【恋は仕込みのあとで】第1章 「会いたくて、すれ違いストーカー」
第1章テーマは、単純接触効果(ザイアンス効果)
【会う回数が多いほど好感度が上がる】というものです
しかし、恋愛心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります
それでは、第1章 「会いたくて、すれ違いストーカー」をお楽しみ下さい
序章
新学期が始まって、二週間
俺と美琴は、驚くほど自然に言葉を交わすようになっていた
「おはよう」
「……おはよう」
そんな短い挨拶でも、嬉しかった
それだけで、今日も頑張れる気がした
けれど
もっと、もっと美琴と話したかった
ただのクラスメイトじゃなく、特別な存在になりたかった
──どうすれば、もっと自然に話せる?
答えは、案外簡単だった
会う回数を増やせばいい
毎朝の登校時間を、こっそり合わせる
下駄箱の前で、さりげなく待機する
昼休みも、教室を出るタイミングを狙って――
「あ、また会ったね」
自分でもバレバレな行動に、ちょっとだけ胸が痛んだ
でも、美琴は特に不審がる様子もなく
小さく首をかしげて微笑んだ
……これって、効果アリなのか?
俺はどんどん大胆になっていった
偶然を装いながら、美琴の行動パターンを頭に叩き込んだ
購買部へ行くタイミング
図書室へ寄る時間
帰り道に寄るコンビニ
すべてを、できる限り「偶然」に重ねた
「すごい偶然だね、また会った」
「うん……すごい、偶然だね」
美琴は少し困ったように笑った
けれど、拒絶はしていない
むしろ――少しだけ、嬉しそうに見えた
これが、「単純接触効果」ってやつか
顔を合わせる回数を増やせば、人は自然に親しみを覚える
心理学の本に、そんなふうに書いてあった
俺は、確信した
このまま続ければ、美琴との距離は、もっと縮まる
たとえ、冷静に考えたら……
「ほぼストーカー行為」だとしても
その日も俺は、美琴の行動パターンを完璧に読み切っていた
昼休み、彼女が教室を出た瞬間を見逃さず、俺もすぐに追いかける
廊下を歩く彼女の背中
すぐそこにあるのに、妙に遠い
……早く話しかけないと
「美琴、偶然!」
声をかけた瞬間、彼女の肩がびくりと跳ねた
振り向いた美琴は、一瞬、困ったような顔をした
けれど、すぐに、いつもの控えめな笑顔に戻る
「……また、会ったね」
その言葉に、胸がズキンと痛む
もしかして――本当に、気味悪がられてるんじゃないか?
さすがに、やりすぎたかもしれない
ただでさえ、俺たちは同じクラス
掃除当番も班活動も一緒
これ以上、不自然に接近しすぎたら、逆効果だ
(どうする……引くべきか?)
心がぐらぐらと揺れた
だが、そんなときだった
美琴が、ふいに口を開いた
「ねえ、良かったら……一緒に、購買部、行かない?」
……え?
一瞬、耳を疑った
美琴のほうから誘ってくれた
小さな声だったけれど、確かに
この俺を
「う、うん!もちろん!」
舞い上がりそうな気持ちを必死で押さえて、俺は頷いた
隣を歩く美琴は、ほとんど無表情だったけれど
ほんの少しだけ、頬が赤くなっているように見えた
たぶん
今日までの、すれ違い続けた日々が、無駄じゃなかったんだ
たとえ、それが
冷静に考えたら、かなり不審な追跡行動だったとしても
美琴と並んで歩く帰り道は
春の光みたいに、眩しかった
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