【恋は仕込みのあとで】第2章 「秘密の暴露合戦」
第2章テーマは、自己開示効果
【自分のプライベートな話をすると、相手も心を開きやすくなる】というものです
しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります
それでは、第2章 「秘密の暴露合戦」をお楽しみ下さい
前回のあらすじ
購買部で一緒にパンを買って以来
美琴との距離は確かに縮まっていた
挨拶だけじゃない
ちょっとした世間話もするようになった
でも、それだけじゃ、足りない
もっと、もっと美琴の心に踏み込みたい
そして、俺だけの特別な存在になりたい
どうすればいい?
――答えは、すぐに見つかった
自己開示
つまり、自分の秘密や弱みを打ち明けることで、相手も心を開いてくれる。
心理学の本に、そう書かれていた
だったら、やるしかない
俺は、放課後の教室で、チャンスを狙った
机に突っ伏して、ぼんやりしていた美琴に
わざとらしくため息をつく
「……俺さ、実は、すっごいコンプレックスがあるんだ」
美琴が、驚いたように顔を上げた
「え? コンプレックス?」
「うん。実は、小学生のとき……給食の牛乳、一回も飲み干せなかったんだ」
――なんだそれ
内心、自分でツッコミたくなるようなネタだ
でも、何でもいい
秘密っぽく語れば、効果はあるはずだ
美琴は、ぽかんと俺を見つめたあと、ふっと笑った
「ふふ……そんなことで?」
「いや、俺にとっては、死活問題だったんだよ!」
オーバーに肩をすくめて見せると、美琴は小さく笑った
その顔を見て、俺は確信する
――これは、いける
今だ
今、彼女の自己開示を引き出すんだ
「ねえ、美琴も……何か、秘密とか、ない?」
ぐいっと踏み込む俺
冷静に考えれば、完全に不自然なタイミングだ
でも、引かない
たとえ、無理やりでも
俺は、彼女の心に、手を伸ばした
一瞬、美琴は戸惑ったようにまばたきした
教室には、もう誰もいない
夕方の柔らかな光が、二人だけを照らしていた
「……秘密、かぁ」
美琴はぽつりと呟き、視線を落とす
言いたくないなら、無理に聞くつもりはなかった
だけど、期待してしまう
この小さな秘密の共有が、俺たちをもっと特別な関係にしてくれるかもしれない――と
沈黙のあと
彼女は、そっと唇を開いた
「……私、昔、絵本の主人公と……結婚の約束、してたの」
……は?
思わず、変な声が出そうになる
でも、真剣な顔をしている美琴を前に、必死で堪えた
「えっと、それって、どういう……?」
「……小さい頃、本気で信じてたの
いつか、絵本の王子様が迎えに来てくれるって……」
顔を赤くして、恥ずかしそうに微笑む美琴
その姿が、やたらと愛しくて、俺は変な笑いを噛み殺す
こんな秘密、普通、絶対に他人には言わない
それなのに、俺には話してくれた
たぶん、無理やり誘導したおかげだ
冷静に考えれば、完全に強引で、配慮も何もなかったけれど――
……でも
それでも、俺は嬉しかった
「じゃあさ」
俺は冗談めかして言った
「俺が、その王子様になってやろうか?」
美琴は一瞬きょとんとしたあと、ふわっと笑った
「……そんな簡単になれるなら、ね」
たわいもないやり取り
でも、俺たちの間には、たしかに一歩、近づいた感覚があった
今日から、美琴のなかに
「俺だけが知っている秘密」が刻まれる
たとえ、それが
冷静に考えたら、無理やり引き出した秘密だったとしても
小さな勝利の味は、甘かった
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