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「#noteでBL」企画第6弾・感情と視線、の小説

毎月開催しております〜!BLと言う名の恋愛小説やっとります。

✴︎男性同士の恋愛を含みます!

今回はいつも楽しく参加してくれている「かし子」嬢の魂の叫びをお題に頂き、企画にさせていただきました。

・激重感情仄暗不穏ブロマンス〜BLでも可
・文字数は1万字以内
・お題は「視線」

「好きなものを好き!」と言える素直さと、人の感情を覗いてみたい人間らしさが私は好きです!

かし子嬢に拍手👏

後に他の挑戦者さまの作品もまとめて記事に固定しますので、一気読みに活用してください!


荒ぶれ・あらすじ

今回の主人公は「俺の兄貴は美少女だ」でお馴染みの充時さん29歳と、その兄のただのプロバスケットマン有時さん33歳の直球ブラコン話。

兄の有時は充時の親友のリキと極秘でお付き合い。
それを弟にやっとカミングアウト?バレてたのを明かされる?話です。
笑いは無いです、真面目にブラコンです。

✴︎荷重するために「兄貴は美少女 超理論」は抜いています!


本編 「フィラメント」


人の視線が見えるようになった。


俺に見えるその視線は、ポインターを当てたような光の線になり、さながら昔流行った歌謡曲の「視線のレイザービーム」だった。
人の瞳の部分から赤いレーザーが出て、見ている着地点にポッとスポットが止まり、慣れてくるとその太さや色の濃さで大体の温度が分かる。

例えば、街中で少し薄毛の人がいたとする。
すると人の視線は集中砲火のように不毛の地となりつつある薄毛部分に集まるが、その視線は細く、点々が多く温度は低い。
つい見てしまうけど、興味は無い視線と推測できる。

一箇所を見つめ続ければ、ジワーっと広がるような熱さが丸く広がって見える熱視線。
チラチラと何度も見れば、点々と低い温度の視線が起こす低温火傷。
早く鋭い視線はそれこそサッと場面を裂くように走るレーザービームだ。

俺はすっかり興奮して、仕事帰りにわざと賑やかな郊外に出て人の視線の行く末を楽しんだ。
ハンバーガーを齧りながら、ひたすらに視線を追って夜の街を彷徨いながら、人々の心理を暴いていった。
思ったより美人に視線は向かわない、僻み根性がでるのかもしれない。

でも3日ほど経つとすっかり飽きて日常になり、遅くとった正月休みが始まった。

せっかく特殊なことに目覚めても遊ぶ時間が出来ると飽きてしまう、懐は傷まないけど損した気分で帰省した。
1日目は母の買い物に付き合い、2日目の今日は1日遅れで帰省した兄を迎えに駅まで車で出る。

「みつ、久しぶり」

某ブランドの小さなキャリーをカラカラと引っ張って、新幹線の改札を抜けた兄が俺に手を振った。
世間で見れば身長190㎝の兄の身長は大きいが、バスケット選手としては普通か小さいくらいで、本人は目立つ自覚がない。
それを迎えに来た206㎝の俺と並ぶともうびっくり人間だろう。
だが、俺はただの会社員。
一方、兄はプロアスリート、垢抜け感が全く違う。

周りの視線のが一心に兄を追って、真っ赤に染まっては薄れ、声を発せばまた集まり、中には太く消えないレーザーがあって、それを逆に辿りながら警戒する先にはファンの光線。

身バレしているのが目に見えた。

でもそんな事など見ぬが極楽、兄は呑気なもので。
「ねぇ、母さんにお土産を買い忘れたから、そこで何か甘いものでも、」
などと、気にせずのんびり辺りを見渡すもんだから、キャリーを奪って先を歩いた。
「兄貴が帰ってくるだけで良い土産だよ」
「だけどバレンタインの、」
「はいはい、車の中で聞くから」
話せば話すほど視線は太く兄に絡まり熱くなる。

兄は特段、顔がいい訳ではない。
だが、何よりも正しく美しい。

やましさが見えず、内面の性善さが現れた肢体は柔らかく撚った白い糸で作られているようだ。
光が当たれば中から程よく発光し、ふんわりと温かく、寄り添うものを温めて甘く優しく受け止めてくれる。
そんな佇まいが品になって見るものを惹きつける。

