第3章『球技』終節:走る理由が増えた日【ケンタウルスストーリーイベント】
夕暮れの春日公園は、昼間の熱気が嘘のように静かだった
私は一人、芝生の縁に立ち、今日一日を思い返していた
「……よくやりましたね、私」
思わず小さく呟く
走ることしか知らなかったはずなのに……
他の競技にまで真剣になっている自分が少し可笑しい
「振り返りは大事よ」
いつの間にか、迷子さんが隣に立っていた
「今日使った球技場の予約、覚えている?」
私は静かに頷く
「球技場と野球場、テニスコートは『福岡県営都市公園 スポーツ施設等利用サービス』から申し込み。本人登録が必要で、毎月一日から五日が抽選申込。七日から意思表示でしたよね」
「ええ。入金は前月十五日まで。払い戻しは原則なし」
「野球場はグラウンド不良時のみ返金。使用後は整備必須。テニスは前日までに支払い、キャンセルは早めに」
「ゲートボールは三十日前から三日前までに届出。二時間単位。利用後はネットの取り付けと整備」
*公園内行為届出書(その他の催し)はこのサイトよりダウンロードできます
口が勝手に動く
「随分、覚えたわね」
「走る場所は、正確に把握しておきたいので」
自分でも、真面目すぎると思う
迷子さんは微笑む
「最初は“わざわざ球技をしなくても”って顔をしていたのに」
図星だ
私はゆっくりと、フィールドを見渡す
拡張された野球場のフェンス
横に広がる球技場の人工芝
30メートルのテニスコート
70ヤードのアメフトフィールド
そして、25メートルのゲートボールコート
どれも、最初は自分の場所ではないと思っていた
けれど……
バットを振り、外野を駆け抜けた
縦パスを追い、ゴールネットを揺らした
ラリーの沈黙に身を置き、角度で突破した
三秒止まり、優雅さを競った
そのすべてが、真剣だった
「……不思議ですね」
「何が?」
「走る理由は一つでいいと思っていました。でも、増えてもいいんですね」
迷子さんは何も言わず、ただ頷く
私は蹄で芝を軽く踏む
この世界は、速すぎる
強すぎる
だからこそ、抑える
だからこそ、工夫する
「私は、少しだけ……この世界の虜になっているのかもしれません」
「少し……ね」
迷子さんは意味深に笑う
遠くで、金属バットの乾いた音が響いた
胸が、わずかに高鳴る
走るためだけではない
この場所で、また何かを試すために
私は静かに前へ出る
春日の球技場に、夜がゆっくりと降りてきた
今回の記事で【第3章『球技』】は終了です
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