【ヒロインは全部計算で動いてる】第2章 「会いに行きすぎる女」
第2章テーマは、単純接触効果(ザイアンス効果)
【会う回数が多いほど好感度が上がる】というものです
しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります
それでは、第2章 「会いに行きすぎる女」をお楽しみ下さい
前回のあらすじ
朝のホームで、また彼女がいた
月島さゆり。前に“偶然”を重ねてきた、あの不思議な女の子だ
「おはようございます。今日も、ですね」
軽やかな声に、俺は思わず「またか…」と呟いた
あれ以来、彼女との遭遇は“偶然”というより“日課”になっていた
登校中、昼休み、放課後――
彼女はまるで俺のスケジュールを把握しているかのように、あらゆる場所に現れる
最初は驚いた。でも、徐々に慣れてきてしまったのが怖い
昼休み。俺がよく行く購買のベンチに座ろうとしたとき
既にさゆりが手を振っていた
「ここのカレーパン、あなたが毎週金曜に買ってたから、私も食べてみたんです」
「……それ、俺が買ってるの見てたの?」
「うん、毎週。好きなものは知っておきたいじゃないですか」
その目は真剣で、冗談めかした軽さはなかった
放課後。俺が通っているジムに、なぜか彼女がいた
「わ、奇遇ですね! 体動かすの、気分転換になりますよね~」
「……入会したの?」
「昨日!“体験だけ”のつもりだったんですけど…あなたに会えたから、続けてみようかな」
偶然を装う余地すらない、あからさまな“侵入”
俺は内心で警戒のアラームを鳴らしつつも
その一途さにどこか心を揺さぶられていた
そして次の朝
俺が通っている本屋のレジに、さゆりが制服姿で立っていた
「今日からここでバイトなんです。…偶然ですね?」
もう偶然って言うな
冷静になれ俺
これ、完全におかしいだろ
でも、こうして毎日顔を合わせるうちに――
俺の中の“日常”が、彼女で満たされ始めていた
「なんでまたお前がいるんだよ…」
思わず、口に出してしまった
日曜の朝。俺は家から少し離れた静かな図書館に来ていた。誰にも会いたくなかった。ただ、静かに本を読んで、少し考え事をしたかっただけなのに
月島さゆりは、もうそこにいた
「ここ、落ち着くって聞いて。もしかしたら来てるかな、って思って」
「それ、偶然じゃねぇよな?」
彼女は一瞬、目を伏せた。そして笑う
「うん。もう“偶然”って言っても信じてくれないと思って」
開き直ったその笑顔は、逆に潔くて、少しだけ可愛く見えてしまった
「私、毎日あなたに会いたくて。そしたら、だんだん“会わない日”が不安になってきたの」
――会わない日が不安
その言葉が、妙に胸に残った
彼女は続けた
「私が現れるたびに、迷惑だった? 重かった?」
「……正直、最初はちょっと怖かった」
彼女は小さく笑った。「やっぱり」
「でも…」俺は視線をそらしながら、言葉を続けた。「慣れてきたというか……いないと、変に気になるようになってきたのも、事実で」
彼女が小さく息を呑む音が聞こえた
「それって、悪くない変化かな?」
「……うん」
図書館の窓から差し込む光が、彼女の髪を柔らかく照らしていた
接触回数が多いと好感度が上がる――それが単純接触効果という心理現象だ
だけど、これは理屈じゃなかった。実際に何度も会って、話して、表情を見て、少しずつ心が動いていた
“重い”と“恋しい”は、紙一重なのかもしれない
彼女がポツリと呟く
「私ね、“普通に出会って、普通に好きになる”ってできないの。だったら、何度でもぶつかって、すり減って、それでも会いに行くほうが…私には自然なの」
「……お前、ちょっと壊れてるよ」
「うん。でも、その壊れ方、あなたにだけ見せたかった」
俺は、少しだけ微笑んでしまった
本当はおかしい
冷静に考えれば、彼女の行動はちょっとどころか、かなり異常だ
だけど、それでも――会えない日のほうが、今は怖い
「じゃあさ、来週も来る?」
彼女は、静かに首を縦に振った
「…もちろん。私、まだ“普通”にはなれないから」
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