濃い紫の紫陽花が、遠い日を連れてきた。
朝、歩いていると、濃い紫色の紫陽花が、目に留まった。
青でも、ピンクでもない。その中間の、深い紫。朝の光の中で、しっとりと濡れていた。
珍しい色だな、と思った。

【紫陽花の色は、土の中で決まる】
紫陽花の色は、その土の性質で変わる、と聞いたことがある。
土が酸性だと、青くなる。アルカリ性だと、ピンクになる。日本は雨が多くて、土が酸性に傾きやすいから、青い紫陽花が多いのだそうだ。
では、あの濃い紫は、なんだろう。
たぶん、酸性とアルカリ性の、ちょうど境目なのだと思う。青にも、ピンクにも振り切れない。どっちつかずの土から、あの深い紫が生まれる。
珍しい色には、珍しい土がある。そう思うと、足元の土のことを、少し想像したくなった。

【美術の課題だった】
その紫を見ていたら、ふと、昔のことを思い出した。
学生の頃、美術の課題で、グラデーションの絵を描いたことがある。青から、赤へ。少しずつ色を変えていく、そんな課題だった。
青から赤へ、色を混ぜていくと、その真ん中に、紫が現れる。青紫、赤紫。私は、その中間のあたりを描くのが、なんだか好きだった。
はっきりした青でも、はっきりした赤でもない。混ざり合って、どちらとも言えない色。あの曖昧なところが、きれいだと思っていた。

【ずっと、好きだったのかもしれない】
考えてみると、私は、あの頃から、この色が好きだったのかもしれない。
赤紫、青紫。青と赤の、あいだの色。
意識したことはなかった。でも、今朝、あの濃い紫の紫陽花に、自然と目が留まった。何十年も前に、絵の中で好んで描いていた色に、今も、足を止めている。
人には、自分でも気づかないうちに、ずっと変わらない好みがあるのかもしれない。そして、それは、ふとした瞬間に、こうして顔を出す。

【朝の紫陽花】
朝の紫陽花が、遠い日の教室を、連れてきた。
絵の具のにおい。窓から差す光。青と赤を混ぜて、紫を作っていた、あの頃の自分。すっかり忘れていたのに、朝の散歩の途中で、急によみがえってきた。
風景も、色も、においも。何かのきっかけで、遠い記憶に、そっと触れることがある。今朝は、それが、濃い紫の紫陽花だった。
雨の季節の、なんでもない朝。でも、こういう小さな出会いが、一日を、少しだけ豊かにしてくれる。
あなたにも、ふと思い出す、遠い日の色はありますか。よかったら、コメントで教えてください。
