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第4章『同盟』第2節:雪のように、遅れて消えない【ケンタウルスストーリーイベント】

前回のあらすじ

↓この章『同盟』のイメージ楽曲 物語と一緒にどうぞ↓


JR春日駅を出た瞬間、前の走りとは違うものが混ざっているのを感じた

理由は分からない
けれど、同じ速度で脚を出しているはずなのに
どこかに“間”がある

「次は神社の方に行くよ」

ランの声で、全員が動く
軽く、自然に……

だが……

「……また遅れた」

ユキハクだけが、一拍遅れる

足が出るのが遅いわけではない
むしろ、踏み込みは丁寧だ
だが、その丁寧さが、結果として遅れになる

彼女の走りは、音がない

踏み込んでいるはずなのに、地面に触れた感触が薄い
足音が、遅れて、しかも弱く響く

加速もなく
勢いもない
それなのに、置いていかれない

前の三人と、一定の距離を保ち続ける

春日神社の鳥居が見えたところで、全員が自然に減速した
誰も言葉にしていないのに、同じ判断が共有される
その中で、ユキハクだけが一歩分、外に位置を取る

横にも並ばない。後ろにも下がりきらない
常に、半歩分の隙間を維持する
私は、その距離を詰めるように少しだけ寄る

すると、ユキハクも同じだけ下がる

正確に、同じ距離を保つ

「なぜ離れるのですか?」

声をかける

「離れている方が……崩れないから」

間を置かずに返ってくる
だが、その言葉は具体性を持たない

サクラミストが、楽しそうに近づく
その動きに合わせて、ユキハクがわずかに後ろへずれる
ランが横に入ると、今度は斜めへ

完全に並ぶ瞬間がない

合わせていないのではない
合わせる位置を、意図的に避けているように見える

小倉中央公園に入ると、空間が開けた
その瞬間、サクラミストが一気に前へ出る
何も考えていないような加速

そのせいで、隊列にわずかな空白が生まれる

だが……その空白が長く続かない
気づいたときには、ユキハクがそこにいる

速度を上げた様子はない
方向を急に変えた動きもない
ただ、自然に位置が埋まっている

私は、彼女の視線を追う
前を見ていない
焦点が、どこにも定まっていない

それでも、位置だけは正確に保たれている

「ユキハク……あなた……前を見ていないのですか?」
「見ていない」

短い肯定

「では、何を見ていますか?」

わずかな沈黙

「……離れすぎないこと」

それだけだった

熊野神社へ向かう道は、静かだった
誰も話さない
足音だけが続く

ユキハクの足音は、わずかに遅れて響く
しかし、その遅れが、リズムを崩さない
全体の流れと、ずれたまま一致している

鳥居を抜けた瞬間

ほんの一瞬だけ、全員の位置が完全に揃った
横も、縦も、間隔も、同じになる

私は、その瞬間を逃さず言う

「ユキハク……あなたが、合わせているのですか?」

ユキハクは、少しだけこちらを見る
その視線は、すぐに外れる

「……合わせていない」

淡く、静かに

「崩していないだけ」

その言葉だけが、余計な説明を拒むように残った

今回の走行ルートです グーグルマップより抜粋

熊野神社を抜けても、誰も口を開かなかった
静かなまま、足音だけが続く

「このまま春日公園まで行こうか」

ランが言う
誰も返事をしない
それでも、全員が同じ方向へ脚を出す

試す……私は、そう決めた

まず、加速する
一気に前へ出る
距離を引き伸ばすつもりで、踏み込む

サクラミストが反応する

「あっ、待って!」

楽しそうに、そのまま前へ出る
ルナヴェイルは一拍遅れて、静かに速度を上げる
ランは位置を崩さず、間を調整する

だが……ユキハクだけが、変わらない

一定の歩幅
一定の呼吸
距離が、開かない

「……来ないですね」

私はさらに一歩踏み込む
だが、変わらない

今度は、急に減速してみる

脚の出を止め、わざとリズムを崩す

サクラミストが詰まりかける

「え、ちょっ……近い近い!」

軽くぶつかりそうになりながら、慌てて横へずれる
ルナヴェイルも、わずかに歩幅を調整する
ランがその間に入り、流れを戻す

その中で……ユキハクだけが、自然に距離を保っている

詰まらない
離れない

「あなたは……影ですか」

私が乱したはずのリズムに、ユキハクは巻き込まれていない

次に、進路を外す
直線からわずかに外れ、蛇行する
わざと、走りにくい軌道を取る

サクラミストがそれにつられて、少し大きく外へ膨らむ
ルナヴェイルは内側を選び、軌道が交差する
ランが間を縫う

全体が、微妙に乱れる

だが……ユキハクは、そこにいない

いや……正確には最短でも、最速でもない位置にいる
けれど、どの動きにも干渉されない場所だ

「……避けているのではないのですね」

私は呼吸を整えながら、理解を修正する

「……巻き込まれていないだけですか」

私は、試し続けた

ペースを崩す
ペースを引き伸ばす
いろいろな形でペースを乱していった

そのたびに……崩れるのは、私の方だった

脚が重くなる
踏み込みが浅くなる
呼吸が、半拍遅れる

乱した分だけ、自分の中に歪みが残る

一方で……ユキハクは、変わらない

何もしていないように見える

だが、何も崩れていない

春日公園へ続く直線に入る

少し長い、開けた道

私は消耗している

サクラミストはまだ軽いが、動きにばらつきがある
ルナヴェイルは一定を保っているが、波が見える
ランが、それをつなぐ

その中で……ユキハクが、前に出る

加速していない
踏み込んでもいない

それなのに……気づいたときには、前にいる

「……抜かれた?」

違う
抜かれた感覚がない

私は、呼吸を整えながら理解する

「違う……」

私は、崩れた
ユキハクは、何もしていない。

彼女はただ……崩れなかっただけだ

春日公園の入口で、自然に足が止まる
誰も合図しない
それでも、同時に止まる

静かな空気
勝敗を言う者はいない

「……崩せなかった、なぜだですか?」

私は、そのまま口にする
ユキハクは、少しだけ視線を向ける

「無理をしないこと」

短い答え 

「それだけで、勝てるのですか?」

少しだけ間が空く

「勝っていない」

そして

「……残っているだけ」

私は、息を整えながら、その言葉を受け入れる

最後に残るのは……速い者ではない

崩れなかった者だ

「なんか静かだね」
サクラミストが、少しだけ首を傾げる

「いい走りでしたよ」
ランが穏やかに言う

「途切れなかったわ」
ルナヴェイルが静かに続ける

私は、わずかに息を整えてから言う

「……強いですね」

ユキハクは、首を横に振る

「強くない」

そして

「……遅れなかっただけ」

速さでは届かない領域がある

崩れないという……それだけ

私は、まだ……速さに頼って走っている

その事実だけが、静かに残った

次節へ


この節の春日市の公式PR動画はこちらです

この節に登場したケンタウルス


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