世界の裂け目が開く時 ー第13話 それだけは、消えなかった【創作大賞2026】|ファンタジー部門
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それは——荘厳とは、程遠かった。
天が、割れた。地が、軋んだ。
紫の光が神殿から迸り、空を染め上げる。雲が渦を巻き、大気が震えた。鳥が——いや、空を飛ぶあらゆるものが、一瞬で消えた。
ドクン。大地が、脈打った。ドクン。江戸城の石垣に亀裂が走る。ドクン。街が——揺れた。
周辺の建物が吹き飛んだ。土煙が空へ舞い上がり、瓦礫が雨のように降り注ぐ。それでも——まだ、姿は見えない。
気配だけが、膨らんでいく。膨らんで。膨らんで。膨らんで——
裂け目から——異形が、現れた。
それだけで、数キロ先まで街が消えた。埋立地だった。人は、いなかった。
異形の足元から——溢れ出した。骸骨が。一体、二体ではない。十、百、千——数える事すら、意味をなさない。
海から。山から。川から。空から。日本のあらゆる場所から——骸骨が、湧き出してくる。
北海道の雪原が、骸骨で埋まった。大阪の街に、骸骨の波が押し寄せた。九州の海岸から、骸骨の船団が現れた。
それは——かつて元寇が海を渡ってきた時の再現だった。いや、それ以上だった。
日本全土が、戦場になろうとしていた。
しかし——人々は、死ななかった。否、死ぬことは許されなかった。
ここは日本だ。八百万の神が、宿る国。
いたるところから——光が、満ちた。神社の鳥居が、輝いた。社が、光を帯びた。御神木が、震えた。
それは静かだった。声もなく。ただ——在るだけで、世界が動いた。
骸骨の足が、止まった。波が、止まった。船が、止まった。日本という国が——その全てを、押しとどめていた。
あらゆる場所から——兵隊が、現れた。鎧を纏った武者達が、平野を埋め尽くす。槍を構えた足軽が、海岸に整列する。
空には——龍が、飛んだ。幻獣達が、咆哮した。
それはまるで——無双ゲームで見たことのある、あの光景だった。
そしてその先頭に——彼等は、立っていた。時代を超えた将達が。
源義経。
武田信玄。
上杉謙信。
伊達政宗。
坂本龍馬。
名を挙げればきりがない。日本のあらゆる時代が——今、この一点に集結していた。
そしてその中心に——二人が、並んだ。
家康が、静かに言った。
「あ奴は何処にいるんじゃろうかの」
「猿がいないのが寂しいが」
「へい、呼びましたか?」
二人の視線が——同時に、横へ向いた。
そこには、先程まで姿の見えなかった。
秀吉が、現れた。三英傑が、此処に揃った。
「わしらは消えますけど、最後に謎の戦い……面白そうですね……」
「じゃの」
「まあわしら……この物語では——モブじゃが」
「「「ガハハハハ!!!」」」
三人の笑い声が——戦場に、響いた。周りの将達も、つられて笑った。龍が、空で笑った。幻獣達が、笑った。日本中が——笑っていた。
そしてルーカス一同は——ずさあああと、転げた。
そして始まるのは——敵による蹂躙ではなく。圧倒的な軍隊による——殲滅であった。
骸骨の波が、押し寄せる。海から。山から。空から。数だけなら——確かに、圧倒的だった。だが。
「かかれーーーーッ!!!」
誰かの声が、戦場に響いた。それを合図に——全てが、動いた。
槍が、唸った。無数の足軽が、骸骨の波へ真正面から突っ込んでいく。ぶつかる。砕ける。また突っ込む。止まらない。誰一人、止まらない。
龍が、吼えた。空から火焔が降り注ぐ。骸骨が、塵になる。また湧き出す。また焼く。それの繰り返し。
幻獣が、駆けた。麒麟が、静かに歩くだけで——その周囲の骸骨が、消えていく。音もなく。抵抗もなく。ただ——消えていく。
将達が、それぞれの時代の戦い方で——骸骨を、押し返していた。義経の八艘飛びが、骸骨の船団を切り裂く。信玄の山の如し、その采配が、骸骨の波を止める。謙信の毘沙門天の旗が、戦場に翻る。龍馬が——なぜか銃を撃っていた。
それはもはや——戦いではなかった。日本という国が、数千年分の力を持って——ただ、戦っていた。この戦いがいつ終わるのか。終わるのかすら——誰にも、分からなかった。
「……理不尽だ」
ルーカスが、静かに言った。
「理不尽。これが日本だ」
一拍。
「何でもありのな」
敵は、笑った。
「……だがこれはどうだ」
刹那——巨大な何かが、現れた。空が、翳った。それは——大きかった。ただ、大きかった。比べるものが、なかった。江戸城が——小さく見えた。
気づけば——麒麟が、そこにいた。
「乗りなさい」
有無を言わさず——ルーカス一同は、麒麟の背に乗せられた。麒麟が、駆けた。地を蹴った。空へ——舞い上がった。
その刹那——海から、それは現れた。巨大な——戦艦が。艦首に刻まれた文字は——「日本」。
「……もはや何でもありか」
敵が、笑った。その笑いが——止まった。
空間が、裂けた。テュポーンが、降臨した。
その瞬間——歪みが、消えた。音もなく、瞬く間に。江戸城の亀裂が塞がり、吹き飛んだ建物が戻る。街が、元に戻る。世界が——修復された。
しかし——テュポーンだけが、そこにいた。
歪みが消えても。世界が戻っても。
それだけは——消えなかった。
将も、龍も、骸骨も——その全てが、跡形もなく消えていた。
まるで最初から——存在しなかったかのように。
第13話了
第14話 終末の空に、虹は咲いた
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