【答えはあとで】第3章 「いつもの場所」
第3章テーマは、安定的注意配分(Stable Attentional Allocation)
安定的注意配分は【注意を強調も分散もせず、一定の密度で向け続けることで、相手は「評価されていないが、無視もされていない」状態になる】というものです
しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります
それでは、第3章 「いつもの場所」をイメージ楽曲と共にお楽しみ下さい
↓第3章のイメージ楽曲↓
前回のあらすじ
幸次さんが来て何日か経った
正確な日付は分からない
数えようともしていない
朝の用事を終えて、昼の時間をやり過ごすと、私は自然に縁側へ向かっていた
誰に呼ばれたわけでもないし、約束もしていない
(別に、行かなきゃいけない理由もないし……)
縁側は、いつもと同じだった
板の色も、庭の音も、光の入り方も
幸次さんがいる日と、いない日がある
必ず毎日、というわけじゃない
でも、いる日は決まっている
同じ場所
同じ姿勢
立ち上がらず、寄ってもこない
そこに幸次さんがいれば、私はそのまま腰を下ろす
不思議と、迷わない
幸次さんは、私を見る
じっと見つめるわけじゃない
でも、視線は外さない
向けられている感じはある
でも、押される感じはしない
私は、それを「癖」だと思うことにした
「幸次さんってさ」
縁側に座ったまま、何気なく言う
「いつも、そこにいるよね」
幸次さんは、少し考えてから答える
「はい。落ち着くので」
理由は、それだけ
「ふうん」
私はそれ以上、聞かなかった
聞いたところで、面白い答えが出る気もしない
そのまま、しばらく並んで座る
話さなくても、気まずくならない
話しても、流れる
途中で、足音がした
琴葉姉様だった
「二人とも、仲がいいのね」
柔らかい声
でも、未来まで含んだ言い方
私は無意識に、一歩だけ、幸次さんから離れた
近づきすぎた気がしたから
理由は、それだけ
でも、幸次さんは動かない
引き止めない
説明もしない
ただ、いつも通りそこにいる
琴葉姉様は、満足そうに微笑んで去っていった
その背中を見送ってから、私は気づいた
(……今、私、離れた?)
そして、なぜか、戻ってしまった
さっきより、ほんの少しだけ近い位置へ
(別に、近くにいる必要ないのに)
そう思いながら、座る
幸次さんは、何も言わない
視線も、姿勢も、変わらない
誰も決めていない
でも……気づいたら
私の座る場所は、もう、幸次さんの隣になっていた

二人の間に、会話がない時間が増えた
最初は、私のほうが少しだけ落ち着かなかった
でも、それもすぐに気にならなくなった
沈黙は、別に何かを失わせない
話さないからといって、距離が広がる感じもしない
幸次さんは、沈黙を埋めない
でも、気配が消えることもない
私は、それを確かめたくなった
ふいに立ち上がって、庭のほうへ歩く
砂利を踏む音を、わざと大きく立てる
(ついてくる? 呼ぶ?)
振り返らないまま、少しだけ待つ
でも、足音は来ない
声も飛んでこない
代わりに、背中に視線だけが残る
追ってはこない
呼び止めもしない
それなのに、見られている
私は庭を一周して、また縁側へ戻った
そして、さっきと同じ場所に腰を下ろす
幸次さんは、何も言わない
「おかえり」も、「どうしたんですか」も……ない
当たり前みたいに、そこにいる
私は、そのまま座ってから、少し遅れて気づいた
(……あれ、私、戻ったんだ)
でも、そのことを、深く考えなかった
しばらくして、ぽつりと口に出す
「……見てるよね」
幸次さんは、すぐには答えない
でも、誤魔化しもしない
「はい……見ています」
それだけ
私は、少し考えてから言った
「でもさ……じっとしてろ、って顔じゃないよね」
幸次さんは、視線を外さずに答える
「花さんが、どうしているかを見ているだけです」
評価もしない
誘導もしない
制限もしない
私は、そこでやっと気づいた
今までの自由は……“誰にも見られない”ことだった
でも、今のこれは違う
見られているのに……何も奪われない
(……なんだろこれ)
少し変だ
でも……嫌じゃない
日が傾いてきて、戻る時間になる
幸次さんが立ち上がろうとした、そのとき
「もうちょっと……いよ」
私は、こうに言っていた
理由は……ない
説明も……できない
けれど、幸次さんは、何も聞かずに座り直してくれた
「はい」
それだけ
私は、庭を眺めながら、足をぶらぶらさせる
まだ……惹かれてるとは言えない
好きかどうかも……分からない
でも、私は今日も、離れない位置を、自分で選んだ
それが、少しだけ可笑しくて……少しだけ、落ち着いた
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