【愛してるって、言わせてみせる】第4章 「怒りを恋と間違えさせようとしてくる奴」
第4章テーマは、誤帰属理論 × 感情転移
誤帰属理論は【本来の原因と違うものに感情を帰属させてしまう】というものです
感情転移は【他の感情(怒り・悲しみなど)が恋愛感情にすり替わる場合がある】というものです
しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります
それでは、第4章 「怒りを恋と間違えさせようとしてくる奴」をお楽しみ下さい
前回のあらすじ
その日、桐生美琴は朝から機嫌が悪かった
数学の小テスト、解答ミス
靴箱で他人の靴に押し込まれていた上履き
コンビニで買った昼食には、なぜかフォークが入っておらず
そして極めつけは、朝倉理人のひと言だった
「ねえ桐生さん、今日すごいオーラ出てるね。“戦闘力53万”って感じ」
「……お前の冗談、全部地雷踏んでるって気づいてる?」
「つまり、感情が動いてるってことだよね?」
「は?」
理人の目は真剣だった
どこかで見たことのあるノートを手に、なにやら記録している
「“人間は、強い感情を抱いたとき、それを恋だと誤認することがある”
これ、誤帰属理論って言うんだけど」
「まさか、今日の私で試してる?」
「そう。実験は環境が整ってこそ成立する
怒り・苛立ち・不満がMAXの今こそ、チャンスだと思って」
「チャンスって言った!? 今、チャンスって言ったね!?」
「うん。“感情転移”と“誤帰属”が同時に発生すれば
君が感じているこの強いイライラ、全部“俺への感情”に変換されるかもしれない」
「変換されないし、むしろ殴りたい」
「それも立派な“感情の動き”です。ほら、ちゃんと俺を意識してるでしょ?」
「そういうのは“意識”って言わない」
彼女は呆れながらも、席につく
隣の理人は、まるで計算式のように彼女の言動をメモし続ける
(今、彼女の感情は負に振れてる。でも大丈夫。問題はその“向き”じゃない)
(大事なのは、“誰に向いているか”だ)
授業が始まる
だが美琴の集中は途切れがちだった
隣の理人が、こそこそと何かを書いているのが視界の端に入ってしまう
(……こいつ、絶対また変な観察してる)
イライラ。ムカムカ
けれど、その苛立ちの行き先がはっきりしていることが
逆に彼女の中で、理人の存在を際立たせていった
そして放課後
廊下を歩く彼女のもとに、理人が近づく
「ねぇ、もし今の気持ちが“怒り”じゃなくて“恋”だったらって考えたことある?」
「ないし、考えたくもない」
「でも、怒ってるときの心拍数って、恋してるときと変わらないんだよ。
どっちもドキドキするでしょ? つまり――」
「ドキドキしたら全部恋って言うな!」
「でも、今日一日中俺のこと考えてたよね?」
「……!」
その言葉に、美琴は一瞬、固まった
理人の言葉に、桐生美琴は動きを止めた
言い返そうとしたその口が、わずかに震える
「……それは、ムカついたからであって」
「でも、ずっと“俺のことを意識してた”ってことだよね?」
「違う。“意識”じゃなくて“監視”よ。もはやセキュリティのレベル」
「それでも“俺が君の中にいた”ってことには変わりないよね」
「は?」
理人は一歩、彼女に近づく
その距離は、明らかに近すぎた
美琴が軽くのけぞるほどの距離で、理人は笑う
「怒りでも、イラつきでも、不満でも……
感情が強ければ強いほど、“誰に向けたものか”ってのが重要になるんだ」
「それ、どうせまた心理学の話でしょ?」
「うん。“誤帰属理論”と“感情転移”
本来、別のことに対して抱いた感情を、“近くにいる誰か”にすり替えちゃうってやつ」
「……だから何? 私が“怒ってた”のは、全部お前のせいって?」
「違うよ。“君の怒りが、もしかしたら恋かもしれない”って話」
「なにそれ、意味わかんない」
「じゃあ、たとえば――」
理人は唐突に、美琴の肩に手を置いた
予想外のスキンシップに、彼女はびくっと肩を跳ねさせる
「……な、なにしてんのよ」
「今、心臓バクバクしてない?」
「それは……突然触ってきたからでしょ!」
「でもそれ、恋と同じ反応なんだよ
ドキドキして、頭が真っ白になって、言葉が詰まって……」
「うるさいっ!」
彼女は理人の手を振り払い、一歩下がった
頬は赤く、視線は定まらず、息も荒い
その全てが、まるで――“恋に落ちた人”のようだった
「……わかった」
「え?」
「わかったって言ってるの。“はいはい、ドキドキ=恋、ってことにしといてあげる”」
「つまり、“恋”ってことでいいんだね?」
「誰が言ったよ!」
「言ったよ。“しといてあげる”って」
「そういうの、屁理屈って言うのよ!」
「でも君は今、怒りながらも俺の目をちゃんと見てる
……つまり、“意識してる”ってことだよね?」
美琴は、しばらく黙った。
「……あんたって、ほんと、面倒くさい」
「それ、褒め言葉として受け取るね」
彼女はふいに背を向けると、歩き出した
けれども、立ち去るその背中はどこか――
楽しげに、弾んでいた
理人は、静かに呟いた
「感情って、ラベル一つで意味が変わるんだよ
君がまだ気づいてなくても、俺は知ってる
それはもう、恋って名前でいいって」
彼の視線は、まっすぐ彼女の背中に向けられていた
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