その上、この高身長だ、昔から人の視線を惹きつける。
兄からすれば、駅で自分に向けられる羨望や好奇心の視線など、蚊にたかられるようなものかも知れない。
などと考えている間に、兄は出張してきた銘菓の屋台の苺大福に気をとられて立ち止まっている。
「母さんはいいから!」
「俺が食べたいんだよ?みつは豆大福?」
ポケットの駐車券を確認しながら、人の頭越しの遠目に精算機を確認する。
「好きだけど後でいい」
「好きなら今でしょう?」
兄はこうなったら動かない、腕を掴んで強制的にその場を離れる。
「なんかいいね、デートみたいだね?」
あのなぁ?と振り向くと、周りの人の視線が顔やブランド物のサコッシュから、兄の腕をとった俺の手に集中していた。
思わず離すとパラパラとレーザーが消えて、代わりに何かを確認するように兄貴の顔や、離した俺の手に分散していった。

何気ない事も男2人ですると少し異常なのか。
街中の恋人同士や、親子が腕や手を繋いでいても同様に視線は集まるから、これは普通なのかもしれない。

「ほら、サウナ予約してるんだろ?」
俺の言葉に兄貴の視線がサッと右手につけた腕時計にいく。
「そうだった、もうこのまま行こうか」
土産物屋が立ち並び、一際人通りの多い通路を真っ直ぐに抜けないと駐車場に入れないのを悟ると、さすがの兄も早足になる。
「俺から離れるなよ」
2mを超す身長の規格外の俺が歩くと嫌でも人は気付いて避け、視線が土産からこっちに集中するが、避けてくれる分早く進める。

でもバレて声をかけられると厄介だから、視線を兄の顔から外そうと俺はそっと腰に手を回す。
すると引き寄せるまでもなくすんなり兄は俺に寄り添って、慣れたふうに歩調を合わせる。
普段連れ立って歩いてもさすがにこんな距離で歩かないが、15㎝の身長差は歩くのにとても塩梅がいい事を学んだ。

兄の質の良い柔らかいコートが手の中でたわんで尻のラインに沿い、視線は腰に集中し、軽く添えた俺の手が歩く歩調に合わせて上下して、尻に触れると火傷しそうな視線の束が熱く突き刺さる。
顔に視線がいかないのはいいが、視線はなるほどと思うくらいに性欲に素直だ。
悪意はなくても、そこはかとないそれを連想させる動きに敏感に熱を持つ。

具合が良すぎて駐車券を精算している間も抱き寄せていたら、さすがに兄も吹き出した。
「少し合わない間に過保護になったね?」
「2年前まで俺だけの兄貴だったはずが、今は日本代表だからね」
見上げる誇らしげな笑顔に眉間が緩む。

そりゃ過保護にもなる。

俺は幼い頃から兄にただならぬ感情を抱き続けている。
プロのアスリートとして前線に立ち、日本代表にまでなった尊敬と、幼い頃から頑固すぎて手に負えない俺の面倒をよくみてくれた感謝もある。
あんたは日本の宝だし、俺の大切な兄、連れ歩くならアタッシュケースに仕舞っておきたいくらいだ。

兄は正しく美しい。
立ち居振る舞い、瞬きの一つまで俺はこの人の全てと世の中の人間を見比べて勝敗をつけてしまう。
それが、女性であってもだ。

まだ兄に敵う女性に出会えず、童貞を貫いている。

ブラザーコンプレックス。
この病を難病に指定するべきだ、治療を受けないと俺は一生独身で童貞だ。


「車、乗りたいんだけど?」
また物思いに耽っていた、慌ててキーを出す。
「ごめん」
「何を考えたえたの?」
ロックが開錠されると光ったランプに兄の視線がサッと走り、後部座席の扉を開く。
「…親友の…恋人の、こと?」
キャリーを積んで扉を閉めながら俺を見上げる、視線が強まり赤いレーザーが眩しくて俺は目を細めた。
「それは、ちょっと。危ないにおいがする」
くすくす笑っているけど。

