【黒き孤独の中で見つけた白墨】第5章 「自分が孤独だった理由」
第5章テーマは、認知的不協和再結合(Cognitive Dissonance Rebinding)
認知的不協和再結合は【認知的不協和とは「好きなのに不安」「正しいのに苦しい」
といった矛盾状態であり、通常はどちらかを修正して解消するが、再結合では、矛盾を新しい意味づけで統合する】というものです
しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります
それでは、第5章 「自分が孤独だった理由」をイメージ楽曲と共にお楽しみ下さい
↓第5章のイメージ楽曲↓
前回のあらすじ
私は、もう理解していた
孤独が消えた理由も
眠れる夜の理由も
そして・・・揺れるこの気持ちも
すべて、彼女―桐谷真白のせいだ―
だから私は、この気持ちを伝えるため、彼女を呼び出した
場所は、初めて出会ったあのテラス
私は、予定より三十分早く来ていた
落ち着かない……からではない
立ち位置を確認するためだ
テラスのベンチに座り、立ち、また座り直す
スマホの画面を拭き、ジャケットの襟を整え、呼吸を数える
我ながら、おかしい
商談の前より緊張している
やがて、彼女が来た
私は、彼女の顔を見た瞬間、準備していた言葉を全部捨てた
「好きです」
……逃げ道のない言葉だった
回りくどい説明も、前置きも、比喩もない
しかし、真白さんは、驚かなかった
少しだけ視線を落とし、夜風に髪を揺らしながら、静かに言う
「……まだ、あなたのこと……よく分かりません」
当然だ
私は彼女に、ほとんど本当の自分を見せていない
弱音も、失敗も、ほんの一部だけだ
私の事を、彼女は知らない
彼女は続ける
「墨人さんは……私の事……まだ本当の意味では、理解していないと思います」
私は、その言葉の行き先を察する
断るための前置きだ
彼女は、誠実だ。だから……この告白を軽くは受け取らない
私は、胸の奥が少し痛むのを感じながら、妙に冷静だった
ここで、私は初めて自覚する
私は、彼女に選ばれたいのではない
自分の意思で、選びたい
これまでの私は、評価される側だった
成果を出し、選ばれる
だが……今は違う
完璧でなくてもいい
それでも、私は彼女を選びたいのだ
彼女の重さも
慎重さも
全て……
私は、一歩踏み出した
「分かりません。貴方の言う通り全て分かっていないはずです」
自分でも、驚くほど正直な声だった
「でも……分かりたいと思っています」
私は、夜空を一度見上げる
逃げ道は、いくらでもある
友達のままでいれば、今の安定は続く
壊れる可能性は減る
それでも……私は続ける
「あなたの重さが怖いわけではありません」
少し間を置く
「重いと分かっていても……私はそれを選びたい」
口に出してから、自分の言葉に驚く
重いと分かっていて、選ぶ
合理的ではない
鷹宮家の次期当主が、そんな判断をする必要はない
だが、私は妙にすっきりしていた
真白さんは、しばらく黙っていた
風が、二人の間を通り抜ける
私は、胸の鼓動を数えながら、彼女の返事を待った
初めてだ
選ばれる側ではなく、選ぶ側に立つのは
そして私は、ようやく理解し始めていた
自分が孤独だった理由を

私は、ずっと選ばれる側に立っていた
成果を出せば残る
失敗すれば距離が生まれる
関係とは、そういうものだと思っていた
だが……彼女は違った
理解してからでなければ、始めない
軽さで繋がらない
曖昧に逃げない
その誠実さを―私は好きになったのかもしれない―
だからこそ、私は逃げなかった
「分からないなら、分かるまで一緒にいればいい」
自分でも、ずいぶん乱暴な言い方だと思う
真白さんは目を細めた
「私は、付き合う前に全部調べます」
「知っています」
私は鞄から紙を出した
彼女が最初に見せた、あの誓約書
正確には……あれを私なりに書き直したものだ
【お付き合いを始める前に】
私は、あなたを一人にしない
嘘をつかない
不安を笑わない
そして……突然いなくならない
鷹宮 墨人
真白は、わずかに息を止めた
「……どうして」
「あなたが言ったからです」
私は続ける
「軽い方が、不誠実だと」
風が、二人の間を抜ける
そして私は、もう一枚取り出した
婚姻届
自分でも、正気とは思えない
だが私は、妙に冷静だった
「付き合う、という曖昧な形は取りません」
声は震えていない
だが鼓動は、笑えるほど速い
「逃げ道を作ると……あなたは安心しないでしょう」
真白の指先が、わずかに揺れた
初めて見た……彼女が、迷っている所を
「……まだ、よく分からないと言ったばかりです」
「ええ」
「私、重いですよ」
「知っています」
「本当に?」
「はい……あなたが思っているより……ずっと」
私は一歩も引かなかった
評価も成果も関係なく、自分を差し出す
そんなこと、これまで一度もなかった
真白さんは、ゆっくり婚姻届を持ち上げた
紙を見つめ……そして私を見る
長い……長い沈黙
やがて、彼女は小さく息を吐く
「……私が言えたことではありませんが」
ほんのわずか、口元が緩む
「重い……ですね」
その声音は、拒絶ではなかった
私は言う
「あなたに釣り合うつもりです」
言った瞬間、胸の奥で何かがほどけた
私はずっと、孤独を成果で埋めてきた
だが今は違う
初めて、自分の意志で選んでいる
真白は、誓約書の私の署名を指でなぞった
そして、静かに言う
「……調べる時間は、長くなりますね」
彼女はペンを取った
そして、私の名前の隣に
桐谷 真白
と、書いた
私は思わず言ってしまう
「本当に書くんですか?」
「……あなたが出したのでしょう」
真白は、淡々と答える
「私……逃げないと……言いましたよね」
その言葉に、私は笑った
こんな重たい告白で、こんな静かな返事があるだろうか?
だが、胸は不思議と軽い
そして、初めて気づいた
孤独だったのは、誰も選ばなかったからだ
選ばれることばかり考えて、自分から差し出すことをしてこなかったからだ
その瞬間……私は初めて思った
今まで、孤独で友達がいなかったのは……彼女と出会う為なのだと……
以上で、【黒き孤独の中で見つけた白墨】の物語はおしまいです
この物語に登場する恋愛心理学の正しい使い方を知りたい方
以下リンクにて確認できます
