【あなたの仕掛けは、私のおもちゃ】第2章 「全部あなたのこと、当たってるよ?」
第2章テーマは、バーナム効果(Barnum Effect)
バーナム効果は【誰にでも当てはまるような曖昧で一般的な性格や特徴を言われると、「これは自分に当たっている!」と感じやすい心理現象】です
しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります
それでは、第2章 「全部あなたのこと、当たってるよ?」をお楽しみ下さい
前回のあらすじ
「桐生さん、最近お忙しいのではありませんか?」
午前中の打ち合わせが終わり、資料整理をしているこよみに、僕はゆっくりと声をかけた
彼女は振り返ると、あのふわりとした笑顔を浮かべる
「まあ、そうですね。でも、楽しいですから」
そう答える彼女の口調は軽やかだが、その奥に一瞬、影が見えた
――今だ
「でも、桐生さんって…表には出さないけれど、実は誰にも言えない寂しさを抱えていらっしゃるのでは?」
僕はわざと少し声を落とし、深刻そうに眉を寄せた
これは万能の切り札だ。誰でも、少なからず心に孤独を抱えている
「当たってる」と思わせれば、心の扉はすぐに開く――そう信じていた
「えっ…」
こよみは小さく息を呑むと、目を丸くした
「え〜、当たってますね!」
小さな笑い声が響き、僕の胸に小さな勝利感が生まれる
完璧だ。これで距離は一気に縮まる
「ふふ、私のこと、そんなに分かっちゃうんですか?」
「ええ、なんとなく…お顔や仕草から感じ取れるものがありますので」
そう言うと、こよみは口元に指を当て、楽しそうに目を細めた
「じゃあ、もっと当ててください」
一歩近づくこよみの香りがふわりと鼻先をくすぐる
動揺しないように呼吸を整えながら、僕はさらに続ける
「桐生さんは、人の前では笑顔でいらっしゃいますけど、本当は自分の弱さを見せるのが怖いんですよね?」
「えー、すごーい!当たってる、当たってる!」
そう言いながら、こよみは嬉しそうに拍手をする
周囲には、まるで心理テストを楽しむ女子会のような雰囲気が流れる。
だが、その瞬間、彼女の瞳が細くなった
「ところで、真央さん」
「はい?」
「私のどこを見て、そんな風に思ったんですか?」
――しまった
「えっと…その…」
僕は口を開きかけるが、言葉が出ない
「ねえ、もっと言ってくださいよ?私のこと、何でも当てちゃうんですよね?」
顔を覗き込む彼女の目は、完全に獲物を捕える猫のようだ
一歩下がりたくなるのに、なぜか足が動かな
「さあさあ、続きをどうぞ?」
柔らかい声で追い打ちをかける彼女に、僕の喉はからからに渇いていく。
予定では、彼女が戸惑い、心を開くはずだった
それが今では、僕のほうがすっかり解析される側に回っている
――くそ、可愛い顔をして、なんて危険な人なんだ
そう心の中で唸りながら、僕はなんとか笑顔を作った
だが、この微笑みが、こんなに苦しいものだとは思わなかった
「続きを、お願いしますね?」
こよみの声が、会議室に響く
静かな空間に、ただ二人だけ
彼女の笑顔は柔らかいのに、その奥に隠された鋭い好奇心がひしひしと伝わってくる
「え、ええと…桐生さんは、人に見せる自分と、本当の自分の間に、ちゃんとした線を引いているタイプ…です、よね?」
言い終えた瞬間、こよみが身を乗り出してきた
笑顔のまま、机の端に肘をつき、頬杖をつく姿勢は無邪気さの中に小悪魔的な色気がある
「えー!それも当たってる!すごーい、真央さんって、占い師さんみたいですね〜!」
パチパチと拍手をしながら、彼女は僕をじっと見つめる
褒められているのに、まるで小動物を品定めされるような居心地の悪さが走る
「……恐縮です」
僕は小さく頭を下げるが、内心では冷や汗が背中を伝うのを感じていた
「じゃあ…もっと、私のこと当ててくださいよ?」
声が、少し甘く低くなる
僕は意を決して、さらに言葉を続けた
「桐生さんは…えっと…人に頼られることが多いけれど、実は頼るより頼らせるほうが好き、ですよね?」
こよみは一瞬黙る
やった、少しは刺さったか――そう思った瞬間、彼女の肩が小さく震えた
「え〜!ほんとにすごい!あははっ!」
こよみは机に突っ伏すようにして笑い出す
指先で机をトントン叩きながら、何度も小さく息をつく姿は、本当に楽しそうだ
「じゃあ、逆に質問です」
顔を上げたこよみの目が、まっすぐ僕を射抜く
「真央さんは、どうしてそんなに私のこと知りたがるんですか?」
「え、それは…」
「そんなに私のこと、気になるんですか?」
甘い声のナイフが、胸の奥にぐさりと入る
質問攻めされるはずだったのは、彼女のほうだったのに――
「私、もっと当てられたいなぁ。ねえ、もっと…暴いてくださいよ?」
首を少しかしげ、目を細めるこよみ
笑顔の裏で舌を出しているようなその仕草に、息が詰まる
「……いえ、その…僕は…」
「ふふっ、顔赤いですよ?」
再び身を寄せてきた彼女の距離感に、僕は机に押しやられた
この距離、呼吸がまともにできない
柔らかい髪の香りが、鼻先をかすめる
「本当に…真央さんって面白いですね。私のこと見抜いてるようで、見抜かれてるのは自分のほうだって、気づいてます?」
「……っ!」
「ねえ、真央さん。私のこと、もっと知りたいですか?」
問いかける声はまるで、甘いお菓子のようだ
けれど、その甘さには、明らかな罠がある
「……もちろん、知りたいです」
言葉が口をついて出る
理性が止める間もなかった
こよみは、その答えを待っていたかのように、さらに微笑んだ
「じゃあ…楽しみにしてますね、これからの“占い”も」
小さな声でそう囁くと、彼女は資料を持ち上げ、軽やかに部屋を出て行った
取り残された僕は、ただ机の上で手を握りしめるしかなかった
本当は、操る側のはずだったのに
それでも、なぜか胸の奥に残る微かな高鳴りが、悔しいほど心地よかった
次章へ
