第6章『初陣』第4節:二つの切り札【ケンタウルスストーリー】
デモレース第1戦は終了した
ハクレイナの勝利で幕を閉じ、後続集団も次々とゴール板を通過していく
私――ヴァイスノヴァも、ようやく息を整えていた
二着
結果だけ見れば悪くない
だが、内容は違う
騙され
利用され
最後は追いついたものの届かなかった
反省点なら山ほどある
そんな私の隣で、ランが笑った
ラン
「惜しかったね。ヴァイス」
ヴァイスノヴァ
「はい……でも反省の多いレースでした」
ラン
「初めてだから仕方ないよ」
ヴァイスノヴァ
「でも……」
言葉が続かない
負けた事実は変わらない
ランはそれ以上何も言わなかった
その時だった
会場の方から大きな歓声が上がる
私は思わず顔を上げた
ヴァイスノヴァ
「今の歓声は何ですか?」
ラン
「ああ、レースの勝者によるウイナーズライブだよ」
ヴァイスノヴァ
「ウイナーズライブ?」
ラン
「そう。レースに勝つと、ウイナーズライブをすることになっているの」
ヴァイスノヴァ
「えっ……初耳なんですけど……」
ラン
「あれ……言ってなかったっけ?」
私は一瞬固まった
そして理解する
(もしかして……あのまま差し切っていたら……私がライブをやることになっていたのですか?)
しかも何の準備もなしで
負けた悔しさとは別方向の冷や汗が流れた
そんな私を見ながら、ランは平然と言う
ラン
「そんな事より、次のレースの作戦会議やるよ」
ヴァイスノヴァ
「もうですか!! 今レース終わったばかりですよ」
ラン
「しょうがないよ。迷子さん、デモレースは二戦やるって言ってたし」
ラン
「会場も押さえているから、すぐに開催しないと」
ヴァイスノヴァ
「そう……なんですね」
(もう少し計画的に組んで欲しいのですが……まあ、迷子さんですから仕方ありません)
そう結論付けるしかなかった
会議室へ戻る途中、静かな声が聞こえた
ユキハク
「惜しかったね。ヴァイス」
ヴァイスノヴァ
「……先程もランに言われましたが……もしかして気を遣って下さってますか?」
ユキハク
「……別に」
即答だった
(あっ……本心でしたか)
(申し訳ないことを言いましたね)
短い言葉なのに、不思議と胸に残る
そのまま全員が席に着く
ランがパンッと手を叩いた
ラン
「皆、今日のレースお疲れ様」
ラン
「今回のレース……反省点ばかりだったけど、これも経験! 次に活かそう」
笑顔
明るい声
だが……何となくだが圧を感じる
(ラン……)
(実は今日のレース内容……すごく怒っていませんか?)
そんな空気のまま次の話題へ移った
ラン
「次のレースは……京都1200メートル」
ラン
「チーム戦にしては珍しい短距離だよ」
ヴァイスノヴァ
「……すみません。ラン。短距離戦はそこまで珍しいものではないはずですが」
ラン
「普通はね」
ラン
「でも普段のチーム戦は、実際の春日市の距離を参考にしているから、どうしても長くなりがちなの」
ラン
「今回みたいに正式に場所を押さえてやるものじゃないから」
ヴァイスノヴァ
「そう……なんですか」
春日市基準のレース
聞けば聞くほど独特である
そしてランは作戦書を広げた
ラン
「今回の作戦は……私とヴァイスのWエース体制でいきます」
ヴァイスノヴァ
「Wエース体制?」
ラン
「そう。どちらがゴールを狙うか、限界ギリギリまで隠す作戦」
ラン
「今日のレースで、ヴァイスの底力は敵チーム全員に見せられた」
ラン
「今回は短距離。一瞬の判断が勝負を分ける」
ラン
「だから相手の判断を最後まで鈍らせるの」
なるほど……確かに理屈は分かる
だが……
ラン
「でも、形式上エースはヴァイスノヴァで提出します」
ヴァイスノヴァ
「形式上?」
ラン
「能力値の問題ね」
ラン
「自分の成長タイプと同じ役割にすると能力値が上がる」
ラン
「計画書は、その能力とチームの基本戦略でシミュレーション結果が変わるの」
ラン
「だから、こうして計画書を立てる必要があるの」
ヴァイスノヴァ
「そう……ですか」
(随分メタ的なことを言いますね)
正直、深く考えないことにした
するとランが次の説明に入ろうとする
ラン
「そして……他のみんなだけど……」
しかし、その瞬間
迷子
「みんな講堂に来て……個人レースの枠順が発表されるわよ」
突然の館内放送