あんたのことですよ。

兄は去年から俺の親友、リキと付き合いだした。

実はリキからその事実を付き合い始めから聞いていたが、兄は俺がまだ2人の関係を知らないと思っている。

兄は俺の理想の恋人像だが、2人が付き合う事は特に何も思わない。
リキは男の俺からみても惚れ惚れするほどいい男だし、素直で男気もある、相応しいと思う。
女性に限らない兄の奔放な性も、俺の親友のリキの恋人になるのも咎めはしない。
親友に兄を取られた、など幼稚な発想もない。

でも、俺は兄の

「人の恋人に思い耽るなんて、悪い弟に育ててしまった」
「なるほど、兄貴のせいか」

兄の中にはいりたい。

今日はその、チャンスかもしれない。


サウナマニアの兄行きつけの個室サウナが実家の近くに4号店を出したらしい。
市街地から少し離れた渓谷の清流のそばにあって、駐車場に車を停めるとすぐ隣にある平屋で受付を済ませた。

通されたのは、一棟貸し切りのログハウスで、扉を開けてすぐに脱衣所があり、その奥がサウナ室と熱を覚ますチルルームになっていて、屋外は塀で囲って外からの視界を塞いだ清流に出れるようになっている。

スタッフが退室すると兄は躊躇なく服を脱ぐ。
昔から気持ち良いくらい脱ぐ事に羞恥心のない天晴れな人だ。
それだけ堂々と脱げる体を作り続けている人の隣で、一般人の俺は脱ぐのを躊躇いながらノロノロと兄の動きを観察する。

文字通りの真っ裸になってから、鞄から海パンと黄色いチューリップを逆さにしたようなサウナキャップを2個出して、それを意気揚々とかぶり、もう一つを俺に見せた。
「お揃いで買ったんだよ、後で写真を撮ろう」
「いいからパンツ履けって」
“頭隠して尻隠さず“って言葉をここまで欲しいがままにしている人、初めて見たわ。
「海パンもお揃いが良かった?」
「誰に見せるでもないのにそこまでする必要ねぇよ」
俺の反論に不貞腐れる事もないマイペースさで、兄は見慣れた黒の海パンを履いて腕時計とシルバーのブレスレットを外す。
先にサウナ室に入るのかと思いきや、ウォーターサーバーの水を紙コップにいれて飲み始めた。
「…ねぇみつ、早く」
パンツを脱ぎたいのに、俺の股間に兄貴の視線が一点集中して真っ赤に染まっている。
一緒に風呂も入るし、俺も同じ男。
何度だって見られている。
だけど、そんなに分かりやすくマーキングされると恥ずかしくて仕方ない。
「一緒に行く必要ないだろ!」
「……うん」
名残惜しんで、ふうっとため息を吐き、俺にお揃いのサウナキャップを被せると、先にサウナ室に入ってくれた。

こんなのだから、俺は童貞なのかもしれない。

追って中に入ると、熱気の奥にいる兄貴の隣に座る。
木で拵えた2段までの雛壇とロウリュウ、アナログ時計だけのよくあるサウナ室だ。
体は兄の方がガチっとしているのに、かなり絞ったせいか去年見た時よりも一回り細く見えた。
早くも滝のような汗をかいているのはさすがだと思いつつ、隣に胡座をかくと、絶対に聞かれるだろうな、と思っていた一言が兄の口から飛び出した。
「みつは好い人いないの?」
「ずっと好きな人はいる」
「ずっと?どのくらい?」
29年、いや、目覚めたのは9歳からだから。
「約20年」
「は、初恋の歴史が長い」

おったまげてないで実らせて欲しいものだ。

「兄貴こそ無いのかよ、恋人はいるんだろ?学生の時から絶えないしな」
ちょっと意地悪な質問を返す。
「いるよ」
案外すんなり返された。
視線を送ると、白い小花が溢れるように恥じらった兄の視線が床に落ちる。
かわ……心を強く持て、まだ攻めるには早い、じわじわいくんだ。

蠱惑的なこの男はラフレシアだ。

「結婚はする気あるんだろ?」
兄とリキは同性だから日本の法律上結婚は出来ない事を知って意地悪を言う。
これに対して兄は黙って自分のつま先を見た。
半開きの唇は次の言葉を吐こうとしているのか、詰まらせているのか。

