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【私だけに向けられる意地悪】第4章 「期待に縛られて、それでも」

第4章テーマは、ピグマリオン効果(Pygmalion Effect)
ピグマリオン効果は【周囲から期待をかけられると、その期待に応えるように成果が向上する心理現象】というものです

しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります

それでは、第4章 「期待に縛られて、それでも」をお楽しみ下さい

前回のあらすじ

高校を卒業してすぐ、私はカフェで働き始めた
アルバイトというよりは、ほとんど生活費の足しにするため。制服代わりのエプロンは毎日コーヒーの香りに染まり、閉店間際になると指先までカフェオレ色になったように感じた

そんなある晩、ふらりとパパがやってきた。工事現場帰りで、まだヘルメットの跡が髪に残っている。制服のシャツは少し土埃でくすんでいて、まるで工事現場の空気をそのまま持ち込んだみたいだった

「よぉ、葉乃。まだやってんのか」

カウンターに座るなり、ニヤリと笑った

私は疲れた顔のままグラスを拭いて答える

「見りゃわかるでしょ」

パパはしばらく私を眺めてから、わざとらしく肩をすくめて言った

「お前はさ、こんなとこで終わる奴じゃねーだろ」

……カフェで真面目に働いている人に言う台詞じゃない。思わずタオルを投げつけそうになった

「何それ、バイト馬鹿にしてるの?」
「馬鹿になんかしてねぇよ。ただ――似合わねぇって思っただけだ」

その言い方が腹立たしくて、同時に少しだけ胸の奥に引っかかった

閉店後、家に帰って部屋のパソコンを立ち上げる
疲れ切ったはずなのに、なぜか椅子に腰を下ろすと手が自然にマウスに伸びる

――こんなとこで終わる奴じゃねぇ――

パパの言葉が耳に残っていた。からかうようでいて、妙に本気で、どこまでも強引に押し付けてくる期待

「……何よ、余計なお世話」

口ではそう呟きながらも、編集ソフトのタイムラインには次々と素材を並べていく

翌日も同じだった。仕事でヘトヘトになり、足が棒のようになって帰宅する。それでも夜になると、パパの言葉を思い出すたびにパソコンの前に座る自分がいる

正直、根拠なんてどこにもない。パパは鳶職で、編集の知識なんてまったくない。それなのに――

「お前はもっとできるだろ」
「こんなもんで満足する女じゃねぇよ」

と、根拠のない期待を押し付けてくる

冷静に考えればただの迷惑な口出しだ。だけど、不思議とその言葉は私の背中を押していた

ある晩、編集に行き詰まってため息をついていると、パパからメッセージが届いた

『寝てんじゃねーだろな。お前はまだやれる』

私は思わず吹き出した。なぜバレてるの、と思いながらも、指先はまたキーボードを叩き始める

「ほんと、勝手なんだから」

文句を言いつつ、画面の中で映像が形を成していくたびに、心のどこかでパパに感謝している自分がいた

――パパの期待に縛られて、それでも私は前に進んでいた――

ある夜、閉店後にカフェの裏口を出ると、工事現場帰りのパパが立っていた。作業服の袖をまくり上げ、手にはスポーツドリンクのペットボトル。まるで差し入れでも持ってきたかのように見えたけど、実際は自分用らしかった

「何でここにいるのよ」
「通り道だ。で、今日も終わった顔してんな」

その言い方がまた癪に障る

「終わった顔って何よ」
「いや、お前は終わんねぇだろ。どうせ家帰ったらパソコンの前だ」

図星だった。何も言い返せず、私は顔を背けた

「なあ葉乃」

パパはいたずらっぽく笑う。

「俺、正直編集のことなんて一ミリもわかんねぇけどさ。お前が夜な夜なやってるの、無駄じゃねぇと思うんだ」

何の根拠もない言葉。けれど、胸の奥にじんわり染み込んでいく

「……そういうこと簡単に言わないでよ」
「簡単に言ってねぇよ。本気だ」

妙に真剣な目を向けてくるから、余計に照れくさい

その夜も、帰宅すると自然に机に向かっていた。映像編集は思うように進まなかったけれど、パパの顔が浮かぶと「やめたら負けだ」と思えて、手を止めることができなかった

翌日、パパはまたカフェに来た。今度は休憩中の私にわざわざ声をかける

「なあ、今度のやつ見せろよ」
「……え、まだ途中だし」
「途中でいいんだよ。俺は完成形より頑張ってる途中が好きだからな」

そんな理由ある? 呆れながらも、スマホで途中の動画を見せると、パパは目を輝かせて言った

「やっぱすげーな! ほら見ろ、俺が言った通りだろ!」

まるで自分の手柄みたいに胸を張る。その図々しさに腹が立つのに、不思議と悪い気はしなかった

「ほんと勝手だよね」
「勝手じゃねぇよ。俺の確信だ」

その真剣さが可笑しくて、思わず笑ってしまう

夜、また編集画面と向き合う。手が止まりかけても、頭の片隅でパパの言葉が繰り返される

――お前はこんなとこで終わる奴じゃねぇ――
――やっぱすげーな――

無根拠な期待が、鎖みたいに私を縛る。でも同時に、それは背中を押す手にもなる

画面に映し出された未完成の作品を見つめながら、私は小さく笑った

「……ありがと。ほんと、変な人」

その声は自分だけに聞こえるほどの小さなものだった

こうしてまた夜が更けていく
パパの期待に支えられながら、私は少しずつ、自分の夢を守り直していた

次章へ

↓最後に、高校卒業後の葉乃のイメージ楽曲をお楽しみ下さい↓


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