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【答えはあとで】第1章 「一日後の縁側」

第1章テーマは、受容的一貫性効果(Consistent Acceptance Effect)
受容的一貫性効果は【人は「受け入れられた状態」が一貫して続くと、その関係や相手を“安全で正しいもの”として内面化しやすくなる】というものです

しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります

それでは、第1章 「君のすべてが“ありがち”に見える」をイメージ楽曲と共にお楽しみ下さい

↓第1章のイメージ楽曲↓

前回のあらすじ

朝の西園寺家は、やけに整っていた
音も匂いも、人の動きも、全部が「決まったあと」みたいだった

私は、いつも通りの軽い和服で廊下を歩く
決まった空気の中を、決めていないまま歩く感じは、嫌いじゃない

姉様たちは、もう平常運転だった

綾乃姉様は、朝食の段取りを確認しながら、次の予定を頭の中で組んでいる顔をしている

千鶴姉様は、今朝の光を見て「この時間も、きっと後で懐かしくなりますね」と微笑んだ

澪姉様の手元には、相変わらず紙が多いが、昨日より一枚多い気がした

琴葉姉様は、まだ起きていない縁の話を、もう整えている表情だった

(またそれか)

そう思ったけど、口には出さない
何もしないのが、私のやり方だ

朝食の席で、空気はゆっくり形を作り始めた

「お茶は、濃い方がよろしいですか?」
「部屋の設えは、もう整えています」
「挨拶回りは、来週からでも問題ないでしょう」

誰も私に命令はしない
でも、全部が「そうなる前提」で進んでいる

私は箸を止めて、少し考えたあと、笑った

「私、別に変わらないよ?」

それだけ言った
否定もしないし、肯定もしない
ただ事実

そのとき、幸次さんが座敷に入ってきた

昨日と同じ、落ち着いた羽織袴
でも今日は、もう“候補”じゃなくて、“そういう人”として迎えられている

姉様たちの言葉は、自然と彼にも向かう

「こちらの流れとしては――」
「形としては、こうなりますね」

幸次さんは、うなずく。でも、深くは踏み込まない

「そういう考え方も、ありますね」

それだけ

綾乃姉様にも……
千鶴姉様にも……
澪姉様の沈黙にも……
琴葉姉様の微笑みにも……

同じ調子で……

変だな、と思った
誰の言葉も、軽くも重くもならない

だから、私は試したくなった
面白いかどうか、それだけ

「ねえ」

私は箸を置いて、幸次さんを見る

「昨日のって、ほんとに私でいいの?」

部屋の空気が、少し止まった

幸次さんは、困った顔をした
でも、逃げる顔じゃない

「はい。花さんがいい、と思っています」

理由は言わない
熱も、勢いもない

それなのに……決まっている

私は勝ったつもりだった
揺らすつもりだったのに、揺れなかった

(……この人、私を掴まないのに、掴んでる)

それが、ちょっとだけ気持ち悪かった

私は立ち上がる

「そっ、じゃあ散歩してくる」

空気から逃げるための言葉だった

「よければ、ご一緒しても?」

幸次さんが、自然に言う
誰にも向けていないみたいな声で

私は肩をすくめた

「いいよ。暇なら」

ただ許しただけ
なのに、気づいたら、最初の一歩はもう二人分になっていた

縁側は、昼前の光でぼんやりしていた
庭の砂利は誰も踏んでいないのに、風だけが音を立てている

私は腰を下ろして、足をぶらぶらさせた
幸次さんは少し離れて座る

近すぎもしないし、遠すぎもしない

「鳥、今日やたら多くない?」
「そうですね。集まっているように見えます」
「風もさ、変な向き」
「確かに。庭の奥だけ強いですね」

どうでもいい話
意味も落ちもない

普通なら、沈黙が挟まる
でも、この人は黙っても変わらない

だから、少し強い球を投げた

「結婚ってさ、楽しいの?」

自分でも雑だと思った
でも、だいたいの人はここで逃げる
説教か、理想か、照れ笑い

幸次さんは、少し考える

「楽しいかどうかは……大事だと思います」
「ただ、今の僕には、まだ分からない」

分からない、で止めた
誤魔化さないし、広げない

私は鼻で笑う

「ふうん。正直だね」

少し間が空いたから、いつもの言葉を落とす

「好きなら一緒にいればいいし、嫌なら離れればいいでしょ?」

これを言うと、だいたい相手は困る
自由を与えるふりをして、縛れるから

でも幸次さん……

「そうですね」
「離れたい時は、そうします」

同じ形で返された
ねじれないまま

私は、なぜか落ち着かなくなった

今までの肯定は、だいたい先が決まっていた
包むふりをして、出口を消す

でも、この人の言葉には、続きがない

だから、少し意地悪を言う

「……じゃあさ、私が離れたら、追わないんだ?」

幸次さんは、焦らない
でも、目を逸らさない

「追うかどうかは……その時の僕次第です」
「ただ……花さんが離れたことを、悪いとは思いません」

私は返す言葉を探した
でも、見つからなかった

いつもなら、「ふうん」で終わる
今日は、それが出ない

視線を庭に逃がして、ぽつりと落とす

「……変な人」

幸次さんは、少しだけ笑った

「そうかもしれません」

否定しない
訂正もしない

私は立ち上がる
そろそろ戻る時間

幸次さんが先に歩こうとする前に、私が一歩出た
振り返らずに言う

「ねえ。明日も、ここに来る?」

返事はすぐじゃなかった
でも、逃げもしなかった

「はい。花さんがよければ」

それだけ

私は小さく頷いて、歩き出す

まだ、何も決めてない
でも、何もしないまま、日常だけが一つ増えた

それが、少しだけ可笑しかった

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