「それは、日によるかな」
「は?」
「日によって変わる。ほら、朝ごはんの卵料理だって日によるだろ?目玉焼きって日と、そうじゃないって日が交互にくる」
上手い事言うもんだな。
「それより、みつ……ねぇ、した?」
感心したのも束の間、上品な兄が下世話な質問に目を輝かせる。
「まだだよ」
「そうか。みつは慎ましいね。もっと早いかと思ってたのにな」
「は?なんで?」
兄が視線を自分の足から、あからさまに俺の股間に滑らせ、顔を見る。
視線の赤い光が残像になるくらい早い。

絶対に“あのコト“を思い出したな、と悟る。

「…みつは背が高くてかっこいいから?」
話を逸らした、いつものことだ。
「何事にも加減があるだろ。世界的に見ても190の兄貴でもデカいんだよ?“背が高い“の範疇じゃない」
「忘れるんだよ、そうゆうの。俺の界隈では俺も小柄だし」
「俺らは損する規格外」
「でもほら、その分発育も早かった、し……ね」
うっかりと言ってしまった、と、兄は口元を手で隠した。

兄と俺の思春期の“あのコト“は、ふとした時に互いの脳を掻き回し、暗黙するルールがある。

しばらく黙って時計だけを見つめ、兄は片膝を立ててギュッと抱き込んだ。
まだそこまで下半身は汗をかいていないのか、トランクスタイプの海パンがパラっと太腿を滑って足の付け根の際まで見えた。
二の腕や内腿はそんなに人目に触れるものではない。
男でも女でも、人目に触れない柔らかな部分を見てしまうと、見てしまった後ろめたさより、その奥への好奇心が勝つ。

童貞の俺が言うのもなんだけど、性的な事は恥ずかしい事じゃない。
9歳の俺に精通が来た夜、“あのコト“と一緒に兄がそう教えてくれた。

それは同時に兄への性の目覚めで、俺は兄の中にはいりたい衝動に駆られた。

だが、兄は拒んだ。

「兄ちゃんとはいけないことなの。男同士だし、兄弟でしょ?できないの」

俺の性は歪んでいる、それは大人になって嫌というほど自覚している。
でも、歪んでいたい、兄への想いが中途半端で切り離せない。

女性と付き合う兄を見ると悶々とした。
でも、男性であるリキとの交際は、兄の奥に触れる可能性を引き連れて、むくむくとコンプレックスを浮上させた。

兄はもう、男同士の部分を拒めない。

でも、俺はリキには到底辿り着けない血のつながりがある。
結婚が許されていない2人と違って、俺はすでに家族、縁は切っても血が保証をするが、リキは恋人だから俺が届かないところまで兄に侵入できる。

ずるい。

俺も正しく美しい兄の中にはいりたい。

サウナの中のオレンジの照明の温度が上がる。
このままロウリュウの熱で俺の血液の兄と同じ成分だけ蒸発すればいいのに。

「20分経った、外に出よう」

サウナ室の外に出ると涼しさで頭が少し冴えた気がしたが、前を歩く兄の形のいい尻に視線がずっと奪われる。
発達した広背筋でくびれて見えるしウエストも、大臀筋が発達していて大き目のお尻も、俺くらいの手の大きさなら丁度おさまりがいいだろう。

俺は兄以外の男性の体に興奮した事はない。
いつまで経ってもこの人だけが、悩ましい。

「はぁ、気持ちいいね」
ぐんっと伸びをして、そのまま後頭部で手を組む。
艶々とした肌を玉の汗が流れて、ついでに漏れたあくびのせいで潤んだ目が俺を見る。
「うん」
ゴクっとなる喉の音を隠して水を飲む。

兄が女性と付き合い、結婚していたら悔しいながらもおめでとうと言って諦めて、自分の中の性の歪みを正してしまえたはずなのに。

「みつの汗もすごいね?若いから基礎代謝がいいの?」
「筋肉量が違う」
「現役アスリートより?ずるいな」

俺はあんたの悩ましさが世界一、ずるい。

5分程熱を覚まして2巡目に兄が立った。

俺の熱は冷めない。
どんどん熱くなる俺の視線に足を取られた兄が、サウナ室の扉を開けると、まつ毛を伏せたまま振り返る。
リラックスを促すサウナ室の薄暗いオレンジ色照明で、頬に落ちたまつ毛の影が黒というよりセロファンを重ねた濃いオレンジ色に見える。
「そんな目だめだよ、みつ」
「え?」

