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【リューカデンドロン】第2章 「迷いの始まり」

第2章テーマは、不確実性価値上昇効果(Uncertainty Attraction Effect)
不確実性価値上昇効果は【分からないからこそ、気になって価値が上がる】というものです

しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります

それでは、第2章 「迷いの始まり」をイメージ楽曲と共にお楽しみ下さい


↓第2章のイメージ楽曲↓

前回のあらすじ


放課後
いつもの中庭
いつものベンチ

最近では、ここに来ること自体が日課になっていた

約束しているわけではない
連絡を取り合っているわけでもない
だがこの時間になると、自然と足が向く

そして大抵の場合……

「今日も……告白の練習をしてもいいですか?」

後ろから、あの小さな声がする
振り返らなくても分かる

「どうぞ。私は逃げませんよ」

慣れた調子で答える
このやり取りも、もう何度目だろう

橘みのりは私の前に立つ
少し距離を取り、目を合わせようとして、やめる

そして深呼吸

「す、好きです」

相変わらず小さい声だ

「私と……」

止まる
私は腕を組んだ

「今日は昨日より進みましたね」

軽く笑いながら言う
するとみのりさんは真顔で答えた

「はい。三文字くらい進みました」

三文字
私は思わず吹き出しそうになった

「ずいぶん具体的ですね」
「前は『す』だけでした」
「それは進歩と言えるのでしょうか?」
「言えます」

真剣だった
本気で進歩していると思っている顔だ

この人は本当に分からない

普通、告白の練習をするなら
もう少し段取りというものがあるはずだ

言う相手を決めて
内容を考えて
最後まで言えるようにする

だが彼女は違う

毎日来て
同じところまで言って
止まる

それでも真面目にやっている
私は少しだけ首を傾げた

「橘さん」
「はい」
「本当に告白する気はあるんですか?」

みのりさんは少し考えている
そして小さく言った

「あります」
「なら、最後まで言えばいいのでは?」
「それは……」

止まる
しばらく沈黙
やがて彼女は小さく息を吐いた

「難しいです」
「何がです?」
「全部です」

……全部
曖昧すぎる

だがそれ以上聞いても、答えは出てこない気がした

「まあ、私は練習相手ですから。やりやすいようにどうぞ」

みのりさんは小さく頷いた
そしてもう一度、私の方を見る
少しだけ、いつもより近い

「……もし」

言いかけて、止まる
私は待つ

「もし?」

みのりさんは視線を逸らした

「もし、本番だったら……」

本番?
私は少しだけ眉を上げた

「本番だったら?」

みのりさんは黙る
少しだけ唇を動かして
結局首を振った

「……やっぱりいいです」
「気になりますね」
「気にしないでください」
「それは無理でしょう」
「では、忘れてください」

忘れろと言われると、余計に気になる
私は思わず笑った

「橘さんは、本当に変わっていますね」
「よく言われます」

即答だった
しかも少しだけ得意そうだ
なぜそこを誇るのか

練習は、結局いつも通り途中で終わった
そのあと、いつも通り並んで歩く

会話はほとんどない
最初の頃は、この沈黙が妙だった

だが最近は違う
何も話さなくても、別に困らない
むしろ、変に話題を探す方が落ち着かない

私は歩きながら、ふと思った
この女は、本当に告白する気があるのか?

好きな相手がいるのか?
いないのか?

本気なのか?
練習なのか?

