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第7章『限界』第2節 動かない勇気【ケンタウルスストーリー】

迷言です
今週(26年8月2日~26年8月8日)は【ケンタウルスストーリー】第7章『限界』をお送りします

前節のあらすじ

それでは本編をどうぞ

この章のイメージレースBGMと同時にお楽しみ下さい

号砲が響く
25人のケンタウルスが一斉に地面を蹴った
私は思わず身構える

これが個人戦なら、この瞬間に一気に加速する

前へ、前へとポジションを奪い合う……そのはずだった

ヴァイスノヴァ「……思ったより、速くありませんね」

ランは前を見たまま、小さく頷く

ラン「ええ……きっとみんな同じ事を考えています」
ヴァイスノヴァ「同じ事?」
ラン「終盤勝負です」

その一言だけだった
なるほど
誰も脚を使いたくない

だから誰も飛び出さない

25人が綺麗な集団のまま走っている
……何だろう
レースというより、大人数でお散歩しているようにも見える

ラン「予定通りいきます」
ユキハク「了解です」

ユキハクは自然と私の少し前へ出る
風を受ける位置
私はそのすぐ後ろ

サクラミストは右隣
ルナヴェイルは少し後ろから全体を見ている

気付けば、5人が綺麗な形になっていた

ヴァイスノヴァ「本当にこの位置でいいのですか?」
ラン「今は消耗しない事が大切です」
ヴァイスノヴァ「でも……」
ラン「トップで疲れるより、集団の方が強いですよ」
サクラミスト「なるほど!」
ルナヴェイル「つまり……今は体力貯金ですね」
ラン「そんな感じです」
ユキハク「……私は風よけになります」
ヴァイスノヴァ「ありがとうございます」
ユキハク「どういたしまして」

その返事と同時に、ユキハクは風向きを確認しながら位置を変え続けている
その位置はほんの少しだ……それだけなのに、不思議と走りやすくなる

私は思わず感心した

ヴァイスノヴァ「すごいです」
ユキハク「……えへへ」

褒められた瞬間だけ、小さく尻尾が揺れた
でも次の瞬間には真顔へ戻る
それが、何だか少しだけ可笑しく
私は思わず笑いそうになった

その頃……少し前ではヘリテージ・ループ

ハクレイナ「なんか平和だね」
ナクティア「予定通り」
ハクレイナ「もっとドーンって始まると思ってた!」
アークシエル「だから予定通りなんだ」
ハクレイナ「なるほど!」

一方後方……レゾナンス・ハーモニクス

クロウヴァ「問題ありません」
ネクシアード「予定との差異5%」
クロウヴァ「5%?」
ネクシアード「つまり予定通りです」
クロウヴァ「最初からそう言えばいいのに……」
ネクシアード「時間効率は同じです」
クロウヴァ「そういう問題かなぁ……」

さらに後方……サイレント・レイヤー

ノクティエラ「変更ありません」
ヴァルネス「……」
アビスノア「了解」

驚くほど静かだった
本当に喋らないチームだな……
私は思わずランへ小声で話しかけた

ヴァイスノヴァ「あのチーム……本当に静かですね」
ラン「そうですね」

それ以上は何も言わなかった
私も深く考えず、前を向く

前方では……ジェントル・ヴァーディクト

ノクティエルが静かに後方を見ていた
そして、少しだけ笑う

ノクティエル「……ペースが遅いですね」
アステリス「あーし達に付き合う気ない感じ?」
アメリア「終盤へ賭けているのでしょう」
リオノワール「でしたら……こちらも予定を変えるべきですわ」
ノクティエル「ええ」

ノクティエルは迷わない

ノクティエル「全員に通達……今なら安全に差を作れます。ここで主導権を取りましょう」

「了解」

その瞬間だった
ジェントル・ヴァーディクト五人が一斉に加速する

ヴァイスノヴァ「速っ……」

一気に先頭が離れていく

ハクレイナ「えっ!? 行っちゃうの!?」
ナクティア「放っておけ」
ヴァイスノヴァ「ラン」
ラン「追いません」
ヴァイスノヴァ「でも……差が開きます」
ラン「予定通りです」

