第7章『限界』第3節 交わる思惑【ケンタウルスストーリー】
迷言です
今週(26年8月2日~26年8月8日)は【ケンタウルスストーリー】第7章『限界』をお送りします
前節のあらすじ
それでは本編をどうぞ
この章のイメージレースBGMと同時にお楽しみ下さい
アークシエル「……そういう空気になるよね」
アークシエルは困ったように笑った
アークシエル「でも……ここで協調しないと確実にジェントル・ヴァーディクトにもっていかれる」
アークシエル「でもタダでとは言わない……うちの編成は全部公開する」
ヴァイスノヴァ「全部……ですか?」
私だけじゃない
ランも、ネクシアードも、ノクティエラも視線を向ける
アークシエルは頷いた
アークシエル「まず条件から」
アークシエル「各チーム、妨害担当を二人出してほしい」
アークシエル「残りの編成は各チームに任せる」
ラン「なるほど」
アークシエル「そして……編成の方だけど」
少し笑う
アークシエル「私達は妨害組に三人出す」
ヴァイスノヴァ「三人?」
アークシエル「うん……しかも、その中にエースも入れる」
ヴァイスノヴァ「えっ!?」
思わず声が出た
サクラミスト「エースを妨害組!?」
クロウヴァも目を丸くする
クロウヴァ「本気ですか?」
アークシエルは静かに頷く
アークシエル「本気……これには意味がある……エースを後半まで温存したいから」
ラン「……温存?」
アークシエル「ジェントルを止めるのは一番大変……だったら、一番強い人をそこへ置く」
アークシエル「妨害組は最低でも8人はいるはず……ならあえてその組にいて後半まで脚を残す」
その理屈は理解できた
でも、普通なら絶対に思いつかない
アークシエルは続ける
アークシエル「ヘリテージ・ループ」
アークシエル「妨害組……ジュノリハ、ナクティア、そしてエース・ルミネージュ」
アークシエル「第1リザルト組、ハクレイナ、私・アークシエル」
ハクレイナ「頑張ります!」
元気よく手を挙げる
その勢いで少しバランスを崩した
ハクレイナ「あっ!」
アークシエル「前見て」
ハクレイナ「はい!」
返事だけは誰より元気だった
ヴァイスノヴァ「……」
本当に全部話した
ラン「アークシエル、チームと相談したいのですが……」
アークシエル「構いません……ですが時間がありませんので手短に」
ラン私達四人へ小さく手招きをする
自然と五人だけの輪ができた
他チームへ聞こえない程度の距離
ラン「協調に乗りましょう……こちらも編成を決めます」
ヴァイスノヴァ「はい」
ランは迷わなかった
ラン「第1リザルト組は私とヴァイスノヴァ」
ヴァイスノヴァ「了解しました」
ラン「残り三人は妨害組です」
サクラミスト「私も?」
ラン「はい……ユキハク、ルナヴェイル、そして今回のエース・サクラミスト」
ラン「私達もヘリテージ・ループと同じ作戦でいきます……但し、隙をみてヘリテージ・ループと協調して上がってきて下さい」
ヴァイスノヴァ「ヘリテージ・ループと協調して上がる?」
ラン「はい……ヘリテージ・ループが編成を公開したのは、後半上がって行くために必要な人数を確保する為……あえて編成を公開する事で、同じことを考えるチームと協調しやすくするようにと思います。なら……その作戦に乗るのが得策です」
ユキハク「承知しました」
ルナヴェイル「異論ありません」
サクラミスト「了解!」
ランは静かに説明を続ける
ラン「第1リザルトは私達二人で十分です……その代わり、後半へ最大戦力を残します」
ヴァイスノヴァ「なるほど」
ラン「サクラミストには、後半まで力を残したまま動いてもらいます」
サクラミスト「暴れすぎないようにする!」
ユキハク「……暴れる前提なんですね」
サクラミスト「えっ、違うの?」
ルナヴェイル「違います」
サクラミスト「妨害って暴れることじゃないの?」
ユキハク「違います」
ルナヴェイル「相手の動きを制限することです」
サクラミストは腕を組んで真剣に考える
サクラミスト「つまり……上品に暴れる?」
三人とも一瞬黙る
ランは小さく笑った
ラン「その解釈は初めて聞きました」
サクラミスト「じゃあ気を付ける!」
真剣な顔で頷く
その姿に私は思わず笑ってしまった
