【嫉妬されたいから、今日もナンパしてます】第4章 「誰かのために、私がいるって思いたいの」
第4章テーマは、トロイ効果(Trojan Horse Effect)
トロイ効果は【一見、無害で関係のない情報や行動の中に、本来の目的やメッセージを巧妙に忍ばせることで、相手の警戒心を解いて受け入れさせる心理テクニック】です
しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります
それでは、第4章 「誰かのために、私がいるって思いたいの」をお楽しみ下さい
前回のあらすじ
「頼む、声かけてみてくれって! ああいう子、俺ほんとタイプなんだよ!」
ビーチサンダルの鼻緒をいじりながら、友人が俺に頭を下げてくる。目線の先、砂浜をちょこちょこと動き回るポニーテールの少女
スポドリを抱え、誰かが倒れていないかとでも言いたげに辺りを見渡している
――いかにも「世話焼きマネージャー」って感じ
「で、名前は?」
「いや、それが分かんないんだよ。たぶん地元の子じゃないし…」
情報、ゼロか
ただ、確かに目を引く。日焼けした肌に、体育会系っぽいTシャツと短パン。足元には氷の詰まったクーラーボックス。そして何より、誰かのために動くことに全神経を注いでる、あの目。あの“必死さ”は、見ていて少し危なっかしい
俺は、わざと水を飲まず、木陰を遠ざけ、炎天下の真ん中へ。照り返しと熱風でクラクラするタイミングを見計らって、わざとふらついてみせた
「だ、大丈夫ですかっ!? あっ、水、水っ!」
ほら、きた
彼女が駆け寄り、開けたばかりのスポドリを差し出してくる。近くで見ると、想像以上に汗をかいている。たぶん、自分のために飲もうとしてた一本だ
「ありがとう、助かった……すごく優しいね」
「いえっ、あの、放っておけなくて……っ!」
耳まで真っ赤にしながら、恥ずかしそうに目を伏せる。自分が“役に立てた”ことで、何かほっとしたような表情だった
「君みたいな人が彼女だったら、幸せなんだろうな。なんでも気づいてくれて、ちゃんと助けてくれる。そんな人って、そうそういないよ」
そう言うと、彼女の目が一瞬、揺れた
「……い、いえっ。そんな、大したことは……」
慌てて首を振るけど、その頬は、確かに熱を帯びていた
「そうだ、名前、聞いてもいい?」
「えっ……あ、えっと……春海、ののかって言います」
ああ、やっぱり。名前の響きまで、優しさがにじんでる
「ののかちゃん、ありがとう。君のおかげで助かったよ」
その言葉に、ののかは目を細めて笑った。その笑顔が、ちょっとだけ泣きそうで
「“ありがとう”って言ってもらえるのが、いちばん嬉しいです……!」
その一言で、俺の作戦は――予想以上に効いてしまったようだった
「“ありがとう”って言ってもらえるのが、いちばん嬉しいです……!」
そう言って笑ったののかは、まるで褒められ慣れていない子どもみたいだった。俺は、思わず背筋を伸ばした。これは――下手なこと言えないな、と思った
「そういうのって、当たり前じゃないよ。誰かのために何かできるって、すごいことだと思う」
「えっ……ほんとに……?」
「うん。だから俺、すごく惹かれた。君のこと」
それは――俺の中でも少し、演技じゃなくなっていた。だって目の前の彼女は、誰かの“役に立つ”ためだけに自分を存在させてるみたいだったから
ののかは、顔を赤くしたまま、目線を泳がせながら何かを考えていた。そして、意を決したように、小さな声で言った
「あ、あのっ……また、どこかで……助けが必要になったら……声、かけてくださいっ!」
お守りのように差し出された、自分の名前を書いた小さなメモ用紙。部活マネージャーが使いそうな、予定表の端っこ
「助けてもらう気まんまんだな、俺」
苦笑いしながら、それを受け取ろうとしたそのとき――
「へー。今度は“瀕死作戦”? 演技力だけでよく生きてこれたね、お兄ちゃん」
砂浜の向こうから、甲高い声が聞こえた
ああ、来た。いつもの破壊者――こまち
ポニーテールのののかがピクリと動きを止めた。こまちは、手を腰に当てながら、俺とののかを交互に見る
「ねぇ、その顔、さっきまで“死にかけ”だったよね? 元気じゃん。水も飲まずに倒れたふりとか、マジで引くんだけど」
「い、いえっ、あの……」
ののかが気まずそうに言葉を詰まらせる
俺はすかさずこまちの前に立ち、声を潜めて言った
「お前な……空気って知ってるか?」
「知ってるよ。だから読んであげてんじゃん。“かまってほしい人の空気”」
にやりと笑ったその顔は、明らかに“妹”というより“最強の観察者”
「お兄ちゃんってさ、演技しないと誰にも見てもらえないって思ってるでしょ? 虚しくない?」
その言葉に、ののかは目を伏せた。そして、何かを察したように、ふっと笑った
「……わたし、ちょっと水の補充、行ってきますね」
言い訳のようにそう告げて、ののかは走り去っていった。タオルの端が風に揺れていた
俺は残された小さなメモを見つめ、ため息をついた
「……壊し方、どんどん手慣れてきたな」
「ふーん。壊されるようなもんしか落とせないアンタも大概でしょ」
こまちは満足げに言って、俺の背中を小突く。さっきまで自分が“無力な被害者”を演じてたことが、急に滑稽に思えてきた
「……でもさ」
「ん?」
「それでも、誰かに必要とされるのって、やっぱり嬉しいんだよ」
こまちは何も言わなかった。ただ、呆れたように鼻で笑って、少しだけ歩調を緩めて隣に並んだ
砂浜には、ののかの残した足跡が、波にゆっくりと消されていた
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↓最後に、第4章のイメージ楽曲をお楽しみ下さい↓
