第2章『食路』序節:春日の味【ケンタウルスストーリーイベント】
私が福岡県春日市ケンタウルスに来て、ちょうど一か月が過ぎた頃だった
走る環境にも、街の空気にも、少しずつ身体が馴染み始めた頃合い
そんなタイミングを測ったように、一本のMANE(メイン)通知が届いた
MANE(メイン)
この世界で使われている通信アプリ
因みに、MANEは日本語で:たてがみ
『○月○日 JR博多駅南に来て』
送り主は、迷子さん
この空間の管理者で
師匠でも上司でもなく、もちろん恋愛対象でもない
ただ、いつも私の進路の少し手前に立って、きっかけだけを置いていく人だ
当日、指定された時間にJR博多駅南へ向かった
人の流れは多く、情報だけが忙しく行き交っている
私は周囲を見渡すが、迷子さんの姿はない
……いない
柱の影、改札の外、信号の向こう
それでも見つからず、私は軽く首を傾げた
その瞬間だった
「ノヴァ、【春PASS】って知ってる?」
背後から、何でもない調子の声
振り返ると、いつの間にか迷子さんが立っていた
存在感の出し方が、相変わらずおかしい
「……知らないです」
私がそう答えると、迷子さんは満足そうに一つ頷い。
「じゃあ、ちょうどいい」
そう言って、迷子さんは一つの宣伝動画を流し始めた
動画が終わり迷子さんはこう言った
「今回はね」
迷子さんは立ち止まり、私を見る
「この春PASSに協力してるお店を、ノヴァ達に走ってもらう」
走る
その言葉に、私の中の軸が自然と揃った
「紹介、ってことですか?」
「そう。食べて、見て、通って。春日の味を、ちゃんと身体で覚える」
競馬を観る側から、走る側へ踏み越えた私にとって
走る理由はいつも一つだ
最後まで、走り切ること
ただ、街を巡って、店を紹介する
冷静に考えれば、ケンタウルスがやることではない
けれど私は、自分の選択がおかしいことを、ちゃんと自覚したまま前に出る
「どんなコースですか?」
私がそう尋ねると、迷子さんは少しだけ笑った。
「それは、走ってみてのお楽しみ❤」
春日の街には、まだ知らない味がある
私は蹄先を揃え、次の一歩を待った
さて
―最初に香るのは、どんな春日の味だろう―
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