【ゆいちゃんの自由研究】第3章 「会えば会うほど、好きになる?」
第3章テーマは、ザイアンス効果(Zajonc Effect)
ザイアンス効果は【繰り返し接触することで、その対象に対して好意的な感情が生じやすくなる】というものです
しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります
それでは、第3章 「会えば会うほど、好きになる?」をお楽しみ下さい
前回のあらすじ
私は机の上にドンとノートを置いた。ページの端には、色とりどりの付箋がびっしり。今回の作戦はこれだ
【繰り返し同じことをすると好感度アップ】
「お兄ちゃん、人ってね、会えば会うほど、同じ言葉を繰り返されると親しみを感じちゃうんだよ!」
胸を張って説明すると、お兄ちゃんは相変わらず真面目にうなずいた
「なるほど……。じゃあ今回も自由研究のために実践してみるよ」
その瞳はキラキラ輝いている。なんで毎回そんなに信じ込むの!?
でもまあいい。今回こそ、彼女をウンザリさせてみせる!
当日。私はランドセルに双眼鏡を忍ばせ、こっそり尾行開始。二人は駅前で待ち合わせて、カフェへ入っていった
席に座った途端、お兄ちゃんが真顔で切り出した
「加賀谷さん……似合ってるよ」
「え、ありがと」
ここまでは普通。けれど――
「似合ってるよ」
「……え?」
「似合ってるよ」
「……ぷっ!」
結さんは思わず吹き出して、口元を押さえた
「ちょ、なにそれ、壊れたラジオ?」
笑いながら首を傾げる結さんに対し、お兄ちゃんは真剣そのもの
「いや、本当に似合ってるから……何度でも言いたくなるんだ」
その必死な顔に、周りの客がクスクス笑い出す
私は窓際の席から双眼鏡で覗き込み、観察ノートに走り書いた
【同じことを繰り返されるとウザくなるはず!】
そのはずなのに――どうして結さんは笑顔になってるの!?
その後もお兄ちゃんは繰り返し攻撃をやめなかった
雑貨屋さんに立ち寄れば――
「そのバッグ、似合ってるよ」
「……あ、また始まった」
「似合ってるよ」
「はいはい、ありがと~」
アクセサリーを手にとれば――
「似合ってるよ」
「……三回目!」
「似合ってるよ」
「四回目!」
数を数えながら笑っている結さんの横で、お兄ちゃんは一生懸命にメモをとっていた
「やっぱり……何度も伝えると心に残るな」
うんうんと頷く姿はまるで研究発表の予行演習みたい
いやいや、どう考えても変だから!
私は建物の影に隠れながら、観察ノートを握りしめた
【繰り返し=飽きられる】
大きく書いて線で囲む。これが正しい。絶対そう!
なのに――
「何回も言ってくれると、本当に信じちゃうな」
結さんは頬を赤らめながら微笑んでいた
それを聞いたお兄ちゃんは、感動したように目を輝かせる
「効果、すごい……!」
すかさずメモ帳にカリカリと書き込んでいた
私は頭を抱えた
「いやいやいや! 逆効果のはずでしょ!」
地団駄を踏みながら、ノートに大きく【観察続行!】と殴り書いた

商店街を歩く二人。お兄ちゃんは相変わらず、同じ言葉を繰り返していた
「似合ってるよ」
「……また?」
「似合ってるよ」
「はいはい、もう分かったって!」
結さんは手を振って笑っている。けれど、お兄ちゃんは全く止まらない。まるで呪文のように、真剣な顔で何度も何度も繰り返している
私は影から双眼鏡を覗き込みながら
ノートに【繰り返し攻撃 → ウザがられる】と赤字で大きく書いた
そうなるはずだ。そうじゃなきゃおかしい
洋服店に入ると、お兄ちゃんは試着室の前で待ちながら口を開いた
「似合ってるよ」
カーテンの向こうで結さんが笑う
「まだ着替えてないんだけど」
「似合ってるよ」
「……ふふっ、壊れたラジオが待ってる」
結さんが呆れたように笑う声。普通なら嫌がるところなのに、楽しそうに返している
さらに、お兄ちゃんは真剣にメモを取りながら呟いた
「言葉は繰り返すほど効果がある……」
いやいやいや! どう考えても逆でしょ!?
私はノートに大きくバツ印を書いた
その後、カフェに入った二人
ケーキを前にしても、お兄ちゃんは止まらない
「そのケーキ、似合ってるよ」
「ケーキに似合うってなに!?」
結さんはテーブルを叩いて笑い転げた。涙まで浮かべて、声をあげて笑っている
「似合ってるよ」
「もうやめて、笑いすぎてお腹痛い!」
結さんは頬を押さえてクスクス笑い続けた
私は目をこすった。信じられない。あれだけ同じことばかり言われているのに、嫌がるどころか楽しそうにしているなんて
夕暮れの公園。ベンチに座る二人の距離は、いつの間にかすっかり近くなっていた
「悠斗君……今日、何度も“似合ってる”って言ってもらえて……ちょっと嬉しかった」
結さんは視線を伏せて、照れくさそうに笑った
「やっぱり! 繰り返すことで気持ちが伝わるんだ!」
お兄ちゃんは拳を握りしめて感動している。ノートに“効果絶大”と書き込み、満足げにうなずいた
私はその様子を見て頭を抱えた
「いやいやいや! 逆効果で嫌われるはずなのに~!」
足をドンと踏み鳴らし、観察ノートをバサッと閉じた
家に帰る道すがら、夕焼けがオレンジ色に空を染めていた
「妹のおかげで、今日はすごくいい時間だった」
お兄ちゃんは心底幸せそうに微笑み、ノートを大事そうに胸に抱えた
「楽しかったよ。またお願いね」
結さんも穏やかな声でそう言った
私は唇を噛んでノートを抱きしめる
「なんで……! どうして毎回裏目に出るの……!」
でも、負けない
次こそは、絶対に結さんを困らせてみせる
そう心に誓い、私は夕陽に向かって歩き出した
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↓最後に、第3章のイメージ楽曲をお楽しみ下さい↓
