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【答えはあとで】第2章 「間(ま)」

第2章テーマは、情動ミラーリング遅延(Delayed Affective Mirroring)
情動ミラーリング遅延は【相手の感情に即座に同調せず、わずかに遅れて反映することで、相手は「理解された」と感じつつ、感情を自分で整理し直す】というものです

しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります

それでは、第2章 「間(ま)」をイメージ楽曲と共にお楽しみ下さい

↓第2章のイメージ楽曲↓

前回のあらすじ

縁側を歩くのが、もう当たり前になっていた

昨日と同じ時間、同じ場所
誰も声をかけないし、止めもしない
使用人も、姉様たちも
「ああ、今日もだね」という顔で通り過ぎる

私はそれを見て、少しだけ首を傾げた

(……もう“そういうもの”なんだ)

でも、深くは考えない
考えたところで、別に困らないし

縁側の板は、今日も少しひんやりしている
歩くたび、かすかに音が鳴る

空気が静かすぎたから、私は軽く話した

「昨日さ、綾乃姉様、朝から機嫌よかった」

幸次さんは、前を見たまま歩いている

「絶対“整った”顔だった」
「もう全部、頭の中で完成してます、みたいな」

皮肉でも愚痴でもない
ただの観察を、冗談っぽく投げただけ

普通なら、ここで笑う
もしくは「そうですね」と合わせる

でも、返事がない

歩調は変わらない
止まりもしない

ほんの一拍、間が空いたあとで、幸次さんが言った

「……そう見えましたか?」

それだけ

私は一瞬、首を傾げる

(あれ? 今の、笑うとこじゃなかった?)

無視されたわけじゃない
否定もされていない

でも、“軽さ”がそのまま返ってこなかった

私は少しだけ、面白くなってきた

「みんなさ」

歩きながら、もう一球投げる

「私が何も考えてないって、絶対思ってるよね」

冗談みたいな言い方
でも、中身は本音

これで説教が来たら、すぐ引くつもりだった

でも、幸次さんはまた、すぐには返さない

庭の奥から、風の音がした
砂利が、かすかに鳴る
少ししてから、静かに言う

「……考えていない、とは思っていません」

私は「じゃあ何?」と聞こうとした
でも、その前に続きが来た

「ただ、花さんは」
「考えたことを、重要だと思っていないように見えます」

私は、足を止めそうになった
でも、止めなかった

図星だったからだ
なのに、責められていない

分析されているのに、点数も、結論も、ついていない

しかもそれが、すぐじゃなくて……
“待ったあと”に返ってきた

(……今の、ちゃんと考えてから言ったよね)

私は返事をしなかった

いつもなら、「ふうん」で終わる
今日は、それが出ない

沈黙が落ちる

でも、幸次さんは、その沈黙を埋めない

歩く音だけが、続き
私の言葉は、一拍待たされたまま、まだ宙に浮いている

それが、少しだけ、落ち着かなかった

縁側の端まで来る頃には、夕方に近づいていた
庭の奥が、少しずつ影に沈んでいく
昼の音が抜けて、風の擦れる音だけが残った

私は歩きながら、気づいた
さっきから、ずっと黙っている

(……私、珍しい)

別に怒っているわけでもない
考え込んでいるつもりもない
なのに、言葉を投げる気にならない

沈黙が続いても、幸次さんは歩調を変えない
追い越しもしないし、立ち止まりもしない
並んだまま、ただ進む

それが、少し変だった

「……ねえ」

声を出すと、幸次さんはすぐにこちらを見る
でも、口は開かない

「幸次さんってさ……返事、遅いよね」

責めたいわけでも、確認したいわけでもない
ただ、浮かんだまま口に出た

普通なら、ここで言い訳が来る
「考えてから話す癖があって」とか
「失礼だったらすみません」とか

でも、幸次さんは違った

「そうかもしれません」

それだけ

私は一瞬、拍子抜けする
でも、妙に納得もした

「でもさ……」

言葉を探して、少し間が空く
自分でも、何を言おうとしているのか分からない

「ちゃんと聞いてくれてる感じ……する」

言った瞬間、胸の奥が少しだけざわついた
これ、言うつもりなかったのに

幸次さんは、すぐには返さない
視線を庭に向けたまま、ほんの少し考える

「そう感じたなら……よかったです」

感情は乗っていない
でも、否定もされていない

私は、落ち着かなくなった

安心でも、不安でもない
自分の言葉が、相手の中に残っている感じ

(なんでだろ……いつもなら、もっと軽くなるのに)

私は、急にこの空気が重く感じてきた

「まあいいや」

わざと明るく言う

「暗くなる前に戻ろ」

逃げだ
でも、この人から離れたいわけじゃない

幸次さんは、何も言わずに歩き出す
距離も、速さも、さっきと同じ

部屋の前に着いて、私は立ち止まる
このまま別れるのが……少し惜しい気がした

「明日も……来るでしょ?」

お願いでも、命令でもない
ただの確認だ

幸次さんは、一拍置き

「はい。特に予定がなければ」

その言い方が、なぜかちょうどよかった

「……そっか」

それだけ言って、部屋に入る

まだ、何も決めてない
でも私は、感情を投げても消えない相手として、少しずつ、幸次さんを選び始めている

……たぶん

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