春のお出かけ短編小説『ケーキの上の苺』
毎月3つのお題を出してBL小説を書く企画をしています!今回で第20弾!よくやってるなぁ。
今回の3つお題と、企画の詳細を書いた記事は小説の最後に載せています。
今回の参加者は私を含めて現在15人。
全作品をまとめて、あらすじ付きアンソロジー記事として明日(5月19日)〜一週間トップに私のnoteトップに貼り付けますので、一気読みしたい人やあらすじやジャンルで選びたい人はそちらからどうぞ。
投稿してくださった全作品のレビューは書き上がり次第投稿し、Xにも出します。
Xユーザーの方は企画に関するポストを見つけましたら、出来ればリポストをお願いします。
引用で私をねぎらってくれたら、はしゃぎます。
レッツ #noteでBL !
あらすじ
雨の気配を感じて有時は恋人に声をかける。不機嫌な恋人の巴は上の空であっているようで違う意見を言う。
出会って10年以上、お付き合いをして6年目の今日、2人はパートナーを解消する。
同じ空、同じ景色、同じ雨を感じながらすれ違っていく2人は、手を繋いだまま揃いの靴で、まるで人生のように長い天神橋筋商店街で最後の1日をすごす。
短編小説『ケーキの上の苺』
1:室内ではスリッパを履く、しかしカーペットの上では脱ぐ
2:外出時は帰宅時間の報告とキスをする
3:出先では左隣に立つ
4:お揃いのものを必ずひとつ身につける
5:好みに口出ししない
それから…
6:飲食店では同じものをオーダーする
7…7、
あぁ…。
轟音に鼓膜と心が揺れた。
大川の流れを視線で見上げていくと、川の両岸にそびえるビルの間に間にセスナを一機捉える。
同じ橋を渡る通行人に気にする素振りはない、この地域では当たり前の風景と音なんだろう。
空港は海上のイメージだが大阪湾はまだ遠そうだ、こんな中心部に着陸する場所があるのか?と並走するように高度を下げるセスナを視界の右に捉えながら橋の中腹を超えた。
突然冷たくなった風に吹かれるまま、由緒ある橋を挟んで左の河川敷に拵えたグラウンドを見下ろす、そこではダイヤモンド型の布陣についた内野手が、ホームに向かって甲高い声でボールを呼んでいる。
カーンっと小気味好い球音に俺はまた空を見上げる、曇り空で音がよく響いているから雨が近い。
「ねぇ、巴。天気大丈夫かな」
いつもなら特有の訛りで返る返事も、振り向きすらもしてくれない。
ゴー……
通り過ぎたはずのセスナのエンジン音が急に近くに聞こえて、2人同時にビル街に視線を奪われた。
今度はさすがに無視出来ずに巴はゴクっと唾を飲む、視線がくるりと見えない航路を作っている。
「旋回してんや」
「旋回?」
「おん、伊丹空港の滑走路の順番待ち」
はじき出した土地勘の結論に納得して橋の先を顎でしゃくって俺を促した、少し急げと言いたい爪先はもう一歩先にある。
「もうテンイチやさかい、雨いける」
言葉が時々不明瞭で悩む。
大学で知り合って十年以上の関係になるが、今だにわからない方言があって困る。
誰にでも分かる程度の方言で話してくれていた頃を思い出し、あの時の方が上手くやれてたんじゃないかと思い出を美化する。
釈然としないまま適当に相槌を返すと、人差し指の第二関節と柔らかな語尾でコンっと額を小突かれた。
「適当すなや」
なら、分かる言葉を使ってよ。あの頃みたいにさ。
黙って前だけに集中すると、道なりに「はらドーナツ」の白いノボリが見えた。
ビル一棟が丸々ドーナツ屋なんて景気が良すぎるね、と歩調を緩めて寄り道アピールをしたが、逆に巴は手首を掴んで歩調を強める。
「なんで雨に気づくんに、回避しようとせんのんな」
「きっと通り雨だし、ドーナツ屋で回避しようよ」と続けようとして黙る。
少しでも早くアーケードに下に回避しようと早歩きする巴の足元に視線がぽろっと落ちる。
お揃いのドクターマーチンのローファーは雨にも強いしファッション性も高い。
だから重くて硬く長時間の歩行にそぐわないから俺は休みたい、だけど巴は進んだ先で休みたい。
「待って、巴」
がっちりと掴まれた手を散歩から帰りたくない犬のようにつっぱり抵抗すると、巴はせっかちな飼い主がリードを引くように俺をグンと力任せに左隣に立たせた。
もう俺なんか置いていけばいいのにと、喉元まででてしまって掴まれた手首を振りほどく。
「とろい」
「足が疲れて、」
「ほなはなから言えや」
少々素っ気ない物言いがこの人にとっての親密な愛情表現と気付いたのはお付き合いを申し込まれた日で、照れ隠しからくる天邪鬼な物言いが小学生みたいで可愛いと思えてた。
でもそれは俺が幼い頃から知っている優しさとは真逆の愛情表現で、なかなか身に染みず、機嫌の良し悪しも分かり辛い。
そんな些細な育った環境のズレで、どちらかが絶対的に我慢しないと生活が成り立たない部分があって、俺達はずっとそれを改善できないでいる。
ねぇこれはどっちの悪態?
