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【君の理想が、波になって還る夜】第4章 「癒したくて、壊したくなる夜」

第4章テーマは、ナイチンゲール効果(Nightingale Effect)
ナイチンゲール効果は【“看護師と患者の恋”で知られるこの効果は、人は「弱っている人」に対して好意を抱きやすいという心理的傾向を指す】というものです

しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります

それでは、第4章 「癒したくて、壊したくなる夜」をお楽しみ下さい

前回のあらすじ

「女の子はね、守ってあげたい人より、“守ってあげたくなる人”に弱いんだよ」
昔、灯花がプリンをこぼした俺に、妙に得意げに言ったのを覚えてる

当時の俺は鼻で笑ったけど
あの言葉が今ごろになって、じわじわ効いてる

《涙は、最大の武器》
《か弱さは、信頼される入り口》

……つまり、俺が“ダメ男”になればなるほど
トウカは俺を放っておけなくなるってことじゃないか?

よし、今夜は――全力で弱る

「なあ、最近、ちょっと寝れてなくてさ……」

海辺に座ったトウカに、開口一番、低音ボイスで訴えかける
不眠アピール。第一波だ

「……そうなの?」

「うん、夜になると、灯花のこと思い出しちゃって……涙とか……自然に、こう……出るというか……」

「……」

「ほら、今日も……涙、出そうだし……出るかも……いや、たぶん出る……」

「出てないわよ?」

「……ッ、いや、内側で泣いてる」

内なる涙って言葉、ある意味便利だ

「それにさ……最近、食欲もなくて
この缶詰も、たぶん……今日は、開けられないかもしれない……」

「……さっき自分で開けてたけど」

「それは反射的な動作」

必死すぎて、自分でも少し笑えてきた

「……とにかくさ、孤独ってさ、怖いよな
誰かがそばにいてくれるって、大事なことだと思うんだよ
もし、今、そばにいてくれる誰かがいたら……俺、多分……救われると思う」

言い終わったあと、沈黙

……完璧だ
このレベルの情緒不安定アピール
トウカの優しさに火をつけるに違いない

「……ねえ、拓」

きた

「はいっ(小声)」

「あなた、今……ものすごく演技が下手よ」

「えっ……」

「でも……それでも、少しだけ、心配になるのよ。不思議と」

トウカはそう言って、そっと隣に座った
その手に触れるわけでもなく、ただ、近くにいてくれた

そして、静かに、目を伏せて

ぽろ、と

涙が、ひと粒
それは、月明かりを弾いて――小さな真珠になった

……これが、トウカの涙
あまりに綺麗で、あまりに重い

その瞬間、なんだか胸の奥がギュッと締め付けられた

「どうして……泣くんだ?」

「わからない。あなたを見ていたら
……どうしようもなく、泣きたくなったの」

その声は、震えていた

だが俺は、ここで立ち止まれない
妹のことを、もっと深く語れば――もっと彼女は、俺を想ってくれる

そう信じて、俺はまた口を開いた

「……灯花はな、最後まで俺を“ヒーロー”だって言ってくれてたんだ」

「…………」

「でも、俺は助けられなかった
だから……俺みたいなやつが、今さら誰かの隣にいていいのかなって、ずっと思ってる」

「…………」

トウカは何も言わない
ただ、じっと俺の方を見ていた

目の奥に、何か言いたそうな光が灯っていた

そのときの俺は、まだ気づいてなかった
その光が、“焦り”の色だということに

弱い男のほうが、守りたくなるって――
そう信じてた。信じたかった

だから俺は、さらに弱ることにした

「朝もさ、ひとりで目覚めるのが怖くて
スマホのアラーム、6種類くらい設定してんだ……」

防波堤の上で、缶詰のスプーンをくるくる回しながら、俺は言う

「ひとりでごはん食べるのもさ……あれ、食ってるうちに涙の味しかしなくなるっていうか……」

「それ、味つけ関係なくなってない?」

「……うん。最近は“心で食べる派”に転向した」

トウカはスプーンを止めて、じっとこちらを見た

「それ、もう“派閥”じゃないわよ。病み寄りの哲学よ」

「……病み哲学か、いい響きだな」

「よくないわよ」

それでも、トウカは隣にいた
沈黙しながらも、ときおり俺の話に苦笑して
ちゃんと、耳を傾けてくれていた

それが――逆に、怖かった

この人、どこまで優しくなれるんだろう
俺の“悲しみアピール”に、どこまで付き合ってくれるんだろう

怖いのに、やめられなかった
もっと弱さを見せれば、もっと心を引き寄せられる気がして

だから俺は――言ってしまった

「……正直、今でも……トウカのこと、“灯花の理想像”に見えてるんだ」

「……」

「お前を見てると、あいつの“なりたかった未来”が重なるんだ
たぶん、俺は……お前を、あいつの続きとして見てるところがある」

言った瞬間、自分の声が妙に冷たく感じた

トウカは、何も言わなかった
ただ、潮風がふっと吹き抜けたあと
彼女の目が、そっと伏せられた

「……あなたの気持ち、わからなくはないの」

その声は、優しかった

「理想にすがりたくなる気持ちも
誰かの面影に、何かを重ねる気持ちも……私、少しは理解できる」

俺は思わず身を乗り出す

「じゃあ……!」

「でもね」

トウカが静かに続けた

「私は、“誰かの代わり”で生まれてきたわけじゃないの
たとえ、そう見えたとしても……私自身として、ここにいるの」

その言葉に、胸のどこかがズクンと痛んだ

「あなたが私を妹の延長でしか見られないなら……」

その瞬間、トウカの頬をまたひと粒、真珠が転がり落ちた

だが、それはさっきまでの“優しい涙”とは違った
もっと――鋭くて、静かな“訴え”のように見えた

「俺……」

気づけば、言葉が喉に詰まっていた
うまく返せない

トウカは、真珠を拾い上げ、海にそっと投げた

ぽちゃん、と小さな音がした

それはまるで、“何かを戻した”みたいな仕草だった

「あなたが泣くことも、弱くなることも、全部いいと思う
でも、誰かの影に私を閉じ込めないで
私の声も、姿も、存在も……全部、ここにあるのよ」

俺は――何も言えなかった

気づけば、缶詰は冷めていた
気づけば、三味線の弦が少し緩んでいた

あんなに言葉を尽くして、弱さを演出して
それでも“本当の想い”は――たった一言も伝えられてなかった

「……ごめん」

ようやく絞り出せたその声だけが、今夜の俺の、すべてだった

次章へ

↓最後に、第4章のイメージ楽曲をお楽しみ下さい↓


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