私は首を傾げた
ヴァイスノヴァ
「個人レースの枠順が発表?」
ラン
「あっ、今日木曜日なんだ」
ヴァイスノヴァ
「すみません……木曜日と個人レースの枠順発表に何の関係が?」
ラン
「個人戦は、実際の参考レースの枠順・人気・着順を参考にするの」
ラン
「だから公式が発表する前に枠順を決めないと不公平になるでしょう」
ヴァイスノヴァ
「確かに……」
言われてみればその通りだ
作戦会議はそこで一時中断
私達は席を立つ
講堂へ向かう仲間達の背中を見ながら、私は小さく息を吐いた
第1戦は終わった
だが、次の勝負はもう始まっている
そう思いながら、私は皆の後を追った

講堂には多くのケンタウルス達が集まっていた
先程までレースをしていたとは思えないほど賑やかだ
陽菜乃
「それでは、KR2026 個人第1戦の枠順は……」
会場が静まる
そして発表が始まった
私は特に緊張していなかった
個人戦はまだ先だ
そう思っていたのだが……
サクラミスト
「ヴァイス!! 名前呼ばれたよ! 3枠だって!」
隣でサクラミストが大きく手を振る
ヴァイスノヴァ
「そう……ですね」
(しかし……前評判があまり良くありませんね)
そんな私の様子に気付いたのか、ランが横から覗き込んできた
ラン
「ヴァイス……人気が無いの気にしている?」
ヴァイスノヴァ
「はい……自分なりには頑張っているはずですが……」
ラン
「気にする必要はないよ」
ラン
「レースは前評判だけで決まる訳じゃないから」
ラン
「むしろ大事なのは、どの枠に入ったかだよ」
ヴァイスノヴァ
「枠順ですか?」
ラン
「そう」
ラン
「結果は枠の人気・順位によって何倍にもなる」
ラン
「ハクレイナに言われたでしょう」
ヴァイスノヴァ
「そう……ですね」
(だから先程から随分メタ的なことを言いますね)
もう突っ込まないことにした
考えたら負けな気がする
枠順発表が終わると、ランは満足そうに頷いた
ラン
「そんな事より……チーム戦の作戦会議の続きやるよ」
ルナヴェイル
「はい」
ヴァイスノヴァ
(えっ!!)
(今……そんな事よりと言いましたか?)
(私にとってはかなり重要なことなのですが……)
誰も気にしていない
結局そのまま会議室へ戻ることになった
席に着いたランは首を傾げる
ラン
「えーっと……どこまで話したっけ?」
ヴァイスノヴァ
「私とランのWエース体制でいくことになり、他のみんながどんな役割になるかです」
ラン
「そうだったね」
ランは作戦書を開く
ラン
「まず、ルナヴェイルは私のアシストをお願い」
ルナヴェイル
「了解です。月の影に添うように動きましょう」
ラン
「お願いね」
続いてユキハクへ視線を向ける
ラン
「ユキハクはヴァイスのアシスト」
ユキハク
「……了解」
ヴァイスノヴァ
「助かります」
ユキハク
「……うん」
相変わらず短い
だが不思議と安心感がある
最後にサクラミスト
ラン
「サクラミストは前へ」
ラン
「短距離だから、序盤から流れを作って」
サクラミスト
「任せて!」
サクラミスト
「今度は最初から飛ばすよ!」
(それはそれで少し不安ですね)
事務局
「チーム戦の指示書提出期限まで、残り5分です」
全員が固まる
ラン
「もうそんな時間!!急がなくちゃ!」
ヴァイスノヴァ
「作戦書はまだ完成していませんよね?」
ラン
「大丈夫!」
ラン
「大枠は決まってるから!」
ヴァイスノヴァ
「大丈夫の基準が少し怖いです」
サクラミスト
「急げ急げー!」
ルナヴェイル
「夜が落ちる前に、形にしましょう」
ユキハク
「……手伝う」
そこからは慌ただしかった
ランがまとめ
ルナヴェイルが整理し
ユキハクが不足を補い
サクラミストが勢いで押し切る
そして私は内容の確認を行う
完璧とは言えない
だが方針は決まった
私とランによるWエース体制
短距離戦
最後まで本命を悟らせない作戦
提出期限ギリギリで作戦書は完成した
私は窓の外を見る
夕暮れが近付いていた
(前回のチーム戦は、不甲斐ない結果に終わりました)
騙された
負けた
悔しかった
(ですが、次は違います)
第1戦で得た経験は確実に残っている
そして今回はチーム全員が最初から同じ方向を向いている
(次のレースこそ……)
私は静かに拳を握る
(エースとして……必ず勝利してみせます)
次節へ
