【惚れさせて、振ってやる!】第5章 「残響する言葉」
第5章テーマは、スリーパー効果(Sleeper effect)
スリーパー効果は【信用度の低い情報源からのメッセージは最初は軽視されるが、時間とともに“情報源”の記憶が薄れ、内容だけが残って効いてくる現象】というものです
しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります
それでは、第5章 「残響する言葉」をお楽しみ下さい
前回のあらすじ
私はついに決めていた
これまで積み上げてきた作戦の仕上げとして、最後に一言を残す。それは必ず隆司の心に引っかかり、後でじわじわ効いてくる。そう確信していた
放課後、教室のざわめきが少し落ち着いたころ。私は隆司の机に歩み寄った
彼は相変わらず前髪を垂らしたまま、カバンから何やらごそごそとアニメ雑誌を取り出している
周りから見れば『不登校美少女が学校に来て、わざわざデブオタに話しかけてる』という奇妙な光景
けれど私は真剣だった
「ねえ、隆司君」
「デュフ? な、なんだお……。俺みたいな社会不適合者w 三次元女子に用はないのだが」
わざとらしく自虐とスラングを織り交ぜるその声。もう慣れた。でも今日は譲れない
私は深呼吸をして、静かに笑みを作った
「二次元もいいけどさ、リアルにも……推しっているかもしれないよ」
言った瞬間、教室の空気がぴしりと張りつめた
隆司は椅子をぎいっと引いてこちらを向き、鼻で笑った
「はぁ? 草www そんなわけあるかお。三次元なんてノイズだお。俺の正妻はフィギュアの中にしかいないのだ」
教室の隅でクスクス笑う声が聞こえる。冷静に考えれば、この状況は滑稽だ
完璧美少女と評される私が、わざわざ汗だくオタク相手に「リアルにも推しがいるかもよ」と真顔で口説いているのだから
傍観者から見ればコントにしかならない
でも、私にとっては勝負の一手だった
隆司の一蹴を浴びても、私は屈辱を隠すように笑った
「ふふ……いいわ。必ず振り向かせてやるから」
その強がりは、私の誇りと悔しさの入り混じった叫びだった
彼は一瞬だけ目を泳がせたが、すぐに「フヒヒwww」と笑いに変えて雑誌に視線を落とした
「……俺に恋愛フラグは立たんのだお」
チャイムが鳴り、私は教室を出る
背中にはまだクスクス笑う声が残っていた。でも、私の心にはひとつの確信が芽生えていた
――あの言葉は、必ず残響する。今は鼻で笑っていても、後になって効いてくる
私は靴箱でローファーに履き替え、夕暮れの光の中を歩きながら小さくつぶやいた
「……絶対、落とす。私の勝ちだって証明する」

その夜
私はベッドに横になりながら、天井を見つめていた
昼間のやり取りが頭をよぎる
「二次元もいいけど、リアルにも推しっているかもよ」
勇気を振り絞って放った一言は、隆司に鼻で笑われた
屈辱と悔しさが胸に残る。けれど、あの瞬間、彼の目がほんの一瞬だけ泳いだことを、私は確かに見逃さなかった
「……絶対に、あの心を揺らせた」
強がりでも、そう思いたかった
一方その頃、隆司の部屋
フィギュアの群れに囲まれながら、彼はひとつを手に取っていた
「尊い……俺の正妻……やっぱり神回だお」
呟きはいつも通り。でも、途中で言葉が止まった
脳裏に浮かぶのは、昼間の玲奈の笑顔
机に突っ伏していた自分を見下ろし、プリントを差し出しながら「ありがとう」と言った彼女
そして、最後に残したあの言葉
「……リアルにも推しって……」
否定しようと口にしたが、喉の奥で消えた
フィギュアを机に戻し、彼は頭をかかえた
「ブヒィィ! 違うお! 俺は二次元至上主義なのだ! 三次元なんて……尊いとか思うわけ……」
そう叫んだ声は震えていた
そして小さくつぶやく
「……でも、天城は……なんか……特別、なのだ」
その言葉は誰にも届かない。けれど確かに彼の心の奥に刻まれた
翌日
教室に入ると、私は無意識に隆司の席を探していた。彼は相変わらず前髪で目を隠し、机に突っ伏している
でも、私の姿に気づいた瞬間、ほんのわずかに背筋が伸びた
「……おはよう、隆司君」
声をかけると、彼は机に顔を押しつけたまま答えた
「……フヒヒww お、おはようだお」
その声は小さく、耳まで赤く染まっていた
周囲のクラスメイトたちはざわついている
「天城さんが御宅に挨拶してる……!」
「昨日から何か変じゃない?」
でも、そんな視線はどうでもよかった
私は心の中で笑った
――これで十分
完璧美少女と二次元至上主義オタク。冷静に考えればおかしな組み合わせ
でも確かに、今この瞬間、私と彼の間には小さな糸が結ばれている
「ねえ隆司君。私、やっぱりあんたのこと……推せるかも」
茶化すように言うと、彼は机に頭をぶつけて大げさに叫んだ
「ぐはっ! 尊い! 脳が震える! 三次元で推しとか……オワタ……」
教室に笑いが広がる。私はくすっと笑い返した
屈辱から始まった私の挑戦は、気づけば違う意味を持ち始めていた
惚れさせて振ってやる。そう思っていたはずなのに
今はただ、この奇妙なやりとりが愛おしい
玲奈は小さく笑い、窓の外に目をやった
夕焼けの光に染まる教室で、隆司はまだ机に突っ伏したまま、耳だけ赤くしている
その姿を見て、胸の奥がほんのり熱くなる
「……不思議ね。こんな毎日も、悪くないかも」
彼の返事はなかった。けれど、沈黙の中に確かに伝わるものがあった
おかしな二人のやりとりは、これからも続いていく――そんな予感とともに
↓最後に、第5章のイメージ楽曲をお楽しみ下さい↓
