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エッセイ小説「はみ出しもん」完結


「べ」ットの下の君につぐ


墓参りに季節があるのか分からないが、彼岸や盆正月に足を運ぶ人が多いと思う。

私は1月の半ばの少し中途半端な時期に霊園で立ち尽くしていた。
寒いから人がいないのか、今日は仏滅だったのか、シーズンオフの霊園は静かだった。

自分の先祖以外の墓は違和感がある。
まるで新築祝いに訪れた友人の家みたいに、知っている人がいるはずなのに居場所がなくて、落ち着かない。
さらに視線の先で墓石の角が太陽の光で鋭く光り、寒さも増す。

キヨはちゃんと死んでいた。
焼かれてお骨になって、
ちゃんと埋葬され、
弔われていた。

昼下がりの霊園で私とトキワさんはぼんやり墓石を見ていた。

「私も嫁にいきましたし、墓じまいを考えてたんですが、死んだ両親の記憶がキヨハルはないですから、一緒に寝かせてあげたくて」
家族は姉しかいない。
確かにそれはキヨから聞いた覚えがあるが、死別なのは初めて知った。
「死んでからでもちゃんと会えるんですかね?」
「会えるんじゃないですか?現に私達はあの子に会いましたしね」
少々不躾に思われた私の一言もトキワさんは気にせず返してくれる。
割り切って生きている人なんだな、と感じた。
「顔知らんのに分かるかな?」
「親の方が分かれば問題ないです」

ふふっと口元を押さえて笑ったトキワさんは、もう一度手を合わせると柄杓とバケツを持って私を見た。

「これ片してきます。ついでにちょっとコンビニかスーパーであったかいもの買ってきますので、少しゆっくりキヨハルと過ごしてください」
「お気遣いありがとうございます」

ゆっくり歩いていくトキワさんの後ろ姿が少し右に傾いていて、歩く癖がキヨと一緒だった。
そうそう、仕事用の右のローファーのかかとだけ、先にダメになるって言ってたんだ。

向き直して墓石。

ゆっくりキヨハルと、と、言ってくれたがここは先祖代々の墓。
ご両親もいれば、祖父母、もっともっと御先祖も一堂に介しているのでは?と疑問が湧く。
さらに、あけみちゃんの教えでは「墓は生きている人しかいない」ので、結局キヨもいないんじゃないか?

そんな捻くれたことしか考えられない屁理屈女だけど、私にだって情緒はある。
それらしい雰囲気を出しながら、コートの裾を手で押さえてゆっくりしゃがんで手を合わせた。

墓前で静かに手を合わせていると「なるほど」と思う。

墓というのは生きている人間しかいなくても、もう生きていない事を確信させるには抜群の場所だ。
ここに来て手を合わせたらもう、この静けさ全てで受け入れるしかない気持ちにさせる。

キヨの墓は、思ったよりも近くにあった。

隣の市にある山の上の霊園で、思い返せばここは学生の時にバイトしたレンタル屋と同じ市内だった。
最寄りの駅から徒歩ではかなりの武者修行だし、車でも20分はかかるアクセスの悪さは評価出来ないが、市を跨いで海まで見えて、天気が良いと淡路島まで見渡せる最高のロケーションだった。

「きっと夜景も綺麗やけどデートには向かないか」

気温差が2〜3度あるのか底冷えもひどく、両手を合わせてはぁ、はぁっと息を吐いた。
白いかどうかなんて見なくても分かる。

キヨの伝言はかなりがっかりするたった一言だった。


「なみに『わらび餅』って言ったら分かるはずやから」


トキワさん自身もこれの重要性が分からず、どうせ夢だし?と思っていたそうだが、そこに偶然夢の中で弟が言っていた「なみ」が現れたから、これはいけない!と使命感を取り戻したそうだ。