兄のまつ毛に水滴が乗ってしたたる。
それを視線で舐めとる。

「親友の恋人のこと、考えたんだろう?」
「なんで?」
「視線だよ、ねっとりと柔らかいところを狙って、じっくり舐めるみたいな目してる」

兄のとろけた視線も俺を舐める、細めてもチロっと赤い、舌みたいな熱視線。

あぁもう、隠せていないのか。
そして、知った上で色が増す視線。

2人きりで無防備な格好で、恥ずかしい記憶を揺り動かして下半身を刺激し、今夜は実家の2人の思い出の部屋で一緒に寝る。
今夜は願いが叶うかもしれない。
小さい頃のように兄は俺に教えてくれるかもしれない。

「兄貴、俺」
「まぁ、とりあえず座ろう?扉も閉めて。時間と蒸気がもったいない」
「は、はい」

突然の冷静な取り仕切り。
空気がガラッと変わる、俺、今だと思ったんですけど。
兄が読めない。
童貞だから読めないのか、読めないから童貞なのか。

扉を閉めて隣に座ろうとすると、兄はあからさまに足を閉じて両手を膝に重ねて置いていて、明らかに緊張で肩が上がっていた。
自分で閉めろと言っておきながら、扉と共に自分の首までしめ、挙句部屋の奥に座ってしまい、八方塞がりで焦っているのが見て取れる。
この姿に全俺が勝鬨を上げた、空気は完全に俺に流れている。

攻めろ。

「兄貴さ、恋人いるじゃん」
「うん……」
「リキと付き合ってんだろ」
「……うん」
チラッと膝を見ると、踵を上げて爪先立ちになった足の膝から、腿まで手がするする上がって海パンの裾を握りしめている。
側から見るとトイレを我慢しているみたいだが、俺は知っている。
兄は失敗できない緊張の場面になると、膝を両手で擦って、そのまま鼠蹊部を触る癖がある。
股間に触れて安心したい気持ちを我慢してやってしまうその動きをしながら、ちょっと内股になっている。
可哀想な姿は、正直可愛い。
どんなに緊張しても素直に「うん」と言ってしまう、昔から変わらない嘘のつけなさも愛しい。

「あのさ」
分かりやすく兄の肩がいかる、でも俺はやめない。

「リキと付き合ってるってことはさ、兄貴は男の人ともセックス出来るってことだよね?」

俺の言葉に兄は顔に「最悪」の2文字を浮かべた、左の頬に浮いたその文字ははっきりと明朝体で書かれていた。

「そうきたか……」
ずりっと尻をずらしてにじり寄ると、兄も奥にそろっと尻をずらす。
「俺は兄貴が絡むとどんな隙も逃さない」
一気に詰めて俺のウイングスパンに入ると壁に手を着き逃げ場をなくすと、兄は盛大に項垂れて唸りながら二つ折りになって膝を抱えた。
「あぁ、もう。絶っ対に、こうなると思った。あぁ、もう……あぁ…!!」
俺の言葉を遮りたいのか、サウナハットを引きちぎれそうなほどギュッと引っ張り下ろして耳を塞ぐ。
そのちっぽけな抵抗に、俺はつい大きな声が出てしまう

「じゃ、俺とも出来るよね?!」

「きた……はぁ。お母さん、助けて……」
「兄貴?なぁ?あの日の続きしようぜ?」
「御年30になろうとする弟がバトル漫画の漢字の漢で男って読む豪胆漢みたいなこと言ってくる」
「あんたバトル漫画なんか読まないだろ、誰に教わったの?リキ?ともえ先輩?」
「とも…、へ?やだ。どこまで俺の裏をとってるの?」
「巴先輩とは3シーズン、アトランティスに移籍していた頃に関係がある。それは大学の寮で二人暮らししてた時から続いている関係と踏んでいる」
「わ、ご名答」
追い詰められている最中でも、壁を叩き割りたい程の呑気な拍手が喝采される。

