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【嫉妬されたいから、今日もナンパしてます】第3章 「5秒で運命、測ってみる?」

第3章テーマは、オートマティシティ(自動思考誘導)
オートマティシティは【人間の行動や思考は、無意識のうちに周囲の情報や環境によって影響されるという心理現象】というものです

しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります

それでは、第3章 「5秒で運命、測ってみる?」をお楽しみ下さい

前回のあらすじ

ベンチの上に、指先だけで支えられたスマートフォン
画面には婚活アプリ。上品なプロフィール写真が整列している

清原つかさ、26歳
眼鏡の奥には知性と疲れが同居している

依頼主いわく
「たまにオフィス街の広場で、休憩してるんスよ。無理に話しかけられるのイヤって感じでもないけど……なんか距離感がむずいんスよね」

距離感。なるほど、それは確かに課題だ

俺は、彼女の隣に座る。スマホを覗くでもなく、視線は前方に

そして言う

「すみません、少しだけ……心理テスト、してみません?」

つかさはピクリと反応した
数秒の間をおいて、静かにこちらを見る

「……いきなりですね。どういった内容の?」

「“結婚”と聞いて、最初に思い浮かべた“色”を教えてもらえますか?」

彼女は戸惑う。けれど、それ以上に“思わず考えてしまった”表情を見せた

「……青、ですね。なんとなく、ですけど」

「安定志向の人がよく答える色です
実は、僕も同じです。だから今、安心しました」

当然、完全なこじつけだ
だけど、“色”なんてものは、誰でも持ってる
それを“共通項”に変えることは、思った以上に有効だ

つかさが、少しだけ微笑んだ
目の奥の“疲れ”が、ほんの少しだけ緩んだように見えた

「なるほど。……面白い視点ですね
心理テストで話しかけられたのは、初めてです」

「婚活アプリよりも、確率は低いかもしれませんけど」
「……でも、こっちのほうが印象には残りますね」

彼女のスマホは、いつのまにかスリープに入っていた

これは――いける

「結婚って、きっと色じゃなくて“温度”なんですよ」
俺は言う
「青を選んでも、“ぬるま湯”なのか“海の深さ”なのかで、全然違う」

「……海、ですか」
つかさが小さく呟いた

「私は、ずっと浅瀬にいた気がして
足はつくけど、誰も来ないんですよね。深くないから」

その言葉は、ほんの一瞬、素の彼女が顔を出した気がした

「でも、少しだけ……“たまたま同じ色”だったっていう奇跡なら、信じてもいいのかもしれません」

「奇跡って、5秒で測れるんですよ」
「え?」

「出会って、声かけて、返事があって――
その時間が5秒を越えたら、それってもう運命ですよ」

馬鹿みたいな理屈だ。けど、真面目に言えばウケる
実際、つかさは驚いたように――そして、嬉しそうに笑った

「その考え方、好きです
……じゃあ、5秒以上話した私たちは、もう“運命”ですね」

「そのようです」
「ふふ、それは困りました」

彼女が笑うと、なんとなく“眼鏡”すら柔らかく見えた

俺は心の中で依頼主の顔を思い浮かべながら
“まだ渡す気にはなれねぇな”と、小さく思った

「ふふ、それは困りました」
清原つかさは、眼鏡の奥で微笑んだ

“困った”といいながらも、どこかホッとしたような表情だった

スーツ姿に似合わない小さな笑い声
その音が、妙に耳に残る

「そういえば、さっきの心理テスト……」
彼女がふと視線を遠くへ向ける

「“結婚”って言葉で、何色を思い浮かべるかって話でしたけど
私、本当は“白”って思ったんです。でも、無意識に“青”って答えたみたいで」

「へえ」
「……白って、“純粋”とか“理想”ってイメージがあるじゃないですか
でも私、そういうの信じてないはずだったのに」

「心のどこかで、まだ信じたいって思ってるんじゃないですか?」

つかさは少しだけ頷いて、それから、また笑った

「それを他人に言わせるの、ずるいですよ」

「バレましたか」

こういう会話が続くと、依頼を忘れそうになる

このままなら自然に誘導できる
このタイミングで「またお話できませんか」くらいは言っても不自然じゃない――

そう思ったその時だった

「へぇ〜、“たまたま一致”って、チープな奇跡だね」

唐突に、後ろから声が降ってきた

あの声だ

「量産型の嘘って、ほんと気持ち悪いんだよねぇ
“青”って答えとけば、だいたい“当たり”なんでしょ?お兄ちゃん」

こまち
よりによって、今日も最悪なタイミングで現れる

つかさがピクリと反応し、振り返る

そこには、小学生にしか見えない少女が腕組みして立っていた
白いTシャツに膝上ショートパンツ。見た目は幼い、けど目は鋭い

「えっと……こちらの方は?」

つかさが困惑して尋ねる

こまちはニヤリと笑って、まるで舞台の主人公のように言った

「妹で~す♡
お兄ちゃんねぇ、今週だけで“青”って3回言ってるんだよ?」

「こまち、やめ――」

「ねえねえ、“奇跡”って信じたいんでしょ?
でもさ、奇跡って“誰にでも言ってる時点”で、ただの言い回しだからね?」

つかさは、ゆっくりと立ち上がった

「……そういう方が、いらっしゃるんですね
では、私はこれで」

礼儀正しい退場
けれどその背中は、うっすらと固くなっていた

そして――去った

海辺の広場に、沈黙が残る

俺はベンチに座ったまま、ため息を吐いた

「壊し方、どんどん手慣れてきたな」

こまちは隣にぺたりと座って、缶ジュースを開ける

「ふーん。壊されるようなもんしか落とせないアンタも大概でしょ?」

「痛ぇな」

「事実だし~。だいたい、色で口説くって何? あんたってカラー診断屋さん?」

「たまには当たるんだよ。たまにはな」

「“たまに当たる”って、信じさせるための詐欺師の常套句って知ってる?」

こまちはストローをくわえたまま、こちらを見上げる

「それでも、続けるの?」

「……ああ」

「ふーん。バカだね」

「そうだな。バカだから、奇跡に頼るんだよ」

こまちはジュースをすすりながら、言った

「じゃあ、次の奇跡は――“赤”あたりでどう?」

「赤か……危険な色だな」

「でも、ドキドキする色だよ?」

その言葉が、妙に意味深に聞こえた

夕陽が差す広場の隅
“青”が似合う彼女の姿はもう見えない

でも、思い出だけは――5秒以上、残っていた

次章へ

↓最後に、第3章のイメージ楽曲をお楽しみ下さい↓


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