【愛してるって、言わせてみせる】第1章 「Yesを3回言わせたら、付き合えると信じてる奴」
第1章テーマは、イエスセット話法 × フット・イン・ザ・ドア技法
イエスセット話法は【小さな「YES」を積み重ねることで、最後に大きな「YES」を引き出す。】というものです
フット・イン・ザ・ドア技法は【小さなお願いから始めて、徐々に大きなお願いを受け入れさせる】というものです
しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります
それでは、第1章 「Yesを3回言わせたら、付き合えると信じてる奴」をお楽しみ下さい
序章
「プリント、落ちてるよ」
朝のHR前。俺は狙い澄ましたタイミングで、彼女の席の隣に立った
床に置いた自作の“落としプリント”を、さも親切そうに差し出す
桐生美琴。理系クラスのトップ、そして男子嫌いの女王
彼女の心を攻略するには、正攻法では通用しない
だから、俺は心理学を使う
まずは、イエスセット
「うん、ありがとう」
第一の“Yes”、獲得
「それ、2年理系Bのやつだよね。前にも渡したことあるよね?」
「うん、たしかに」
二つ目の“Yes”
「ってことは、俺の顔覚えてるってことかな?」
「……まぁ、顔ぐらいは」
三つ目の“Yes”
(YESが3つ続くと、次の依頼が通りやすくなる――)
ここで次のステップ、フット・イン・ザ・ドアだ
小さなお願いから、大きなお願いへ。心理的ハードルは一段ずつ下げる
「じゃあさ、次、ノート忘れたら写させてくれる?」
彼女の眉がピクリと動く。けれども、すぐに流すように答えた
「……別に、いいけど?」
YES、4つ目
「やった、じゃあ今日の分から早速お願い」
「は?」
「あ、いや、忘れてないけど予習してなかっただけで」
「……それ“写す”って言わないよね。甘えだよね」
苦笑されながらも、俺は彼女の机にノートを借りて座る
距離:20センチ
この近さは、パーソナルスペースの外縁ギリギリ
でも、大事なのはここから
「桐生さんって、文字きれいだね」
「でしょ。美術は捨ててるけど、ノートは几帳面ってよく言われる」
「几帳面なの、素敵だと思う。俺、そういうとこ好き」
「……急に何?」
「事実を言っただけだよ。ちなみに俺、几帳面な人と相性いいらしい」
「はいはい。そういうの、血液型占いと同レベルだから」
まったく脈はない
でもいい。今日の目的は、「YESを積み上げること」と「小さな頼み事の成功」だ。
恋愛のスタートは、理論通りに進んでいる
そんな折。昼休みのチャイムが鳴る
俺はそっと立ち上がって言った
「昼飯、買いに行くけど……ついでに何か買ってこようか?」
彼女は、じっと俺を見た
「……じゃあ、カフェオレ。甘すぎないやつね」
YES、5つ目
この一杯は、ただの飲み物じゃない
これは、信頼残高の第一歩だ
午後の授業が終わると同時に、美琴はすっと立ち上がった
誰とも喋らず、まっすぐ帰り支度を始めるその姿は、いつもの彼女そのもの
だが――今日の彼女は違う
机の端に、コンビニ袋が一つ置かれていた
中には、俺が昼休みに買ってきたカフェオレ
「……ありがとう。甘さ、ちょうどよかった」
「でしょ。3秒くらい悩んだ甲斐あった」
「なにそれ、地味な努力」
そう言いながら、彼女は珍しく小さく笑った
YES。無言のYES
たとえそれが皮肉交じりでも、俺にとっては大きな一歩だった
廊下を並んで歩く帰り道
周囲からすれば、ただのクラスメイト同士だろう
でも、俺の中では明確なフェーズ移行が起きていた
「ねぇ、桐生さん」
「なに?」
「もし時間があったらさ……ちょっと寄り道しない?」
「寄り道? どこに?」
「本屋。数学の参考書、どれ買えばいいか迷ってて。意見が聞きたくて」
これは、“頼み事”としてのステップアップ
小さな「YES」をいくつも積み重ねたあとだからこそ、通る提案
彼女は少しだけ足を止めて、俺の顔を見た
「……数学、得意じゃないのに理系に行ったんだ?」
「うん、論理で恋愛を攻略したくて。古典より現実が知りたかった」
「……あんた、変な奴ね」
「それ、褒めてる?」
「どうだろうね」
彼女はそう言って、鞄を軽く持ち直す
「10分だけなら付き合ってあげる。文系男子の救済ってことで」
YES
これは、YESの中のYES
俺の仕掛けた心理トラップが、ひとつ実を結んだ瞬間だ
本屋では、実際に参考書を手に取って意見をもらった
“理系の視点”という名目で、隣に立つ時間を自然に作る
無理もなく、媚びもなく、けれど確実に彼女のパーソナルスペースに入り込む
店を出る頃には、俺の手には参考書。彼女の手には――さっきと同じカフェオレの新しいやつ
「さっきの、けっこう美味しかったから」
理由なんて、きっと本人にもよくわかっていない
でもそれでいい。感情にラベルを貼るのは、まだ少し先でいい
俺は思う
恋愛は、運命じゃない
積み上げと、布石と、計算でできている
それでも最後には――ちゃんと“好き”って言わせてみせる
理論で、心を動かすんだ
次章へ