互いの不機嫌があくびみたいにうつる、幸せな甘い眠気なら素敵だったのに。
「ほらもうぉ、ポロついてきたやんか」
鼻先に雨がこぼれる、巴はこぼれ出した雨を“ポロつく“と表現する。
徐ろに一つ鍵盤を叩いたような雨の降りはじめにしか使われないこの表現は、いつか絶滅しそうな気がして好きだ。
言った当人は、後頭部のくせ毛を撫で付けながら急上昇する湿度と、いつもになく思い通りにならない俺に唇を噛む。
素直な怒りを向けられたのは今日が初めてかもしれない。
「自分、なんであんな事いうたん」
「なんのこと?」
「昨日のパウロのパーティや」
大阪で開催された巴の元同僚であるパウロのパーティに、パートナーとして招待を受けていたが、残念ながら俺が1ヶ月前に巴にお手上げしてしまい、お別れ調停中だった。
「出席はペアでないと面目が立たない」
言い出すと聞かない巴に大阪に滞在中はパートナーを全うすると約束して出席したが、女性とはとても機敏に関係を見抜くもので。
以前から関係を知るパウロの恋人のジェーンが眉を歪めて俺をテラスに呼び出した。
『まさかとは思うけどあなた達、』
彼女の心配は嬉しい。
でも俺はやっと解放された自分の決断を褒めて欲しくなった。
『昨日決着したホットなニュースだよ、パートナーを解消した』
『サマリーの最中のトムのスキャンダルが原因?』
『そんな事もあったけど』
浮気は誤報だって知っている。
口角と眉根を下げたジェーンの顔にはOMG!と書いている。
『いい?ユージー。恋人の浮気は1人の責任じゃないの、2人なのよ?もっと時間をかけるべきだわ』
いい?ジェーン。
ルールの多い男の貞淑な妻の息苦しさは2人の責任じゃないんだ。
落胆した俺は、浮気はきっかけにすぎないと暴きかけて黙る。
ここに俺の味方はいない。
心優しきジェーンはすぐに巴に声をかけ、帰宅後「なんでわざわざ伝えたんだ」と初めて怒られた。
済んだ事をいちいち蒸し返さないでよ。
ため息で自分を落ち着ける。
明日別々の飛行機に乗るまで巴の理想の恋人を全うし、お役御免!と開き直るしかない。
俺が黙ると巴はこれ以上詰らず、繋いだ手を緩めて掌を合わせ離すまいと指を組んで引いた。
「ここ、日本で一番長い商店街の始まりの場所や」
チラッと顔をあげアーケードの看板に書かれた「天神橋筋一丁目」を見て“テンイチ“の意味を理解する。
ここは確かアーケードごとに一丁目二丁目と区切られてそれが六個続く日本一長い商店街で、巴はそこに俺の手を引いて入りたい。
この先の自分達の長い人生を象徴したいのだ。
「休憩はどこでとるの?」
「一丁目が良いサテン多いけど、テンサンまで行く」
サテン、テンサン。
巴の目線は純喫茶。
サテンを喫茶店の略、テンサンはこの先の三丁目と推測する。
7:手を口元に添えて笑い声は極小に、でも表情は満面で