ラン「この編成でいきましょう」
四人が静かに頷く
ランは輪を解き、アークシエルへ向き直った
ラン「こちらも決まりました……協調しましょう」
アークシエル「ありがとうございます」
それ以上は何も聞かない
お互いに必要以上の情報は求めない
それが、この場の信頼だった
一方……レゾナンス・ハーモニクス
ネクシアード「了承しました。協調しましょう」
サイレント・レイヤーも同じだった
ノクティエラ「問題ありません。協調しましょう」
ヴァイスノヴァ(結局……あの二チームだけは、最後まで何も分かったな……でもそれが普通か)
四チームは再び前を向く
役割は決まった
あとは、見えなくなったジェントル・ヴァーディクトへ追いつくだけだ

アークシエルは前を見据えたまま、小さく頷いた
アークシエル「それでは……追いかけます」
ハクレイナ「ジェントル捕まえるよ!」
その一言を合図に
四チーム20人が、一斉に加速した
ヴァイスノヴァ「敵同士なのに……」
思わず呟く
ランは少しだけ笑った
ラン「今だけです」
その言葉通りだった
今は勝負ではない
ジェントル・ヴァーディクトへ追いつくことだけが共通の目的だった
先頭へ出たのはヘリテージ・ループ
ナクティアが風を切る
その後ろへ自然と全員が続く
しばらくすると……ナクティアは軽く手を振った
ナクティア「交代」
その一言だけ
次の瞬間、クロウヴァが前へ出る
何も打ち合わせをしていない
それでも隊列は乱れなかった
ヴァイスノヴァ「すごい……」
クロウヴァ「ほら、次」
今度はルナヴェイル
さらにその次はアビスノア
先頭が次々と入れ替わる
誰も長く風を受けない
誰も無理をしない
ヴァイスノヴァ「こんな連携……初めて見ました」
思わず前を見る
ラン「即席とは思えませんね」
その時だった
サクラミストが前へ出ようとして
ユキハクが静かに袖を掴んだ
サクラミスト「え?」
ユキハク「まだです」
サクラミスト「でも走りたい!」
ユキハク「順番があります」
サクラミストは真剣に考える
サクラミスト「つまり……順番待ち!」
ユキハク「そうです」
サクラミストは両手を胸の前で組み、小刻みに上下へ揺れ始めた
まるで遊園地の列へ並ぶ子どもみたいだ
でも本人は至って真剣だった
ルナヴェイル「サクラミスト」
サクラミスト「はい!」
ルナヴェイル「落ち着きましょう」
サクラミスト「失礼な!落ち着いてるよ!」
その返事に思わず笑ってしまう
ランも肩を震わせていた
一方……ハクレイナも前へ出たそうに身体を左右へ揺らしていた
アークシエル「……まだです」
ハクレイナ「まだ?」
アークシエル「まだです」
ハクレイナ「……まだ?」
返事をするたびに、身体の揺れだけ大きくなる
アークシエルは苦笑した
アークシエル「……ハクレイナ、貴女この中で2番目に経験あるのに……そこの新人ちゃんと同じことしないで下さい……恥ずかしいです」
ハクレイナ「失敬な!!」
その様子を見たクロウヴァが吹き出した
クロウヴァ「元気だなぁ」
ネクシアードだけは淡々としていた
ネクシアード「速度維持」
クロウヴァ「はいはい」
その短いやり取りだけで、また先頭が入れ替わる
誰一人、我先にとは出ない
必要な時だけ前へ
終わればすぐ後ろへ
その繰り返しだった
気付けば
一本道の先
小さな影が見え始める
ヴァイスノヴァ「あっ」
ランも前を見る
ラン「予定通りです」
ヴァイスノヴァ「本当に追いつきそうです」
距離は確実に縮まっていた
先ほどまで点のようだった影が
少しずつ……少しずつ大きくなっていく
そして……ハクレイナが勢いよく前を指差した
ハクレイナ「いた!」
全員の視線が前へ集まる
ジェントル・ヴァーディクト
5人の姿が、再びはっきりと見えた
アークシエルの穏やかな笑顔が消え表情が変わる
アークシエル「ここからです」
短い一言
ランも静かに頷いた
ラン「皆……作戦開始です」
私は小さく息を吸う
ヴァイスノヴァ「……了解」
20人がもう一段階加速する
見えてきた背中は、もう逃がさない
ジェントル・ヴァーディクトとの距離は、あとわずか……
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