【嫉妬されたいから、今日もナンパしてます】第5章 「嫉妬の形が、たぶん恋だった」
第5章テーマは、他者評価欲求(Meta-Perception Bias)
他者評価欲求は【自分が他人にどう見られているか、どう思われているかに強い関心を抱き、しばしば実際よりもネガティブまたはポジティブに解釈してしまう心理】というものです
しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります
それでは、第5章 「嫉妬の形が、たぶん恋だった」をお楽しみ下さい
前回のあらすじ
ナンパを頼んできたのは、音楽サークルの後輩だった
「どうしても一度、話してみたい人がいるんです」
そう言って差し出されたスマホの画面には、ひときわ浮世離れした少女が映っていた。名前は……皇 咲良。音大の演奏科、バイオリン専攻
「うわ……レースの傘……本当に現代人か?」
海辺の遊歩道をゆっくりと歩くその姿は、どこか夢から抜け出してきたようだった
俺は少し早足で追いつき、彼女の隣を歩く
「潮風が気持ちいいですね」
ふいにそう話しかけた咲良は、優雅に微笑んだ
「はい、とても。波の音が、まるでオルゴールのように響きますね」
この人、詩人か何かなのか? でも不思議と嫌じゃない。むしろ――癒される
しばらく沈黙が続いたあと、俺はぽつりとつぶやく
「こうやって並んで歩いてると、カップルに見えるかもね」
「まぁ……そうなのですね」
咲良は頬に手を添え、静かに笑った
「けれど、似合っているでしょうか? 見た目だけでなく、空気の……相性というか」
その言葉がやけに印象に残った。似合うかどうか、か
普通は、“好きかどうか”を気にするもんじゃないのか?
「俺、誰かといるとき、無理に相手に合わせて疲れることが多いんだけど……」
波音に混ざるように、言葉が漏れる
「君と話してると、なんか、嘘つかなくてもいい気がする」
咲良は立ち止まり、俺の顔をそっと見つめた
「それはきっと、わたくしが“物語”の中の存在だからでしょうね」
「……ん?」
「本当の感情なんて、物語には不要なのです。必要なのは、美しさと調和。だから、わたくしもそうあれるように、努めていますの」
「……つまり、“素でいる”俺が似合う相手ってこと?」
「ふふ……そうかもしれませんわね」
咲良は目を細め、再び歩き出した
この人の言葉はどれもきれいで、どこか浮いている。けどそれが、心地いい
でも――
なぜだろう
すぐ隣で微笑まれているのに、なぜか遠く感じる
いや、違う
違和感の正体は、別のところにあった
俺たちの後ろ
少し離れた場所に、レモン色の麦わら帽子が見える
あれは……まさか……
「……へぇ。嘘、つかないんだ」
鳥肌が立った。背筋をなでる冷気
次の瞬間、振り返る前に聞こえたのは、あの声だった
「じゃあ私は何だったわけ?」
その声は、レースの日傘よりも鋭く、潮風よりも冷たく吹き抜けた
俺が振り返ると、そこには案の定、こまちがいた
目を細めて笑っているのに、その笑顔が一番怖い
「お兄ちゃん、もしかして今日も演技してたの? ふーん……」
声が甘ったるい。甘いのに、後味が激辛
「いや、これは――」
「へぇ? そんなに“嘘つかなくてもいい”んだぁ? じゃあ、わたしの前ではずっと嘘だったんだねぇ?」
咲良はそっと目を伏せ、微笑んだ
「ふふ……、お似合いですね、あなたたち」
それを聞いて、こまちは一瞬だけ黙った。けど、すぐに勝ち誇った顔になって俺の腕をガシッと掴む
「でしょ? だから、お兄ちゃんは私のなの♡」
「いや、俺の意思はどこいった」
「知らなーい♡」
咲良は柔らかく笑いながら、スっと後ろへ下り、僕にこう言った
「あまり彼女をからかわないで下さいね」
そう言い残して、静かに立ち去っていった
……そして、二人きり
「……あのさ、こまち。なんで今日もついてきてたんだ?」
「別に。心配だっただけ。嘘ばっかついてバカみたいにナンパして……あーもう、見てらんないの」
こまちがふくれっ面で頬を膨らませる。たぶん、怒ってる
いや、嫉妬丸出しだ
けど――
俺はそれを見て、なぜか安心してる自分に気づいた
咲良は確かに魅力的だった。綺麗で、穏やかで、幻想みたいな存在だった
でも――俺は、幻想よりも、目の前で嫉妬して暴走してるこいつの方が、ちゃんと“現実”だと思った
「……なぁ、こまち」
「なに?」
「お前さ、もっと怒っていいんだよ。独占欲とか、わがままとか……俺、そういうの、けっこう好きだし」
「……は? 変態?」
「うん。お前限定でな」
こまちは呆れたように眉をひそめたけど、その目は少し潤んでた
そして、小さく呟いた
「……あんたって、ホント、最低」
でもその声は、震えていた
「――だから、好きになったんだよ」
次の瞬間、俺の胸に小さな体が飛び込んできた
「ずっと言いたかった。演技でもナンパでもいいけど、私の前では嘘つかないで。……ずっと、そばにいて」
こまちの腕が、俺の背中に回る
「……お前がいると、毎日がめんどくさいんだよな」
「それ、褒めてる? けなしてる?」
「……たぶん、愛してるって意味」
「変換機能バグってない? でもまあ、許す」
波の音が、背景でずっと流れていた
この海辺に何度来ても、潮の香りは変わらない
でも、隣にいる人が変われば――こんなにも違って感じるんだ
俺たちは、手をつないだ
もう演技じゃなく、本音で
今までのどんな出会いよりも、やっかいで、やさしい恋の始まりだった
以上で、【嫉妬されたいから、今日もナンパしてます】の物語はおしまいです
この物語に登場する恋愛心理学の正しい使い方を知りたい方
以下リンクにて確認できます
↓最後に、第5章のイメージ楽曲をお楽しみ下さい↓
