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第4章『同盟』第5節:最初からそこにいる者には、追いつけない【ケンタウルスストーリーイベント】

前回のあらすじ

この章『同盟』のイメージ楽曲 物語と一緒にどうぞ↓


すくすくプラザを出たとき、空気はこれまでとは違っていた
軽くもなく、重くもない。張り詰めてもいない

ただ、どこか整っている
その中で、私はこれまで積み上げたものを一つずつ確かめていた

「じゃあ最後、少しだけちゃんと走ろうか」

ランがそう言う。言葉は軽いが、全員が意味を理解している
誰も返事をしないまま、同時に踏み出す

最初の一歩で、私は意識を切り替える
無理をしない。呼吸を整え、余計な力を抜く

「……いける」

手応えはすぐに現れる
放課後児童クラブへ向かう道で、全員と並ぶ位置に収まる

無理がない。ズレもない。判断も遅れない
これまでの要素が噛み合い、初めて一つの形になった

そのまま進んでも、崩れない
誰かに合わせている感覚もない
自分の走りで、全体と並んでいる

だが、その中で一つだけ、違和感が残る

ランが、変わらない

特別速くない
無理をしている様子もない
常に同じ場所にいる

「……普通だ」

そう判断した瞬間、違和感が深くなる
普通であるはずなのに、外れない
むしろ、最も安定している

私は視線を向ける
ランの動きは派手ではないが、隙がない

ユキハクのように崩さず
ルナヴェイルのように流れを拾い
サクラミストのように迷わない

それらを分けずに、最初から一つとして扱っている

「……同じだ」

私も今、それをやっている
意識して、重ねて、再現している

それなのに……わずかに、前にいる

距離は大きくない
だが確実に、半歩だけ前に出ている

「……なぜだ」

私は呼吸を整えながら、違いを探す

動きは同じに見える
リズムも合ってし、無理もしていない

それでも、差がある
その原因は、動きではなかった

「……作っているのですか?」

私は、自分の内側を見直す

「私は……」

無理をしないと決めている
流れを見ようとしている
迷わないように意識している

すべてが「やろうとしている」状態だ

ランには、それがない
最初から、そうなっている

ふれあい文化センターへ向かう手前、道が少し開ける
全員がほぼ横並びになる
だがその中で、ランだけがわずかに余裕を持っている

呼吸も、足運びも、ほんの少しだけ軽い

同じことをしているはずなのに、その“余白”が違う

「……まだ上がある」

私はその差を認める

並べている
だが、追いついてはいない
その事実だけが、静かに残る

「……ここからだ」

私は前を見て、わずかに踏み込みを強めた

今回の走行ルートです グーグルマップより抜粋

ふれあい文化センター手前、道が少し開けたところで、私は横に並ぶランへ視線を向けた

呼吸は整っている。脚も軽い。今の自分なら届く距離にいる
だからこそ、言葉が自然に出た

「……ラン」

彼女はほんの少しだけこちらを見る。表情は変わらない

「ここから先……勝負をしたい」

一瞬だけ空気が止まる

サクラミストが「あ、言った」と小さく呟き、すぐ口を押さえる
ルナヴェイルは何も言わず、ただ流れを崩さない位置に収まる
ユキハクは半歩下がって距離を保つ

ランは肩の力を抜いたまま、軽く頷いた

「いいよ」

合図はない
次の一歩で、同時に速度が上がる

私はこれまでのすべてを重ねる

無理をしない
余計な力を抜く
風の向き、路面の傾き、人の流れを拾う

視界に入った瞬間に進路を決める
判断を止めない
足は軽く、呼吸は一定、視線は広く

「……これが」

踏み込みが地面に吸いつく。次の一歩が自然に前へ出る

「私の答えだ」

並ぶ。ランと同じ位置で、同じ速度で進む
左右にブレず、前後の間隔も変わらない

周囲の三人は追ってこない

サクラミストは少し後ろで「いけいけ」と無駄に小さな声援を送り
ユキハクはその声に反応しない距離を保つ
ルナヴェイルは視線を流し、二人の間の風の通りを観察している

空気は、完全に二人だけのものになる

……互角が続く

だが、違和感はすぐに現れる

ランの呼吸が変わらない
踏み込みの深さも一定
表情も変わらない

私は周囲の流れを拾い続け、判断を止めずに進む
その一方で、彼女には“何かをしている”気配がない

それでも、位置が変わる

ランがわずかに前へ出る。加速した感覚はない
押し出したようにも見えない。だが、確かに半歩だけ前にいる

「……なぜだ」

私は精度を上げる
視線を広げ、足の置き場をより正確にし、呼吸の間隔を詰める
流れを読み直し、最短の軌道をなぞる

だがその分、意識が増える
考えないようにしているのに、“考えないようにする”という考えが入り込む

その一瞬で、呼吸がわずかにずれる
足の置き場が半歩だけ遅れる

差が広がる

一本道に入ると、逃げ場がなくなる
視界はまっすぐに伸び、選択肢が消える

ランはそのままの速度で、自然に前へ出る
私は追う。脚を前へ出し、同じ軌道をなぞる
だが、距離は縮まらない

「……届かない」

私はそこで理解する
ここまでの走りは、すべて“作ったもの”だった

無理をしないことも
流れを読むことも
迷わないことも

すべて後から重ねたものだ

ランは違う。最初からそうだ

差は技術ではなく、前提にある

足が重くなる
呼吸が荒くなる
視界の端が揺れる

それでも前へ出るが、差は縮まらない
ランの背中は変わらない距離で前にある
速くなっているわけでも、遠ざかっているわけでもない
ただ、そこにいる

春日市ふれあい文化センターの入口が見えたとき
ランはそのまま先に到着した
私は数歩遅れて止まる。明確な差が、静かに残る

「……なぜ勝てない」

呼吸を整えながら、言葉を出す
ランは少しだけ考えるように首を傾げる

「うーん……」

そして、あっさりと答える

「楽しんで走ってないから?」

それだけだった
後ろから三人が追いつく
サクラミストが弾むように近づく

「すごかったね!」
ルナヴェイルが静かに言う

「流れていたわ」
ユキハクが短く続ける

「……崩れていない」
私は一度だけ深く息を吐く

「……完敗です」

崩さない者がいる
流れに乗る者がいる
考えない者がいる

そして、それらすべてを自然にやる者がいる
私はまだ、その場所に立っていない
だが、どこを目指せばいいのかは……はっきりと見えていた

次節へ


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この節に登場したケンタウルス

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