何も……分からない

分からないのに……毎日来る
分からないのに……真面目だ
分からないのに……隣にいると落ち着く

……妙だ
普通なら面倒なはずだ

意味の分からないことに付き合わされているだけなのだから

なのに嫌ではない
むしろ少しだけ気になる
私は横目でみのりさんを見る

彼女は何も言わず、ただ歩いている

私は小さく息を吐いた

「橘さん」
「はい」
「あなた、本当に何を考えているんですか?」

みのりさんは少しだけ考えてから言った

「……秘密です」

それだけだった
分からない
本当に分からない

だが……分からないからこそ、少し気になる

私はそのことに気付かないふりをして
いつもの帰り道を歩き続けた

昼休み
学食はいつも通り騒がしい

私は同じ講義を取っている女子二人と、適当な雑談をしていた

「高瀬って意外と面倒見いいよね」
「そうですか?」
「この前も後輩助けてたでしょ」
「まあ、放っておけなかっただけです」
「優しいね〜」

軽い笑い

普通の会話だ
特に困ることもないし、気も使わない
それなりに楽しい

だが……なぜか、昨日の中庭の沈黙の方が思い出に残っている

別に楽しかったわけではない
面白いことを言ったわけでもない
ただ座っていただけだ

なのに、妙に印象に残る

私は自分で首を傾げた

「……妙ですね」
「何が?」
「いえ、何でもありません」

笑ってごまかす
こんなことを考えている時点で、少しおかしい気がする

放課後
いつもの時間
私は無意識に中庭の方へ向かっていた

ベンチに座る
別に待っているわけではない
たまたまここを通っただけだ

……そういうことにしておこう

だが数十分経っても、みのりさんは来なかった

珍しい
今まで遅れたことはほとんどない
私は腕時計を見る

「……帰るか」

私は、立ち上がろうとして……やめた
別に急ぐ用事があるわけではない
もう少し座っていてもいいだろう

さらに数分
まだ来ない
私はため息をついた

「……何で待ってるんだ?」

口に出してしまった
別に約束しているわけではない
来なかったら帰ればいいだけだ

なのに……座っている

理由を考えてみた

頼まれているから?
相手が真面目だから?
途中で帰るのは悪い?

その時だった

「遅れてすみません」

小さな声の方へ振り返る

そこには、橘みのりが立っていた
少しだけ息が上がっている

「別に、帰ろうかと思ってました」

本当は待っていたが……そこは言わない

みのりさんは少しだけ頭を下げた

「すみません。少し用事が長引いてしまって」
「気にしなくていいですよ。別に練習は義務ではないからですからね」

みのりは少し迷った顔をした

「では……今日は……やめますか?」

私は一瞬、言葉に詰まった

やめる?

その発想はなかった
今まで一度も言われたことがない
私は少しだけ違和感を覚えた

「……いや、やるなら付き合いますよ」

自分でも理由は分からない
別に今日やらなくてもいいはずだ
だが、やらないと言われると落ち着かない

みのりは小さく頷いた

「お願いします」

いつもの位置に立つ

深呼吸

「す、好きです」
「私と……」

止まる
沈黙
いつも通りだ

だが今日は少し長い

その沈黙を私は腕を組んだまま待つ
風が吹き、遠くでボールの音がする

まだ……言わない
私は少しだけ落ち着かなくなった

「今日は長いですね」

みのりは視線を下げたまま言った

「長い方が……いいです」
「何がです?」

少し間

「……分かりません」

分からない?
本人も分かっていない顔だった
だが嘘ではない

本気で分からないと言っている

私は思わず笑った

「橘さんは、本当に不思議な人ですね」
「そうですか?」
「ええ。普通はもう少し説明があるものです」

みのりは少し考えてから言った

「説明すると……終わりそうで」
「何がです?」
「……分かりません」

また分からない
だが……それ以上聞く気にならなかった

また沈黙になった
今日は……なぜかその沈黙が長く感じる

悪い意味ではない
ただ、妙に意識する

やがてみのりさんが小さく言った

「……今日はここまでで」
「ええ」

二人で歩き出す

帰り道

いつも通り、ほとんど喋らない
だが今日は、少しだけ気になる
隣にいる気配を、いつもより強く感じる

門の前で止まる

みのりさんがこちらを見る
その顔は、少しだけ迷った顔だ

「高瀬さんは……」
「何です?」

みのりは小さく言った

「……練習しやすいです」

それだけ言って、軽く頭を下げた
そしてそのまま帰っていく
私はその背中を見送りながら思った

変な言い方だ

褒めているのかどうかも分からない

だが……少し嬉しいと思った

なぜだ?

ただ練習相手に向いていると言われただけだ
それなのに妙に残る

私は空を見上げた

みのりさんは何を考えているのか分からない

好きなのか?
好きじゃないのか?

本気なのか?
練習なのか?

何一つはっきりしない

だからだろうか

少しだけ……気になる

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