見出し画像

【ショートストーリー】わたしの半分。

彼の部屋のカップボードの奥に、知らないマグカップが置いてあった。 

あの顔に騙されたと思ってる?いや、元々そんな男だから。優しくて、少し優柔不断で、少しお人好し。安心していい、そのままの人。

あなたが誰かは知らないけれど。

朝、いつものようにコーヒーを淹れようとして、私はそれを見つけた。グレーと黒ばかりの食器の中で、ひどく浮いた一客。

一瞬、驚きで息が止まる。

でも、意味が分かれば、たいした問題じゃない。
薄いピンクの恋着。可愛いとさえ、思ってしまう自分がいる。 

あいつは、きっとこう言う。 

――なんで。

こんなに長く付き合ったのに、こんなことで別れるのか。


私は違う。


こんなに長く付き合ったから、別れるの。

亀裂は、もう時間の問題だった。
彼女はただ、薄いピンクのマグカップをここに置いただけ。

あなたを愛せなくなったからじゃない。
わたしを愛せなくなったから。


私には、もう、ない。
でも、この薄いピンクのマグカップのように、確かに、存在していた。


いつから、2人で空っぽの箱を大事に抱えていたのかな。

最後に、ひとつだけ。


ねぇ、帰り道、寒くなかった?



              (喫茶 YUGE/裏)

本編「ふわりと、雪の舞う夜に」はこちら。珈琲のように、少し苦くて、でもキャロットケーキのように優しく甘い、恋着のおわり。




いいなと思ったら応援しよう!