「それ、ウルフルズが歌ってた“ちゃあしばく“ってやつ?」
「…茶ぁ↑シバく↓」
「ちゃあ→しばく↑」
「ふふ、ラチあかん。今日はこのくらいにしといたるわ」
「ケンタッキーは“ケンタでトリしばく“んだよね?」
「そうそう、っていつの時代のイキリやねん」
呆れた顔してもう機嫌は上々、こ機嫌取りばかり学んだ俺の6年の集大成。
「古本屋まで頑張れ」
「また本?ほんと好きだね」
「本なだけにな」
でもこの会話のテンポは名残惜しい。
巴は愛車のハンドルくらい慣れた捌きで俺の手を引いて通行人をやり過ごし、純喫茶の立ち並ぶ一丁目を直進する。
先に休憩したい俺はつま先を石畳に引っ掛けて巴の肩口に寄り添う。
三個目のアーケードをくぐり、一軒の古本屋の前で足を止めた。
店頭の腰の高さのワゴンにはくたびれた文庫本が背表紙を向けてビチっと詰まっていて、ダンボール片に書きつけた「一冊40円」のポップが首を傾げている。
先客の白髪頭のおじさんの隣を陣取った巴が「昔は10円やってんに」と玄人ぶって腕を組むと反射でおじさんも頷く、2人は初対面で時代の流れの世知辛さを分かりあっている。
乱読する巴は表題も見ずに適当に三冊引き抜いて、古本で壁も床も埋めたうなぎの寝床のように細長い店内を進むが立ち止まって、紙が焼けた茶色い本を不意に手にとり片手でページを開いた。
縁が日焼けした紙は真ん中になるほどクリーム色で、外側が程よく焦げたマドレーヌに見える。
この後炭酸飲みたい。
でも巴はコーヒーとショートケーキを注文するから叶わない。
なんて、勘ぐってばかりでバカみたい。
「古い文献も読むようになったの?」
「いや、カッコつけただけ」
なんだよその理由。
「…早く会計しなよ、バカ」
シュッ!
遅れて手の甲がチリっと熱い。
しっかり繋がれていたはずの自分の右手が目の前にあり、巴の左手は降ろされている。
熱さがジンジンした痛みになって現状を把握。
38:悪態は1人の夜に枕にだけ吐く
頭に浮かんで汗が噴き出た。
どちらが先に手を振りほどいたかが思い出せない。
巴は俺の手をとり、甲に出来た引っ掻き傷の白い部分に赤い血が粒々浮かんで赤い球体になるのを観察し、今度は自分の指を立てて中指の爪の間に掻き取られた俺の皮膚を見た。
「俺、今までで一等好きかも。さっきの悪態吐く有時」
外で待ってて、とくるっと背を向け本をカウンターに置いたのを合図に、俺は無心で店頭に出た。
落ち着きなくワゴンに詰まった本を手に取ると、偶然意中の男をベットで夢中にさせる夜の指南本で、裸の女性の写真に慌てて閉じた。
表題は昭和らしいフォントで“これであなたもセクシーギャル!“とされている。
14:夜は誘われるまで我慢し、恥じらう
あぁと膝が抜けそうになる。
この6年間、計算をして積み上げた巴好みの俺は、ワゴンで10円程度の1人相撲ってこと?