キヨの答えはいつもズレてる。
本人なりのギャグなのか、何なのか分からない。
でもセキュリティの秘密の質問形式は、やっぱり健在のようだ。

「なんで今、好きな食べもん教えてくれんねん、これからもよろしくって意味か」

確かに私は奈良の神社でキヨのことを思って、好物も知らない、って言ったけど、伝える事なんてそれ以外にももっといっぱいあるやろが。

ありがとう、とか、さよなら、とか、またね、とか。
お前らが俺やと思ってたソレ、俺ちゃうで?はマジでホラーやから勘弁してほしいけど。

ツッコミみたいに墓石をペンっと叩いてやろうとしたけど「ご先祖」の三文字が浮かんでその手の勢いを殺して、撫でたら冷たくて涙が出た。

結局、何だったのかは全く分からない。
本当にキヨなのか、そうでなかったのかも分からない。

真実はいつも一つかもしれないけど、デカいじっちゃんの名にかけて私は全ての謎が解けない。
悪魔は来たりて笛は吹かずに布団を奪って逃げられたし、羽毛布団は安くない。
恨み節ばかり頭をよぎって、悔しくなった。

でも、友人が1人でひっそりとこの世を去ってしまった事実が、ここにドンと存在している。
これは紛れもない事実で、私は大切な友人を亡くしたのだ。

「でも、死んでても会えてよかった、これで良かった、私はそうする」

冬の墓場で女が号泣。
映画やドラマの演出でよく見るシーンは、やっぱりよく見るだけあって本当に起きるし、このシチュエーションになっている自分のヒロイン感は悪くなかった。

雰囲気に浸って泣いた、こんなに大きな声で外で泣いたのは、大人になって初めてだった。

悲しいのか、嬉しいのか、安心したのか、分からないけど、爽やかさのない涙はしょっぱいからか、顎を伝うとすぐに乾いて痒くなった。

「めっちゃ怖かった!」

大声まで出してやった、山びこみたいになると思ったら、全然ならなくてひとりぼっちが増して寂しくなった。
泣き飽きて、億劫になって、いつの間にか落としてたハンカチを膝も曲げずに掻っ攫うように拾う。

「やっぱキヨはおらんのかい」

無意識に頬がむくれて、それすら嫌になってプシュッと息が口の端から抜けた。

私の独り言に答えるようなタイミングで鼻に温かいものが伝う。

ティッシュを出して思い切り鼻をかんで、汚いのを承知で開いて見たら普通に鼻水だった。

声を上げて今度は爆笑した。



ご家族の許可を得て書いてます、名前等は変更してます。


最後までお付き合い、ありがとうございました。

あけみちゃんの“ばっちゃ“はまだ健在で、もうすぐ100歳を迎えます!

シュガーさんはそろそろ定年かな?またお祝いに行かないとな、と思っています。

デカいじいちゃんは、なんかわかりませんが、今も勇猛な顔で私を守っているそうです。

羽毛布団は西川で買い直しました、悔しい。

キヨはベットの下にまだいるみたいです。
たまにベットの底をカリカリしたり、よくない多重夢に捕まるとドンッと下からベットを突いて私を起こします。
そして、なぜだかキヨだけは未だにはっきり見えません。

鼻血は出なくなりましたが、全編通して語ると出る時があります。
聞いている人も出る場合がありますが、大丈夫そうですね。
良かった。

この話は、ご遺族の許可を得て是非!と言ってもらって書きました。
全てが本当にあったのかは分かりません、私の脳内で起きただけの話かも知れません。

人生って不思議ですね。


最後に、HIVは早期の発見でウイルスを抑え寿命を伸ばす事ができます。
ただ、潜伏期間が長く年単位で症状が出なかったり、通常の病院ではインフルエンザと症状が似ている為、発見が遅れる可能性もあります。

完治する事は今のところないですが、薬はかなりよくなっています。
ウイルスを抑える薬で免疫を維持し、日常生活を維持することは可能ですし、家族や友人で感染した人がいても通常の生活で感染することはありません。

正しい知識を持って偏見を無くし、リスクをできるだけ抑えて性生活を楽しみましょう。

最後に

キヨは好奇心旺盛です。
あちこちを覗きに行くので気配を感じたらベットの下を綺麗にして、ちょっといいわらび餅をこれ見よがしに食ってください。
すると、

怒ります

#賑やかし帯


第一話はこちら

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