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第7章『限界』第5節 託す決断【ケンタウルスストーリー】

迷言です
今週(26年8月2日~26年8月8日)は【ケンタウルスストーリー】第7章『限界』をお送りします

前節のあらすじ

それでは本編をどうぞ

この章のイメージレースBGMと同時にお楽しみ下さい

第1リザルトを終えた私たち
ランは迷うことなくレゾナンス・ハーモニクスへ並ぶ

ラン「ネクシアード」

ネクシアードが静かに視線だけ向けた

ラン「協調をお願いします」

直球だった

ラン「サイレント・レイヤーは第1リザルトで消耗しています」
ラン「ジェントル・ヴァーディクトも、今いるのは二人だけです。但し、第1リザルトを見送った以上脚が余ってます」
ラン「その点私は第1リザルトを争っていたので、脚にそんなに余裕がありません……これはセーフティーリードを取った後、ゴール争いをした際に貴女達に優位に働きます」
ラン「同じ二人なら……ゴール前で優位に働く私達と協調する方が得策かと……」

しばらく沈黙が流れた
やがてネクシアードが短く答える

ネクシアード「悪くない提案です……しかし、先約があります」
ヴァイスノヴァ「え?」

その意味を考える間もなく、ランが前方へ視線を向けた
そして息を呑む
前方には一本の長い隊列

先頭にはジェントル・ヴァーディクト
その後ろ、サイレント・レイヤー
さらに最後尾、レゾナンス・ハーモニクス

三チーム7人が、まるで最初から約束していたかのように一直線へ並んでいた
しかも、その隊列はゴール前へ続く長い下り坂へ差しかかろうとしている
ランの表情が変わる

ラン「ヴァイス!」
ヴァイスノヴァ「はい!」
ラン「急いでください!あの隊列へ入ります!」
ヴァイスノヴァ「了解です!」

私達は全力で踏み込んだ
あと少し……七人の最後尾まで、あと数歩

その瞬間
スッ……
ネクシアードが静かに私たちの前へ入る

ヴァイスノヴァ「前が!」
ラン「……!」

抜けない
無理に外へ出れば速度を失い隊列にはいれない
ほんの一瞬だった……けれど十分だった

横から明るい声が飛ぶ

ハクレイナ「ラン!ヴァイス!」

私は反射的に振り向く
ハクレイナが片手を大きく振っていた
いや、片手だけでは足りないと思ったのか、途中から身体ごと左右へ振り始める

ハクレイナ「こっちー!急いで振り切られる!」
アークシエル「……振りすぎ」
ハクレイナ「いや……目立たないと分からないと思って!」

本人は至って真剣だった
その必死さが少しだけ可笑しい

しかしアークシエルは笑わない
そして、そのままネクシアードへ並ぶ
ネクシアードが前へ出ようとすれば
アークシエルも静かに並ぶ

右へ寄れば
右へ

左へ寄れば
左へ

互いに一切接触しない

ネクシアードの動きは完全に動きを封じられていた

アークシエル「ハクレイナ……今のうちに」
ハクレイナ「うん!」

ハクレイナは私たちの前へ入る

ラン「ヴァイス!ハクレイナの後ろへ!」
ヴァイスノヴァ「はい!」

私たちはすぐにハクレイナの後ろへ付き、急いで前の隊列に合流しようとする

しかし……その時にはもう……前方の七人が下り坂へ入っていた

ノクティエル「下り坂に入りました……一気に加速します」
「了解」

ネクシアードはアークシエルに抑えられながらも、小さく前方だけを見る
7人は乱れることなく、下り坂を利用して一斉に加速した

風を裂く音だけが残る

ヴァイスノヴァ「速い……!」

私たちも追う
ハクレイナが懸命に前を引く
ランも私へ細かく指示を飛ばす

それでも……七人との差は少しずつ……確実に広がっていく
ランはその背中を見つめたまま、小さく息を吐いた

ラン「……そういうことでしたか」
ヴァイスノヴァ「ラン?」

ランは静かに頷く

ラン「これで分かりました……全チームの作戦が、ここで一つに繋がっています」

その言葉の意味を、私はまだ理解できなかった
ただ一つだけ分かった事がある
……追いつくには、一手遅かった

七人の背中は、もうかなり前にあった
それでも私たちは走り続ける

ハクレイナ「取りあえず人数は確保したよ!」

そう言って胸を張る
しかし、すぐに前方を見つめて首を傾げた

ハクレイナ「でも……これからどうする?」

前との差は、ゆっくりと広がっていく
私は黙って前を見るしかなかった

ハクレイナ「三人じゃ追いつけないよ?」

しかし、ランは焦る様子もなく、小さく微笑んだ

ラン「大丈夫です」
ハクレイナ「……え?」

ランは前方の七人を見つめたまま静かに話し始める

ラン「この作戦を考えたのは、おそらくサイレント・レイヤーです」

