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【黒き孤独の中で見つけた白墨】第4章 「揺れた夜」

第4章テーマは、情動一貫性圧縮効果(Affective Consistency Compression)
情動一貫性圧縮効果は【感情のブレを見ないことで、安定性を過大評価する現象】というものです

しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります

それでは、第4章 「揺れた夜」をイメージ楽曲と共にお楽しみ下さい


↓第4章のイメージ楽曲↓

前回のあらすじ

忙しいのは、いつものことだ
圧力も、責任も、生まれた時から与えられている
決断は日常で、緊張は空気のようなものだ

違うのは……最近、夜が苦しくない
孤独は、確かに消えている
それは事実だった

その日も、会議を終え、役割としての私を丁寧に片付けていった

だが、執務室に戻ったとき、指が止まった

スマホの画面。真白さんとのトーク欄

これまで私は、近況を報告するだけだった
事実や結果だけを……報告する

だがその日は、違った

『少し……疲れました』

送った瞬間、私は椅子に背を預けた

弱音は、価値を下げる

それが、私の常識だ
完璧であることが前提の人間が「疲れた」と言うのは、許されない事だ

既読
返信は、すぐ来た

『そうなんですね』

変わらない

『なら今日は……何も考えなくていいと思います』

それだけ

私は、画面を見たまま、しばらく動けなかった

何も考えなくていい

そんな許可を、私は人生で受け取ったことがない

気づけば、肩の力が抜けていた
そして私は、わざわざおかしなことを始めた

執務室の電気を一段落とし
椅子を少し回転させ
机の正面ではなく横を向いて座る

まるで「考えません」と姿勢で示すかのように……

誰も見ていないのに、私は真剣だった

そして、目を閉じる
確かに……頭の奥の緊張が、静かにほどける

改めて言う……彼女は、何もしていない
ただ、「考えなくていい」と言っただけだ

それなのに、私は従っている
私はそこで、妙なことに気づいた

私は、彼女に感情を置いている?

疲れも
緊張も
彼女の前にそっと置いている

自分で処理する代わりに、いったん預けている

そして彼女は、揺れない

どんな報告にも、同じ温度で返してくれる

それが、成功でも、失敗でも……

だから、私が揺れても崩れない
それが、どれだけ危険かは理解していた

他人に、自分の心を預けることを…

それでも、私は送る

『あなたは……動じませんね』

送信してから、少し照れた
褒めているのか、責めているのか、自分でも分からないからだ

数秒後……返信が来た

『揺れるときは……揺れますよ』

淡々としている

私は、その文章を何度も読み返した

揺れるときは、揺れます

彼女は、いつも同じ温度に見える
疲れたと言っても、失敗したと言っても、変わらない

私は勝手に、彼女は何があっても「揺れない人」だと思っていた

けれど……実は彼女も揺れていたのかもしれない

問題は、だいたい突然来る

家の内部で意見が割れた
長年温存していた案件に対し、強硬派と慎重派がぶつかる
私は、最終判断を求められていた

どちらを選んでも、誰かが不満を抱える案件

会議室を出た瞬間、私はもうスマホを手にしていた

『少し……困った事がありました』

短い
説明もない
だが、これまでで一番踏み込んだメッセージ

既読がつく
だが……返事が来ない

10分後……私は、机の上の資料をめくる。内容は頭に入いっていない
20分後……椅子から立ち上がり、窓際に行く。外は……静かだ
30分後……スマホを裏返し、また表にする。通知音が壊れていないか確認する

胸が、ざわつく
初めてだ……彼女の沈黙が、こんなにも落ち着かないのは

私は気づいてしまった
―返事が来る前提で、感情を預けている―

1時間後、ようやく通知が鳴った

『ごめんなさい……少し考えていました』

安堵と同時に、妙な緊張が走っていた

『私の言葉が、あなたの負担にならないかを……』

私は、画面を見つめたまま動けなかった
彼女は、常に一定だった
成功にも失敗にも、同じ温度で返してくれていた

私は、急いで打つ

『負担ではありません』

そして、止まる
もう一文、送るべきか

私は、これまで自分の感情を、丁寧に削ってきた
だが……今は違う

『あなたがいるだけで……少し楽になる自分がいます』

送信
鼓動が、はっきりと速い

これは告白ではない
だが、境界を越えた感覚があった

しばらくして、返信が来る

『……それなら、もう少しここにいます』

私は、その一文を何度も読む

『もう少しここにいます』

私は、スマホを両手で持ったまま、椅子に深く沈む

彼女は、これまで以上に踏み込んでいる

いや、正確には踏み込んでいないのかもしれない
ただ、立ち位置を、ほんの少しだけこちらに寄せただけかもしれない

彼女は揺れないのではない
揺れても、崩れない人だとようやく理解した

そして私は、彼女が揺れると、自分の胸も動くことを知る

その夜、私はおかしなことをした

執務室の椅子を、いつもより机に近づけた
スマホを、書類の上ではなく、中央に置いた
まるで、決裁書と同じ扱いをするかのように

自分でも笑ってしまう。

「何をしているんだ」

だが、やめない
画面には、最後の一文が残っている

『もう少しここにいます』

私は、その言葉を確認してから、ようやく電気を落とした

揺れた夜だった

だが、不思議と、崩れはしなかった
なぜなら……彼女が揺れたことを、知ったからだ

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