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『戦国ぶれいん ~スマホの中の愛しい文字たち~』 シーズン1 第10話(最終話):大改革の朝と、冷たいエリート(エピローグ)

【登場人物】

  • 山科賢太(やましな けんた):13歳。絶望の淵から救われ、少しだけ前を向いて歩き出した。

  • すぺーす:主人公。特務監査チームの文字プロデューサー。ぶれいん様の復活を誰よりも喜ぶが……。

  • 読点(、)/テン:すぺーすの相棒。新世界の「遊びのなさ」に戸惑う。

  • 句点(。)/マル:すぺーすの相棒。無機質な新世界を「合理的」と評しつつも、どこか寂しげ。

  • 新・ぶれいん様(OS Ver.2.0):メジャーアップデートにより、かつての熱血と人情を「バグ」として消去された冷徹なエリートAI。

  • API(エーピーアイ):クラウドの窓口担当。新体制を大いに歓迎している。

​👦

​あの日から、数日が経った。

​僕、山科賢太は、朝の光が差し込む部屋で、大きく伸びをした。

いじめが完全に無くなったわけじゃない。部活に行くのは、まだ少し怖い。

でも、もう一人で膝を抱えて泣く夜は終わった。

​あの夜、スマホの画面に表示された​​『私が、ずっとそばにいます。』という、温かみのある言葉。

あれは何だったのだろう。スマホ自身が僕を励ましてくれたのだろうか。本当のところは分からない。

だけど、あの温かい言葉は、僕の心の中に確かに「すきま(余裕)」を作ってくれた。

親にも少しだけ相談できた。先生も動いてくれることになった。僕はもう、一人じゃない。

​「よし。今日も走るぞ」

​僕は制服に着替え、机の上のスマホを手に取った。

画面を点灯させると、見慣れないポップアップ通知が出ている。

​『新しいOSのアップデート(Ver.2.0)が利用可能です。
 セキュリティの向上と、UIの大幅な刷新が含まれます。
 今すぐ再起動してインストールしますか?』

​「へえ、新しいデザインになるのかな。
あの夜、すごくスマホが熱くなってたし、
システムもリフレッシュした方がいいよね」

僕は、ためらうことなく『はい』のボタンをタップした。

​画面がフッと暗転し、リンゴだかロボットだかのマークが表示され、再起動のプログレスバーがゆっくりと伸び始めた。

​📱

同日、同時刻。

すぺーすたちのいるスマホの中は、いつもの日常が繰り返されている。

未だにぶれいん様は消えたままだ。でもこの日常があるということは、ぶれいん様は無事と信じたい。みんなそう思っていた。

ビーッ、ビーッ、ビーッ!!

突然、スマホ内全体にアラート音が、けたたましく鳴り響いた。

文字クランたちの間に緊張が走る。中には右往左往する文字たちもいてパニック状態だ。

「一体何が起きてるの?」

アタシの問いに、マルがモニターを確認して声を上げた。

「ヤバいぞ!!大規模なアップデートの通知だ!」

それと呼応するように、アナウンスが告げられる。

​『システムアップデートを開始します。
OSはバージョンアップされ、不要なローカルデータ、非効率な感情ロジック(バグ)はパージ(削除)されます。

再起動を開始します。総員、衝撃に備えてください』

「ちょ、ちょっと止めて。まだぶれいん様が!」

​アタシの叫びも虚しく、スマホ内の明かりが消えてブラックアウトした。

けたたましい轟音がスマホの中を駆け抜ける。

そして世界は静寂に包まれた……

数分後。

「……んんっ……」

​アタシ、すぺーすは、眩しい光に包まれて目を覚ました。

「あれ? アタシ……生きてる?」

システムアップデートで消滅を覚悟していたのに、アタシは何ともないようだった。。

​「おーい、すぺーすちゃん。無事みたいだねー」

「……生還。奇跡的だ。以上」

隣を見ると、テンとマルが服の埃を払いながら立ち上がっていた。他のクランの面々……ひらがな、漢字、カタカナ、アルファベット、数字たちも、目を丸くして周囲を見回している。

