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【朔夜くん、それ太宰治のパクリでしょ】第1章 「君のすべてが“ありがち”に見える」

第1章テーマは、バーナム効果(Barnum Effect)
バーナム効果は【誰にでも当てはまるような曖昧で一般的な性格の記述を、自分だけに当てはまると感じてしまう心理現象】というものです

しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります

それでは、第1章 「君のすべてが“ありがち”に見える」をお楽しみ下さい

序章

「僕は、誰にも理解されない。きっとそれが、僕の原罪なのだと思う」
朔夜くんの新作の冒頭を読んだ瞬間、私はカーテンを締めたくなった
部室の。いや、彼の脳内の

その一文、構文も比喩も、あまりに“それっぽい”
十七歳の高校生が綴ったとは思えないほど重々しくて、そして驚くほど既視感がある
太宰治『人間失格』の開幕5分の霧を、霧ごと吸い込んで吐き出したような文体

私は原稿を静かに机に戻し、彼に向かって言った

「朔夜くん、それ、何度も見た類の“孤独”よ。誰にも理解されない、って言葉が似合う人ほど、理解されることを欲してるの」

彼は目を丸くして、すぐに少し嬉しそうに笑った

「……やっぱり、九条先輩って、すごい。僕の心の深淵まで、見抜かれてしまうなんて……」
「いや、浅いのよ。それが問題なの」
「……それも、見抜かれてる……!」

本当に見抜けているなら、今すぐその表現をやめてほしい

でも私は黙って、ポーチから取り出したメモ帳を開く
“人が言われて嬉しい、けれど誰にでも当てはまる言葉”のストック
私が恋愛を“検証”するために作った、自作の語彙爆弾だ

私は彼に向かって、ごく自然を装って言う

「あなたって、普段冷静に見えて、内側ではずっと不安と闘ってるタイプよね」
「えっ……」
「でもその不安を、文章に変えて昇華しようとする。たぶん、夜に独りで考え込む癖、あるでしょ」
「…………あ、あります」
「きっと、相手に期待しすぎて、ちょっと人間関係で疲れるときもある。けど、結局は“誰かと繋がっていたい”人なのよ、あなたは」

私は静かに、彼の心の“ドアノブ”を回すように言葉を重ねた
どれも、汎用性の塊。でも、それがいい

彼は椅子から立ち上がり、目を潤ませながら言った

「九条先輩……まるで太宰の女友達みたいだ……僕のすべてを見てる……!」

そう言って、彼はスチール棚にあった未使用の原稿用紙を20枚、急に抱きしめた

なんで?

「この痛み、この共鳴、この不可避な運命。……これでまた、書けます。僕、“見抜かれた傷”を描きます」
「……待って。私、傷つけてないし」
「ううん、僕の文学に必要だったのは、痛みじゃない。“理解された痛み”なんです」

——誤解が、燃料になってる

私はその光景を眺めながら、内心で静かにため息をついた
この実験、もとい“恋のアプローチ”は、今のところ順調
でも、その順調さが、相手をより深い“太宰”へと沈めている気がするのは……私のせいなの?

それでも、彼のきらきらした目を見ると、止められなかった
言葉に酔ってる。いや、それ以上に“私に酔ってる”のかもしれない

私は顔をそらして呟く

「……でもまあ、そういうとこが……少し、嫌いじゃないのよ」

そう言った瞬間、朔夜くんの筆が止まった

私が彼の机の端に寄りかかって原稿用紙を覗くと、そこには見覚えのあるフレーズがあった

——「君に見透かされた僕の孤独は、少しだけ甘い匂いがした」

……匂いって何

「それ、私が言った“嫌いじゃない”のとこよね?」
「はい。今の九条先輩の一言、まるで文学でした。記録しておきます」
「メモ帳に、じゃなくて作品に?」
「もちろんです。先輩の言葉には、香りがあるんです」

何かが始まってしまった。明らかに、間違った方向で

次の部活の日。部室のドアを開けた瞬間、私は小さくうめいた

朔夜くんが、私に手作りの冊子を差し出してきたのだ。表紙には手描きのバラと、タイトルが

——『見透かされる僕へ、君はやさしく毒を塗る』——

「この前の言葉たちを、詩にしてみました。タイトルは、あの“嫌いじゃない”から着想を得てます」
「……毒、塗ってないし」

私は冊子を開く。中には、あの日私がかけた“ありふれた共感語”が
すべて“特別な言葉”として脚色されていた

「“普段冷静だけど実は不安な人”って、ありふれてるはずなんだけどな……」

そう呟いた私に、彼は真剣な顔で言った

「僕の中では、唯一無二の言葉です。誰でもない、九条先輩に言われたからこそ、意味があるんです」

……なんだろう、妙に正しい気もする。その“誤読”すら、文学になってしまう彼の在り方が、少しだけ羨ましかった

「でも、それ全部、あなたに限らず誰にでも……」
言いかけて、私は口を閉じた

だって、私がそれを訂正したところで、彼は「見透かされた」とまた喜ぶだけだ
それなら、もう少しこの実験を続けてみてもいいかもしれない。いや、恋ってこういうの、なのかもしれない

「……一つだけ聞いていい?」
「なんなりと」
「その冊子、タイトルの“毒”って、私のこと?」
「はい。“苦くて離れがたい愛の象徴”として」
「苦いの?」
「でも中毒性があるって、そういうことだと思うんです」

私は思わず笑った。悔しいけど、その比喩、ちょっと上手い
上手くて、イラっとする

彼の文章には、太宰治の影が色濃く残っている。けれどその隙間に、少しずつ“朔夜”という人間の温度が混ざり始めている気がした

もしかするとこの先、彼の“文学”が誰かの救いになる日が来るかもしれない

でも今はまだ、彼の“ナルシズム”が可愛げのあるサイズでいてくれることを祈りたい

「じゃあ、また“ありがちな孤独”を更新しといて。次はもう少し、構文整ってるやつで」
「わかりました。じゃあ、“構文の乱れも愛の証拠”ってテーマで書いてみます」
「ちがう」

返事しながら、私は原稿用紙の隅に、彼の使い古しの万年筆で、ひとことだけ書き残した

——“言葉は、届いてこそ意味がある”——

彼がそれに気づくのは、次の部活か、次の作品か
どちらにせよ、少しだけ楽しみになっている自分がいた

次章へ

↓最後に、第1章のイメージ楽曲をお楽しみ下さい↓


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