『今までで一等好き』ってなんだよ、それならハナからそう言えよ、
「俺の6年の努力を全否定するなよぉ!」
俺の大声に店主と巴が唇に人差し指を立てて「シッ」と一矢乱れぬ連携で店内ではお静かに!を返され俺は絶句した。
このあと巴は、木偶と化した俺の手を引き一丁目に戻って約束通り純喫茶に入ると、古本屋の店主がくれた絆創膏を俺の手に貼った。
まだ解せぬ俺はソファの毛を逆撫でながら、目の前に据えられたクリームソーダを睨む。
お尻がつるんと膨らんだ口の広いフラスコみたいなグラスが俺をそそる、中の緑のソーダ水とこんもり丸いバニラアイスと天辺のチェリーが狡猾でいかがわしい。
巴は向かいでショートケーキとコーヒーに手をつけず、テーブルに肘をついて顎をのせていた。
「まぁ食えや」
パフェスプーンに手は伸びない。
でもいつの誰が始めた親切か分からない曲げられたストローに口はつけれる。
メロンの香料と緑の着色料のソーダ水を吸い込む、よく冷えた炭酸が舌を刺して苦く、急にお節介に感じる。
「上から食わんの?」
巴の右手が小さなフォークを掴んで自分のケーキの上の苺を躊躇なく刺すと、クリームが剥げてスポンジの黄色が見えた。
この人は一等好きなものから食べる。
掟を破って違うものをオーダーされた俺は、アイスクリームの上のシロップ漬けのチェリーと視線すら合わないのに。
「いつも弟にあげてたから癖で」
あなたは自分好みの俺しか愛さないでいてよ。
「良い子雁字搦めの長男オブザイヤーかよ」
ムッとした瞬間、巴は苺を俺の口元に突きつけた。
マフィア映画のボスが裏切り者の口に銃口を押し込む断罪シーンみたいに、喋るたびに溶けたクリームの下の苺の肌がぶつぶつと唇に不快感を与え、これは歯で触れるから美味しく食べれると実感する。
「昔な。デート中にクリームソーダのアイス混ぜて飲んでフられてん」
「マナーがなってないからだ」
「ちゃうよ有時。俺が言いたいのはマナーや気遣いの大切さより、そんな君も悪く無いっていっそ好きになる事の大事さや」
「都合良すぎる。巴は俺の6年間の我慢をこの一粒で埋めるつもりだ」
「ちゃうよ有時。6年目の猫かぶりを大目に見てやるいうてんねん」
俺の反論に巴は口の端をあげ、さらに苺を唇に押し付けた。
「俺の一番大事なもんあげる」
一見可愛く愛され上手なイチゴは、舌先で触れるとザラザラと開いた毛穴みたいで不快で、一思いに食ってやった。
こんなものが一番大事だなんてこの男は哀れだと思う反面、心の底が空く思いがした。
俺はスプーンを左手のグーに持ち替えアイスクリームに突き刺し押し込む。
氷が邪魔で沈まないアイスがチェリーを伴い氷の間に間にガチャっと落ちた。
クリーム混じりの泡がゴボゴボとテーブルに溢れて汚す、その様に身震いをする。
白濁したソーダ水をストローで一気に吸う、マイルドな炭酸が甘くて爽快感がたまんない。
「せめてチェリーは助けたれや」と巴が俺の頬にポロついた涙を親指で拭った。
AIに挑んで書いた結果。
Xでフォロワーさんが面白い事をしていた。
自分の書いた作品をAIに読んでもらい、「私の書く小説に、歌詞の感性が近いミュージシャンを教えてください」と質問をするだけ。
自作4作品を読ませてみたところ、全然知らない予想もしていない曲ばかり出て困惑。
ブーメラン投げたら手裏剣返ってきたくらい不思議な感覚です。
引用した記事にも書いたのですが、逆に特定の曲をイメージしながら書いた小説をAIに読ませて同じ質問をし、曲を言い当てれるのかな?と思って実験をしてみることにしました。
ちょうどこの企画用に書いた「ケーキの上の苺」が、創作意欲のない時期にどうにか書こうと思い立ち、ある3曲を元に書いてたんです。
1曲目:ウルフルズの「大阪ストラッド」
2曲目:PUPPET SUNSUNの「ケーキのうえのイチゴ」
3曲目:宇多田ヒカル「One Last Kiss」
先に読ませた自作4作品にどのアーティストもいなかったんですよね。
結果、1曲だけビンゴしました。
また別記事で書こう。
作品の舞台の大阪の天神橋筋商店街は、6丁目まである日本最長の商店街だそうです。
冒頭に書いた橋は「天満橋」と言う古くて由緒ある橋で、渡ると目の前にアーケードが見えてきます。
橋が渡る大川は、大阪市内をゆったり流れる淀川水系の一つ。
水の都・大阪は船着場も多く、芸人さんが案内する大阪城クルーズ船なんかも人気です。
この商店街はお受験に最強の大阪北野天満宮のお膝元で、寄席が楽しめる大阪「繁昌亭」有名な中村屋のコロッケや、乱立する純喫茶、レコード屋、巴が行っていた3丁目こと、テンサンは古本屋街。
雨風しのげて飲食店も充実、地下鉄も乗り入れているしJRからのアクセスもよし、梅田は目と鼻の先やし、大阪城もそこにある!
正直、大阪に旅行に来たらここ以外ないくらい、凝縮された大阪があります。
ということで、今回の3つのお題は『食事シーン』『家以外の、作者の大好きな場所や土地、時代を舞台にした話』『脊髄反射』の3つでした。