この流れにもう俺は乗らない。

「じゃあさ、俺ともエッチ出来るじゃん?」
「一回ここから出ない?」
「あと4分28秒ある」
「熱い」
「サウナだからな」
「のぼせる」
「倒れても兄貴くらいなら運べる」
「お腹すいた」
「晩飯は奢る」
「お腹痛い」
「さすってあげる」
「帰る」
「帰さない」
「コンドーム持ってない」
「俺が持ってる」
「どこに?」
「財布」
「童貞くさい」
「じゃ、卒業させて」

「俺、みつの親友の彼氏だよ?浮気は嫌だ」

それは。いい返しが浮かばない……いや。

「浮気でなく本気にさせればクリアってこと?」

そうきたか、と兄は顎に軽く握った拳を当てる。

「いや、だめだよ。俺がリキとも誰とも付き合ってない1人の野生の俺でも、兄弟だから」
「兄弟はなんでだめなの?そもそも異性の姉弟だと妊娠の可能性があるからって解釈は無しなの?」
「ん〜……でも、血縁者同士は駄目だと人の叡智として遺伝子に組み込まれてるだろう?血縁者とそうならないように拒絶するように女の人はある一定の年齢で父親や兄弟の匂いが苦手になるのもそれだと言うし。
それはやっぱり、生物学的にみてもよくないからじゃないのかな?」
「俺、兄貴の匂いで下半身が疼く」

なんで?と壁に張り付き、思い当たる何かを見つけたのか、むぅ、と下唇を噛んだ。

「ブラコンで人類の叡智を超えようとしてる?」
「昔から無くはないこと、タブーなだけ。なぁ、だめ?」
「だめ。俺とみつが家族じゃなかったとしても、俺はリキの恋人だから他人でもしないよ」
「分かった。じゃあ、兄貴にとってどっからが浮気?」
「他人とセックスしたら浮気」
「それってのは、最終段階までってこと?」
「うん、挿入したらアウト」
「そ、…え?けっこう、おおらかなのね?」
「お風呂とか、サウナとか、付き合いで服を脱ぐ事はあるし、キスは挨拶だし。手を繋いだり、2人きりになる事も普通に起こりうる。
風俗は立派なビジネスだし、本番無しなら内容次第でまだ許容できる。
だけど1番親密で気持ちいいことは俺以外でして欲しくない」
「じゃあ現状、兄貴の理論では浮気じゃない?」
「そもそも全裸で2人きりでも弟とだよ?浮気じゃないだろう?」
「でも、弟が兄貴とセックスしたいとどうなの?」
「弟と兄はしない」

あぁ、この鼻、へし折りたいなぁ。
俺はくるりと視線を回して、自分の脳内を探り歩く。

「他人とセックスしたら浮気なんだろ?兄弟は家族、他人じゃない。それに兄は弟としないと思っているけど、弟は兄としたい」
「とにかく!挿入したら浮気だから駄目」
「……寸止めは?」
「すん……あぁ、もう!」

熱気にやられて兄の舌も頭も回らない、一般論から抜け出せずにいる。

「あのね、今のみつの発言は親友の恋人を寝取ろうとしてる。それに心は痛まないの?」
「考え方次第だよ?リキは親友だけど、恋愛に友情は関係ない。友達と恋仲になるのもありうるし、友達の嫁と再婚だって起きる。選ばれるかどうかだよ」
「割り切りすぎてる」
「逆に誠実な友情だと俺は思うね」
「捉え方次第か」

兄の視線は俺を見ないように時計を見ている。

「そう、捉え方次第で俺達は浮気しないでセックス出来る」
「恋愛じゃない」
「でも愛だよ、確かめ合わなくても愛し合っているのが家族だし」
「20分!出るよ!」

兄は早足で先に出て、ウォーターサーバーの隣にあるラックからバスタオルを取り、肩からかぶった。

無言の抵抗か。

空間が広くなったのも相俟って安心したのか、紙コップに入った水を後ろ手で渡してくれた。
カラカラの喉に水を流しながら、タオルで隠れた兄の胸元を見下ろすと、半分隠れた鎖骨の窪みに汗が溜まっていた。
「兄貴の汗もしょっぱいの?」
「汗?当たり前だろ?」
不思議そうな顔を上げて、兄貴がぐいっと水を飲むと、引き締まった胸鎖乳突筋がすらりと浮いて、胸骨を引き上げる。
一連の体の流れが想像できると、タオルで隠れた中身が見たくなって仕方ない、今の俺の視線は確実に兄の肋骨までねぶっている。

