【リューカデンドロン】第3章 「未完の始まり」
第3章テーマは、ツァイガルニク効果(Zeigarnik Effect)
ツァイガルニク効果は【終わっていないものほど、頭に残る】というものです
しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります
それでは、第3章 「未完の始まり」をイメージ楽曲と共にお楽しみ下さい
↓第3章のイメージ楽曲↓
前回のあらすじ
放課後
講義が終わると、私はいつものように中庭の方へ歩いていた
別に呼ばれているわけではない
約束もしていなし、待ち合わせをした覚えもない
なのに……足が向く
途中で……自分で気付いて、少しだけ立ち止まった
「……何やってるんだ私は」
誰に言うでもなく呟く
今日は用事があるわけでもないし、帰ってもいい
そもそも私は、ただの練習相手だ
頼まれているから付き合っているだけで
義務でもないし、責任でもない
それなのに……行かないという選択肢がなかった
私は小さくため息をついて、結局そのまま歩き出した
まだ……来ていない
腕時計を見る
少し早かったらしい
「……早く来すぎましたね」
自分でも笑える
待つ理由などないはずなのに、待っている
数分後、小さな足音がした
「今日も……お願いしていいですか?」
振り返る
そこには、橘みのりが立っていた
相変わらず、控えめな声だ
「ええ、どうぞ。今日はどこまで進むんです?」
軽く言ってみる
みのりさんは少し考えてから前に立った
「今日は……その……」
深呼吸
「好きです」
いつも通り
「私と……」
止まる
沈黙が続き……木の葉が揺れる音だけが聞こえる
私は腕を組んだまま待っていた
だが今日はいつもと違った
「今日は……ここまでにします」
私は思わず眉を上げた
「今日は早いですね」
「はい……」
少し間
「これ以上言うと」
止まる
私は首を傾げた
「言うと?」
みのりさんは視線を落としたまま言った
「……終わりそうなので」
終わり?
私は少しだけ考えた
終わるとは何だろう?
告白が終わるだけだろうか?
私は軽く笑った
「終わった方がいいのでは?」
みのりは小さく首を振った
「……まだです」
「何がです?」
しばらく沈黙の後、小さく言う
「分かりません」
また分からないらしい
この人は本当に、分からないことが多い
だが今日は、その言葉が少しだけ残った
終わると……困るのか
何が?
告白が終わるだけだろう
それなのに、なぜか妙に引っかかる
みのりさんは軽く頭を下げた
「今日はありがとうございました」
「ええ。ではまた明日」
いつも通りの台詞
だが今日は、そこで終わった
いつもより少し早い
私は一人でベンチに残る
しばらく動けず、何となく、立ち上がるタイミングを失った
「……短いな」
思わず口に出た
会話が楽しかったわけではない
特別なことをしたわけでもない
ただ立って
少し言って
止まって……終わっただけだ
それなのに……いつもより短いと、妙に物足りない
私はベンチの背にもたれて空を見る
「妙ですね……」
自分で言って、自分で納得できない
別に好きなわけではない
気になると言っても、大した意味ではない
ただの練習相手だ
それなのに……終わると、少しだけ引っかかる
帰り道を歩きながら考える
最近、みのりさんといる時間は、特別面白いわけではない
楽しいわけでもないし、盛り上がるわけでもない
むしろ、静かすぎるくらいだ
なのに……途中で終わると、妙に気になる
今日もそうだ
「好きです」と言って
「私と……」で止まって
「終わりそうだからやめます」と言って終わる
毎回、同じところで終わる
だからだろうか
妙に頭に残る
私は歩きながら小さく笑った
「……変な練習だ」
だが、だからこそかもしれない
彼女の告白は、少しだけ……頭に残る

放課後
私はいつものように中庭に来ていた
来るつもりはなかった
少なくとも、そういうつもりだった
今日は講義が長引いたし、少し疲れている
そのまま帰ってもよかったはずだ
なのに気付けば、いつものベンチに座っている
「……別に待っているわけではないんですがね」
誰もいない中庭で呟く
約束はしていない
来なければ来ないで終わりだ
それなのに、帰るタイミングが分からない
立ち上がろうとして、やめる
まだ早い気がする
何が早いのかは分からない
腕時計を見る
五分
十分
誰も来ない
私は軽くため息をついた
「今日は来ない日ですかね」
別にそれで困ることはない
練習がなくても生活は普通に進む
むしろ、その方が楽なはずだ
なのに……帰ろうとすると、妙に落ち着かない
「……帰りますか」
立ち上がる
その時だった
「すみません……遅れました」
振り返った先に、みのりさんが立っていた
少し息が上がっているようだ
私はわざと肩をすくめた
「別に待ってませんよ。今帰るところでした」
本当は、ずっと座っていた
みのりさんは小さく頭を下げた
「すみません。少し用事が長くて」
「気にしなくていいですよ。練習は義務ではありませんから」
みのりさんは少しだけ迷った顔をした
「今日は……少しだけでいいですか?」
少しだけ
その言い方が、妙に引っかかった
「構いませんよ。短くても練習は練習です」
私はベンチに座り直す
みのりさんはいつもの位置に立つ
深呼吸
「好きです」
小さな声
「私と……」
止まる
沈黙
いつも通りだ
だが今日は、少し違い、いつもより沈黙が長い
私は腕を組んだまま待つ
だが、なぜか落ち着かない
「今日は続けないんですか?」
思わず聞いてしまった
みのりさんは少しだけ目を伏せた
「続けると……」
止まる
私は首を傾げる
「続けると?」
みのりはしばらく黙ってから言った
「……終わってしまいそうで」
終わる?
私は眉をひそめた。
「終わるとは?」
みのりは小さく首を振る
「分かりません」
「分からないのに止めるんですか?」
「はい」
真面目な顔だった
冗談ではない
本気でそう思っている顔だ
私は少しだけ笑った
「不思議な練習ですね」
みのりさんは小さく頷いた
「そうかもしれません」
私は小さく息を吐いた
「橘さん」
「はい」
「続けてもいいんですよ?」
みのりさんは少しだけ考えた
そして首を振った
「……今日はここまでにします」
私は何も言わなかった
帰り道
会話はほとんどない
だが今日は、妙に沈黙が長く感じる
悪い意味ではない
ただ、終わりに近づいている感じがした
門の前で止まり、みのりさんが少し迷った顔でこちらを見る
「また……明日もいいですか?」
私はすぐに答えた
「ええ、構いませんよ」
少し間の後、みのりが小さく言った
「……よかった」
それだけ言って、帰っていく
私はその背中を見送りながら思った
橘みのりの告白は、いつも途中で終わる
「好きです」で止まる
「私と」で止まる
そして……最後まで言わない
普通なら、はっきりした方がいいはずだ
終わった方が楽なはずだ
なのに……終わらない方が安心する
変な話だ
普通は逆だろう
だが今は……
あの途中のままの言葉が、少しだけ、気になる
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