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【攻略する側が堕ちるゲーム】第3章 「俺の良さを見せるには、舞台と観客が必要だ」

第3章テーマは、隠蔽の窓(開放の窓)

隠蔽の窓は、自分と他人の認識のズレを4つの窓に分けて可視化した心理学モデルです
その中でも「隠蔽の窓(開放の窓)」は「自分は知っているが、他人は知らない自分」を意味します

しかし、心理学に沿いながらも「冷静に考えるとおかしい行動」になる場合もあります

それでは、第3章 「俺の良さを見せるには、舞台と観客が必要だ」をお楽しみ下さい

前回のあらすじ

静かな午後
書斎に陽が差し込み、床に柔らかい影を落としていた

俺はその中で、少しだけ斜めに座っていた。ソファに腰かけ、片足を組み、肘を肘掛けにかけて――
言うなれば、“知性のある男”を演出する最適な姿勢だった

手には本。だが文字は見ていない
そもそも上下逆だ。気づいていないフリをしながら、ページをパラパラと音を立ててめくる
タイミングを見計らい、わざとらしく眉をひそめたり、ため息をついたり

そう、これは「開かれた自己」演出だ
人は、自分を理解してもらうことで、相手との距離を縮められる。――らしい
ならば俺は、自分の魅力を惜しみなくさらけ出してやろう

と、そのとき

「失礼します」

ゆかりが静かに現れた。今日は掃除の日だ。俺は自然な流れで声をかける

「おや、君も本は読むのか?」

「拭き掃除をします」

「なるほど。じゃあ、ここで俺が読んでる“孤独と自由”について、気になったら聞くといい」

「……掃除機の音が邪魔にならないよう、手作業にします」

スルーされた
しかもやけに気を使われた。俺が読書を“しているフリ”をしていることに気づいたのか……?
だが、気づいていても触れない。それが彼女流の優しさかもしれない

次の作戦に移る

俺は部屋を移動し、さりげなく**“趣味を演出できる空間”**を整えた

リビングに電子ピアノを運び、楽譜を開いておく
その横には、淹れたての紅茶とミルフィーユ。品のあるティータイムを演出しつつ、「この男、芸術家の一面もある」的なイメージを与える狙いだ

「旦那様……ピアノを弾かれるのですか?」

「まあね。昔ちょっとね。触ってたくらいだが、まだ指が覚えていてさ……」

――そして俺は、白鍵を一音鳴らした
“ド”だけ。しかも少し濁った

「……?」

「今のは調律ね。ほら、ピアノって環境で音が変わるからさ」

「音階をお調べですか?」

「……まあ、うん、そんな感じだ」

いや、違う。嘘だ。俺は“ド”しか弾けなかった
だが彼女はそれ以上追及せず、無表情でピアノの横を拭き始めた。拭くたびに鍵盤がカチャカチャと音を立てる。俺よりリズム感あるんじゃないか?

次の作戦――「思慮深い男」演出

俺は廊下の棚に“考えごとしてます風のメモ”を置いた

《人生とは、自分で見つけた罠に、自分でかかることだ》

どうだ。意味がわかるようで、わからない。だが、深い“ふり”ができる

ゆかりがそれを見た

「……この紙、処分しますか?」

「えっ、それ読んでどうだった?」

「……火災防止のため、廊下に紙を放置しないようにしてください」

違う、そうじゃない。感想をくれ。意味とか、感じたこととか!

でも彼女はもう、雑巾片手に去っていった

……俺は、いったい何をしているんだろうな

だがなぜか、その背中を見送りながら――
「ま、明日は“絵描き風の男”でも演じてみるか」と、思ってしまう自分がいた

次の日、俺は“アートの男”になることにした
リビングのテーブルにスケッチブック、横には色鉛筆、さらに無意味に置かれたレモン。画材っぽい雰囲気を演出するためだ

その横で、俺は斜めに体を構え、ペンをくるくる回しながらポーズをキメた

そこへ現れるゆかり

「旦那様、レモンは調理用でしょうか?」

「違う。これは“雰囲気”だ。画家はレモンを描くとき、形より香りを意識する……らしい」

「……そうですか」

無表情でレモンを片付けられた
雰囲気、消滅。俺の努力、一瞬で柑橘類へと還った

気を取り直して、次なる演出は「“考え込む男”の窓辺の背中」。
窓際に立ち、腕を組み、何かに思い悩むように遠くを見る。シルエットが絵になる。
目を閉じることで“哲学的空気”も出る。完璧だ

そこへ、ゆかりが背後から近づく

「……旦那様、目を開けてください」

「今、俺は世界と対話しているんだ」

「そのまま立っていると、カーテンが閉められません」

「……世界、ちょっと後でまた話そう」

結局、俺はカーテンの一部として回収された

だが、諦めるわけにはいかない

夜。俺は最終兵器を投入する
名付けて「俺がどれだけ君を理解してるかアピールノート」
日々観察したゆかりの行動をこっそり記録し、“気づいている”アピールに変換する

《6月4日:紅茶の淹れ方が少し変わった。たぶん気圧の影響?》
《6月5日:掃除中に右足をかばっていた? 靴擦れか?》
《6月6日:ネジの締まりに対するこだわりが強すぎる。もしかして元・ロボ?》

ページ数は10を超えた。ほぼ観察日誌だ。これを、さらっと「机に開きっぱなしにしておく」。もはや癖

翌朝――

何気なくページをめくると、見覚えのない小さな付箋が貼ってあった

《6月4日について:気圧ではなく、新しいティーパックを使っただけです》

……え?

《6月6日について:元・ロボットではありません。工具が好きなだけです》

……!?

ページをめくるたびに、無表情な訂正文が増えていた。淡々と、端的に、でも確実に“見ていた”ことがわかる
しかも――そこには、最後のページにこう書かれていた

《6月7日:旦那様は最近、自分を演出しすぎていて疲れて見えます。ゆっくり、どうぞ》

ぐさっ

心臓に静かに突き刺さる、この配慮
演出じゃない、これは……本当に俺を“見ていた”んだな

「……やられた。俺、完全に観察されてた……」

見せつけるつもりだったのに、見透かされていた
俺が開示したつもりの“開放の窓”は、もともと、彼女からは開いていたのかもしれない

いや、違う。彼女が開けてくれたのか――静かに、そっと

そんなことを思った俺は、珍しく照れながらページを閉じた

「……明日はもう、普通に過ごしてみようかな」

演出なし、アピールなし
たぶん、それでも彼女は、見ていてくれるだろう

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↓第3章オマケを動画にて公開 気になる方はcheck↓


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