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【あなたのくれたスイーツが、今日も苦い】第2章 「同じもの・同じ顔」

第2章テーマは、ラポール形成(信頼関係の構築)

ラポール形成は【相手との安心感や信頼感がある状態(ラポール)を築くこと。ラポールが形成されると、相手との会話や関係がスムーズに進む。】というものです

しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります

それでは、第2章 「同じもの・同じ顔」をお楽しみ下さい

前回あらすじ

 「“味の感想”って、個性が出ますよね?」

朝のくすの木で、しのが言った。カウンター越しに、今日のスイーツ“しょうゆプリン”を出しながら

「昨日のお客さま、“懐かしい味”って言ってて。けどその前の方は“新時代の狂気”って」
確かに、しょうゆプリンという文字列だけで胃がざわつく。だが、ここで怯んでは進まない。僕は決めた
彼女との“感想”を一致させる。それが今日の目標だ

「ぼくも、それ……いただきます」

一口。塩気が広がる。プリンの甘さを追いかけるしょっぱさ。そして、ほんのり焦げたカラメルの奥に――なるほど、和風の深みを感じる気が……する

「うん、これは……うまいような、戸惑うような……」

しのは、少しだけ首をかしげたあと、笑った

「高嶺さんって、いつも“真剣に迷子”みたいな顔しますよね。好きです、そういうとこ」

それ、褒められてますか? いや、褒められたと思っておこう

でも――迷ってる場合じゃない。今日の僕には、秘密兵器がある

放課後、僕は喫茶店から出たあと、鞄から取り出した。それは、“スイーツ専用リアクション練習ノート”

昨日から、味のバリエーションと、それに対応する表情とセリフを全32種、書き出している。味覚の言語化を体系化し、感情の波長を合わせるための訓練だ

明日は絶対、彼女と「同じ感想」で笑い合ってみせる

翌日

「今日のおすすめは、“黒酢抹茶ムース”です♡」

来た。想定外だ。ノートにない

「……う、うまく……発酵してる、と思います」

苦し紛れの一言に、しのは真顔で頷いた

「そうなんです、発酵って、いいですよね。わたし、人の関係性も発酵すると思ってて」

“関係性の発酵”? 新しい概念きた

「熟成すると美味しくなる、みたいな」

意味はよく分からないけど、ちょっと嬉しい

「ちなみに、今日このあと、犬のおまわりさんが来るんです」

「……え?」

「お店の裏にずっといた迷い犬、届けに行こうと思って」

数分後、僕はなぜかしのと一緒に、犬を抱えて交番へ向かっていた
ふわふわした柴犬。しののエプロンに顔を埋めている。僕の服には毛が大量についた

「……あれ? このワンちゃん、昨日も見た気がする」

「うちのプリンのにおいに惹かれて来たのかもですね」

もしそうなら、味覚だけでなく嗅覚のチャレンジャーでもある

交番前で、若いおまわりさんに無事引き渡したあと、しのが言った

「なんか、こういうのって、ちょっと絆っぽくないですか?」

そう言って、彼女は軽く僕の袖を引いた。手じゃなくて袖。距離感が微妙にズレてる

「一緒にワンちゃん届けてくれる人って、なかなかいないですよ? 高嶺さんって、変わってますね」

……たぶんそれ、褒めてない。けど、嬉しかった

「はいっ、本日のおすすめスイーツは“からしきなこ餅”です!」

また新しい刺客が来た
もはや甘味なのか、罰ゲームなのか。だが、今日は違う。僕には“ある作戦”がある

僕はカバンから、こっそり取り出す。――“感想テンプレートカード”
 

彼女のこれまでのコメントを記録し、傾向から導き出した「しのがよく言いそうな感想」をまとめた30枚

その中から、今日に最も適した一枚を選び出す。

【甘味の中に、戦う意思を感じます】
完璧だ

「いただきます」

ひと口。まずきなこ。甘い。次にからし。戦慄。からし。からし。からし。餅どこいった

だが、笑顔を崩さない。これは試練。表情筋の忍耐だ

「……甘味の中に、戦う意思を感じます」

ふうっと一息。言えた。すると、しのが目を丸くする

「えっ、それ……わたしが今朝、試作品に言った言葉です」

まさかの一致。ニアピンどころかド真ん中。まさか本当に使っていたとは

「なんで分かったんですか!? もしかして、テレパシー的な……?」

「いや……まぁ、たまたまというか……」

僕はカードを懐に戻した。危なかった。あと2枚でネタ切れだった

「うれしいなぁ……同じ感想を言ってもらえるって、心が通じ合ってるみたいで♡」

しのは無邪気に笑った。僕の脳内では祝福のファンファーレが鳴り響いていた

「そういうのって、積み重ねだと思うんです。毎日、味覚で会話してるみたいな」

……味覚で会話。すごいパワーワードだ

「じゃあ、次は“味のハーモニー”を感じてもらいたいですっ」

その笑顔が、ちょっとだけ悪魔のそれに見えたのは気のせいだろうか

数日後、事件は起きた

「高嶺さん、スイーツの感想、ちょっと変わりました?」

えっ、バレた? いや、今朝の“チョコレートポン酢ゼリー”に対して、僕はちゃんと“和洋折衷の新しい可能性を感じます”って言った

それ、カードNo.17。しのの過去発言から導いたはずの一文だった

「……最近、“わたしの言いそうなこと”を先に言われる気がして」

冷や汗が背中を伝う。彼女は静かに続けた

「うれしいです。でも……ちょっとさびしい、かも」

……あ

僕は、彼女の感想に“寄せすぎて”いたのかもしれない
本当の共感って、そういうことじゃないのかも

「ごめん、しのさん」

思わず名前を呼んだのは、たぶん初めてだ

「ぼく、本当は……苦手な味、多いです。けど、しのさんが嬉しそうに出してくれるから、なんか、頑張ってました」

彼女は少し驚いたように瞬きしたあと、笑った

「それ、わたし、すごくうれしいです。……でも、がんばりすぎてお腹壊さないでくださいね?」

「もうすでに、少し壊れてます」

「ええっ!? 本当に!?」

急に心配されて、なんか申し訳なくなった。でも、心は少しだけ軽くなっていた

「じゃあ、明日はお腹にやさしいの、考えてきますっ」

そして翌朝

「できました、“湯豆腐風わらびもち”です!」

やっぱり優しさの方向、独特だった

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↓第2章オマケを動画にて公開 気になる方はcheck↓


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