で俺を見ている

「工藤、女神って……新しいアイドルか?」
「いや、違う違う。俺の知り合いで、本物の女神なんだ」
「お前、宗教にでもハマったのか?」

誤解を解こうとしてさらに深みにハマる。説明すればするほど怪しさが増すのだ
彼女を「癒しの女神」として広めたい一心で

「うちの女神はピアノも弾けるんだぞ」
「おい、楽器まで弾く女神って……」
「しかも清楚で、控えめで、笑うと天界が近づくような——」
「もうやめとけ!」

同僚が頭を抱える中、俺は「これは布教活動ではない」と何度も主張した

けれど、結果的に現場仲間の間では「工藤の女神」という謎のワードが流行り始め、昼休みの会話はいつも俺の“女神報告会”になってしまった

その噂は巡り巡って玲奈の耳にも届くらしい

「ねえ、工藤さん」

リハーサル帰りの廊下で、彼女が少し照れた顔を見せる

「私、最近“女神”って呼ばれることが多いんですけど……心当たりあります?」
「し、知りません」

と、とぼけてみたが、俺の目は泳ぎまくっていたに違いない

彼女は小さくため息をつきながらも、目元は緩んでいた

「まあ……嫌じゃないですけどね。女神って呼ばれるのも」

その一言で俺はさらに調子に乗る
現場で、友人に、そして本人に。俺の「女神」呼びはエスカレートしていく

清楚な彼女が少しずつ「女神」を意識して立ち振る舞う様子は、まるで俺が名札を貼り替えたみたいだった

だがこのときの俺はまだ知らない。——後にその名札が、まったく逆の意味で爆発することを

あの日以来、俺は玲奈を“癒しの女神”としてあちこちで語り歩いていた

現場でも、友人の飲み会でも、そして本人に対しても
それなのに、次に彼女を見たとき、俺の目の前に現れたのは——全く別の存在だった

「おい翼! 準備できてんのか!」

ライブハウスの薄暗いステージ裏で、玲奈が怒鳴った
その姿はオペラ歌手ではなく、黒のレザージャケットに鋲付きのブレスレット、派手に逆立てた髪

しかも手に持っているのは楽譜ではなく、マイクスタンドだ

「れ、玲奈……? どうしたんだ、その姿」

彼女はニヤリと笑った
その顔は、あの“癒し”のイメージを粉々に打ち砕く

俺は思わず叫んでいた

「玲奈は……破壊神だな!」

その瞬間、ライブハウスに詰めかけた観客がどっと沸いた

「おお! 破壊神!」
「ぶっ壊せー!」

観客の熱気に背中を押されるように、玲奈は叫ぶ

「じゃあ、壊すわよぉぉおおお!」

そしてドラムの爆音に合わせて、マイクスタンドを床に叩きつけた
清楚なオペラ歌手だったはずの彼女は、今や破壊のシャウトで会場を支配している

俺はただ呆然と立ち尽くしていたが、気づけば手を振り上げて叫んでいた

「破壊神! 破壊神!」

観客と一緒になって彼女を煽っている

しかし、そんな俺に鋭い目線が突き刺さった
曲の合間、マイクを口から離した玲奈がニヤリとしながら言った

「ねえ翼。あんた、前は私のこと“癒しの女神”って言ってなかった?」

心臓が跳ねた
まさか、こんな爆音の中で俺にツッコミを入れてくるとは

「い、癒しの女神も本当なんだ! でも今は破壊神で!」
「真逆じゃない!」
「いや、その二面性が最高なんだよ!」

観客は事情を知らないまま「二面性! 二面性!」とコールを始めた
俺の必死の弁解が、新しい煽り文句になってしまったらしい

ステージの上で玲奈は大笑いし、次の曲に突入する

「翼がそう言うなら……今日は全部ぶっ壊すわよ!」

彼女の声は、もう清楚さの欠片もない
シャウトと共にライトが点滅し、ギターが悲鳴を上げる
俺の“癒しの女神”は、完全に“破壊神”へと成り代わっていた

それでも、俺は拳を突き上げ続けた
癒しでも、破壊でも、彼女が本気で生きている姿を見られるなら、どちらでも構わない
むしろ、この両極端さこそが、玲奈という存在の面白さなのだ

ライブが終わり、汗だくの彼女が楽屋に戻ってくる

「ふう……壊しすぎたかしら」
「最高だった。破壊神、いや、女神……いや……」

俺は言葉に詰まる

彼女はタオルで額を拭きながら、ちらりと俺を見て笑った

「好きに呼べば?」

その笑顔に、俺はまた「癒しの女神」と言いそうになったが、今度は堪えた
俺の中ではもう一つ、新しい名札が芽生えていたからだ

 ——“二面性の女神”——

真逆のラベルを貼られても、彼女はそれを全力で演じきる
そんな彼女となら、俺はこの先もずっと飽きることはないだろう

次章へ

↓最後に、第4章のイメージ楽曲をお楽しみ下さい↓


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