私は思わずランを見る

ヴァイスノヴァ「サイレント・レイヤーですか?」

ランは頷いた

ラン「ええ……そして、あのチームなら一番厄介なジェントル・ヴァーディクトを、そのまま自由にはしません」

ハクレイナは首を傾げる
考え込む勢いが強すぎて、走りながら本当に首を横へ九十度近く倒してしまった

ヴァイスノヴァ「ハクレイナ!前!前です!」
ハクレイナ「あっ」

慌てて頭を戻す
本人は真剣そのものだった
ランも少しだけ笑う

ハクレイナ「どういう事?」

ランは説明を続ける

ラン「ジェントル・ヴァーディクトを先頭集団へ連れて行った時点で、二チームによるジェントル・ヴァーディクト潰しが始まっているはずです」

ハクレイナ「ジェントル潰し?でも、それってレゾナンス・ハーモニクスに何の得もないじゃない」

ランは穏やかに頷いた

ラン「……忘れましたか、ハクレイナ」
ラン「チーム戦は一戦で優勝が決まる競技ではありません」
ラン「年間ポイントで総合順位が決まります」

ハクレイナの目が丸くなる

ハクレイナ「あっ……」

ランは静かに続けた

ラン「レゾナンス・ハーモニクスは、今回最初からこの一戦を勝つつもりはなかったのでしょう」
ラン「今回の目的は、上位へ入り、確実にポイントを積み重ねること……だから、自分たちが最も高い順位へ入れる可能性が高い作戦なら、迷わず乗る」

ヴァイスノヴァ「だから……サイレント・レイヤーと」
ラン「ええ……サイレント・レイヤーは、その思考まで読んでいたのでしょう」

ハクレイナは何度も頷く
しかし今度は頷きすぎて、身体まで上下に揺れ始めた

ヴァイスノヴァ「ハクレイナ!」
ハクレイナ「考え事すると頷いちゃうんだよ!」

ランは思わず吹き出した

ラン「ふふっ……」

ハクレイナも照れ笑いする

ヴァイスノヴァ「なるほど……だから先約だったんだ」

ランは静かに頷く

ラン「ええ……もし、第1リザルトを取ったらチームへ協力する」
ラン「最初から、そう約束していたのでしょう」

私は静かに尋ねる

ヴァイスノヴァ「……という事は……もし、第1リザルトを私たちが取っていたら」

ランは迷いなく答えた

ラン「その時は、レゾナンス・ハーモニクスはこちらへ協力してくれていたでしょう」
ラン「しかも、サイレント・レイヤーがジェントル・ヴァーディクトを止めてくれるという、おまけ付きで」

ハクレイナは思わず声を上げる

ハクレイナ「えっ!?そんな事まで考えてたの?」

ランは頷く

ラン「そうでもしなければ、レゾナンス・ハーモニクスから協調の約束は取り付けられません」
ラン「サイレント・レイヤーにとって、第1リザルトを取れなかった時点で……打つ手が無くなりこのレースは終わります」
ラン「だから、あの三人は何としてでも第1リザルトを取りに来たのです」

ハクレイナは前を見る

ハクレイナ「サイレント・レイヤーの意図は分かった。じゃあ……これからどうやって追いつくの?」

ランは私へ視線を向けた

ラン「それは……ヴァイスノヴァ」
ラン「オーダーです。ここからゴールを取りに行ってください」

ヴァイスノヴァ「えっ!!ゴールを……ですか?」
ラン「そうです」
ヴァイスノヴァ「別に構いませんが……そんな事で追いつけるのでしょうか?」

ランは優しく微笑む

ラン「大丈夫です……但し、ヴァイス!何も考えず、ゴールだけを狙ってください」
ラン「あの時のデモ戦みたいに……確か……『気合と根性』でしたっけ?」

私は少し困ったように笑う

ヴァイスノヴァ「……無茶を言いますね」
ヴァイスノヴァ「でも、そう言われると……出来そうな気がします」

ランは小さく笑った

ラン「ふふっ……では改めて……オーダーです」
ラン「ヴァイスノヴァ!!何も考えず、ただ前へ……ゴールだけを狙ってください」

私は力強く頷く

ヴァイスノヴァ「了解」

ランはハクレイナを見る

ラン「ハクレイナ……先頭に追いついた後の作戦を伝えます。こちらへ」

ハクレイナは笑顔で親指を立てた

ハクレイナ「了解!!……久しぶりだね!この感じ!!」

何を頼まれたのか?
それは私には分からない
そんな事より……集中だ

前方
七人の先頭集団
距離は……まだ遠い

私はその背中だけを見つめる

ヴァイスノヴァ「必ず追いつきます」

ランは静かに首を横へ振った

ラン「いいえ……追いつくだけではありません」

その瞳は真っ直ぐ前だけを見ていた

ラン「勝ちに行きます」

その言葉を合図に……私たち三人は、一斉に加速した

次節へ


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