その声には迷いがない

一方レゾナンス・ハーモニクスでも……
ネクシアード「問題ありません」

サイレント・レイヤーでも……
ノクティエラ「こちらも予定変更なしです」

結局……四チーム全てが同じ判断をした

まだ追う必要はない
一本道へ入る
ジェントル・ヴァーディクトだけが、少しずつ、少しずつ前へ離れていく

ヴァイスノヴァ「もうかなり前ですね」
ラン「問題ありません」

私はもう一度前を見る
やがて先頭集団は建物の陰へ入り……
ジェントル・ヴァーディクトの姿は、私達の視界から静かに消えた

ジェントル・ヴァーディクトの姿が完全に見えなくなった
一本道
前にはもう誰もいない

残った四チーム、20人だけが一つの集団となって走り続ける
誰も喋らない
脚音だけが一定のリズムを刻む

私は前を見ながら、小さく息を吐いた

ヴァイスノヴァ「本当に追わないんですね」
ラン「はい」

ランは短く答える

ラン「今はまだ、その時ではありません」

その時だった

パンッ!

乾いた音が辺りに響く
私は思わず肩を震わせた

音のした方を見る……ハクレイナだった

ハクレイナ「よーし!」

満面の笑み
走りながら、なぜか胸を張る

ハクレイナ「敵も見えなくなったし!」

両手を大きく広げる
もちろん走ったまま
バランスが悪そうなのに……よくやりますね

ハクレイナ「それじゃあ!作戦発表しまーす!」
ヴァイスノヴァ「……え?」

思わず声が漏れた
ランも少しだけ目を丸くする

ラン「作戦……ですか?」

ネクシアードは視線だけを向ける
クロウヴァは苦笑い
ノクティエラも黙って様子を見ている

だが……当の本人だけは、とても楽しそうだった

ハクレイナ「実はね!」

ハクレイナは人差し指を一本立てる

ハクレイナ「このままだと、多分みんな負けるんだよ!」

全員の脚は止まらない
でも……空気だけが止まった

ヴァイスノヴァ「えっと……」
サクラミスト「急に何!?」
ユキハク「……どういう意味ですか?」
クロウヴァ「負けるって、誰に?」
ハクレイナ「ジェントル・ヴァーディクト達に!」

あまりにも真っ直ぐな答えだった
その瞬間……後ろから小さなため息が聞こえた
アークシエルだった

アークシエル「ハクレイナ……説明が足りてません」

そう言いながら前へ出る
ハクレイナのすぐ隣
ハクレイナは嬉しそうに一歩下がる

ハクレイナ「ではアークシエル先生お願いします!」

私は思わず笑いそうになる
二人とも真面目なのに……何だろう、このやり取り
アークシエルは少し困ったように笑う

アークシエル「急にこんな話をして……すみません」

一拍置く

アークシエル「でも……多分今しかないから」

誰も口を挟まない
走る音だけが続く
アークシエルは全員をゆっくり見渡した

ペイル・インク・トライフェクタ
レゾナンス・ハーモニクス
サイレント・レイヤー

全員の視線が集まる

アークシエル「まず一つ」

静かな声だった
それでも不思議と聞き取りやすい

アークシエル「このまま走ったら、一番得をするのはジェントル・ヴァーディクト」

ランは何も言わない
ネクシアードも表情を変えない
ノクティエラも静かに聞いている

アークシエルは前方を見た
もうジェントルの姿は見えない

アークシエル「みんな……さっきのジェントル・ヴァーディクトのアタックに対して見送ったよね」
ヴァイスノヴァ「ええ」
アークシエル「つまり……全員が同じ判断をしたってこと」
ヴァイスノヴァ「……」

言われてみれば、そうだった
誰一人
「追おう」とは言わなかった

アークシエル「だったら」

少しだけ笑う

アークシエル「考えることも、きっと同じ……全チーム終盤で勝負するつもり」

ハクレイナは何度も頷く
頷き過ぎて耳まで上下に揺れている
その様子が少しだけ可笑しくて、サクラミストが笑いを堪えていた

アークシエルは静かに続ける

アークシエル「だから……」

一呼吸
そして全員を見渡した

アークシエル「ここからは四チームで走ろう」

その一言で……20人の空気が、静かに変わり始めた

次節へ


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