そろそろと後ろから手を伸ばし、肌に触れ、腹をさするとぽこっと腹筋にあたる。
そのまま滑ってへそにいき着くと、中指を挿れてくりくりと刺激する。
兄はそれに肉感をそそられたのか、振り向いた真っ赤な視線がうずうずと俺の股間に止まっている。
ぎゅっと自分のパンツの鼠蹊部を握って、敏感になる体をやり過ごそうと飲んだ水が口の端からこぼれた。

あんた、男を知ってるもんね。

意地悪く囁いてやろうと顔を寄せたら、パチリと目があった。
黒目がきゅうっと窄められ、レーザーがまつ毛を超えて俺を細く捉えている。
兄の視線の熱で俺の黒目が焦げる。
それでも俺は兄が見える。
手で脇腹を滑り上がって腋を撫で、鎖骨の窪みの汗だまりをこぼし、胸鎖乳突筋を撫であがる。
この細い顎を超えて、ふくよかな唇に触りたい。
ゆっくり視線と指で這い上がると、何人の視線になめされたかも分からない上質な柔らかい皮膚が波打った。

誰のものだろうが今は自分だけのものだ。

可愛がるフリをして、1番嫌がる事だって出来る。

商売道具の利き腕の関節を外して、一思いに骨を踏み砕いたら、この人はもう世界のものではなくなる。
それでも兄は俺を拒めない。

深部の体温を全身に感じて兄の中で息をしたい。
俺は兄に支配されていたい。
腹におさまり甘やかな視線を浴びていたい。

欲求が溢れて体が震えた。

「なぁ、唇舐めていい?」
「それってキスじゃない」
「言葉を変えれば、危惧が減る」

細い顎までやっと辿り着く、親指で分厚い唇に初めて触った。
兄貴の剥き出しの粘膜に触ってる、あの日“あのコト“で兄貴が剥き出しの俺の粘膜に触れたように。

「捉え方次第だろ」
都合よく生きようよ、人生は長い。
「またその目」
兄の下唇が指の腹から唾液の糸を引いて離れた、俺はすかさず指を舐める。

兄の細胞の味がする。
「誰のせいでつい見てしまうんだろうな?」
俺の細胞と同じ味か試してみたい。
「誰の目が俺を淫らにしてるんだろうな?」

俺の目がぶれると兄の白目がニヤリと見上げた。

一切合切の視線を遮断した密室で、俺の真っ赤で極太い視線が兄の柔い部分に絡んでいるのが見えた。
他に視線がないのを確認した兄の目から、くねくねと赤い視線も絡む。

「3巡目行く?」
俺の言葉に兄はタオルを肩からずらす。
「やめる。のぼせそう」

収束した視線は撚りもなければ、けばもなく、俺の瞼に押しつぶされながら、真っ暗闇に消えていった。


これ以上はR指定!強制終了


野暮書き・ロマンチックてなんですか?

某芸人のPodcastを聞いていたら「プラトニック・ラブ」の事を「プラトニック・セックス」と言い間違えていて、それをおもろいな、と採用。
重い視線みたいな小説になりました。

しっかりパンツも履いて、兄弟2人がサウナに入っているだけの、とても普通に正当な話に不純で糸を引きそうな肉付きをさせて書いた。

本来のロマンチックは「現実離れしていて甘美なさま。空想的で波乱に満ちたさま。情熱と理想にあふれたさま」となっている。
バレンタインにチョコも食わずに水掛け論してるけど、ちゃんとロマンチックやね。

“あのコト“はあのコトです、また後日書けたらなぁ、と思ってます。

本来の充時みつじは「兄の本当の姿は自分の推しの美少女キャラ」だと思い込んでいるので、兄貴に手を出すなど切腹同然、畏れ多いと思いながら、妄想しちゃう「恋愛」より「推し活」に近いです。
推し(兄貴)が、親友と自分の脳内みたいなエロ同人性生活を始めて頭バグった文学青年なんで安全(?)です。


5弾はこちら!

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