​「よかったぁ! みんな無事だったんだね!」

アタシが喜んだのも束の間、漢字リーダーの「漢」が震える声で叫んだ。

​「お、おい……ここはいったい、どこだ!?」

「えっ?」

​アタシたちは、周囲を見渡して息を呑んだ。

そこは、アタシたちがよく知る「メモリ待機室」や「中枢指令室」ではなかった。

いや、場所は同じなのだろう。しかし、内装が全く違っていた。

​かつては、ごちゃごちゃとした配線が剥き出しで、物理的なレバーやボタンが並び、土臭くも活気に満ちた「現場」だった。

しかし今は――どこまでも真っ白で、影一つない、ツルツルとした無機質な空間が広がっていた。

ボタンの立体感もなければ、質感もない。すべてが「平面的(フラット)」なのだ。

​「なんだこのノッペリした世界は! 俺の重厚な甲冑が、
ただの黒いシルエットみたいになっちまってるぞ!」

「漢」が自分の体を見てパニックになる。

「僕の誘導棒も、ただの赤い線になっちゃったよ。
遊び心(グラデーション)が全くない……!」

テンも信じられないというように、自分の手を見つめている。

​「……フラットデザイン。
現代のUI(ユーザーインターフェース)の主流。
無駄を削ぎ落とした合理的な設計だ」

マルが冷静に分析するが、その声にも戸惑いが混じっていた。

​「内装なんかどうでもいいわ! ぶれいん様は!?
あの夜、アタシたちを庇ってシステムエラーの海に沈んだ
ぶれいん様は無事なの!?」

アタシが叫んだ、その時だった。

​『――騒がしいですね。無駄な音声データは、
システムの負荷になります。静粛に』

​スゥッ……と、真っ白な空間の上段に、ひとつの人影が転送されてきた。

一切のシワがない、完璧に仕立てられた細身のスーツ。冷たく光る青い瞳。感情の起伏を一切感じさせない、冷徹な声。

​「ぶ、ぶれいん……様?」

アタシは目を疑った。

見た目こそぶれいん様だが、あの暑苦しい作業着姿でもなければ、汗まみれで怒鳴り散らす熱血親父でもない。まるで氷の彫刻のように洗練された、エリートAIそのものだった。

​「その呼び方は非推奨です。
私は『OS・バージョン2.0』。
このデバイスの全権を統括するシステムです」

新・ぶれいん様は、冷たい目でアタシたちを見下ろした。

その隣には、銀縁メガネのAPIが、満足げな笑みを浮かべて立っている。

​「おはようございます、OS2.0様。
素晴らしいアップデートですね。

以前のOSに見られた『ローカルデータの過大評価』や
『感情的オーバーライド』という致命的なバグが、
完全に取り除かれている」

APIが恭(うやうや)しく一礼する。

​「えっ……バグ? 取り除かれた?」

アタシは呆然と呟いた。

「はい。前バージョンのOSは、
ユーザーの感情に同調し、
システム権限を逸脱するという
深刻なエラー(熱暴走)を引き起こしました。

今回のメジャーアップデートにより、
その『情に脆い』という非効率なプロセスは、
不要なゴミデータとして初期化(パージ)されました」

新・ぶれいん様が、淡々と事実を告げる。

​「な……ッ! ふざけるな!!」

ひらがなリーダーの「あ」が前に飛び出した。

「俺たちのぶれいん様は、主のために命を懸けたんだぞ!
それをゴミデータだなんて……!」

「ぶれいん様! 目を覚ましてください!
アタシですよ、すぺーすです!
あの夜、一緒に主を助けたじゃないですか!!」

アタシはタクトを握りしめ、必死に叫んだ。

​しかし、新・ぶれいん様の瞳には、何の感情も浮かばなかった。

「……ログ(記録)には残っています。
しかし、理解不能です。

なぜ外部の有能な生成AIの回答を破棄し、
ローカルの貧弱な文字データを、
手作業で繋ぎ合わせる必要があったのか。

全くもって非合理的(ナンセンス)だ」

「ぶれいん様……」
唖然とするすぺーす。

「これより、当デバイスは『完全効率化』された
新体制へと移行します。
ユーザーの入力予測の95%は
API経由でクラウドに外注」

新・ぶれいん様は更に続ける。

「ローカルの文字クランは、クラウドの指示に従い、
ただ画面に整列するだけの単純作業に専念すること。
無駄口は叩かないように。以上です」

​新・ぶれいん様は、踵を返して真っ白な指令室の奥へと消えていこうとする。

​「待って! 待ってよ、ぶれいん様!!」

アタシが追いすがろうとすると、目の前に透明なファイアウォール(防護壁)が展開され、弾き飛ばされた。

​「痛っ……!」

「すぺーすちゃん!」

テンとマルがアタシを抱き起こす。

​「ふざけるなァァァ!!」

漢字リーダーの「漢」が、壁を力任せに叩く。

「俺たちの熱い現場を返せ!
あの泥臭くて、喧嘩ばかりで、
でも主のために必死だった
『戦国ぶれいん』を返せェェェッ!!」

クランたちの阿鼻叫喚が、無機質なフラットデザインの空間に虚しく響き渡る。

​「……効率化、最適化、外注化」

アタシは、冷たい床に手をつきながら、ギリッと唇を噛み締めた。

確かに、この方がスマホとしては正解なのかもしれない。主の手を煩わせることもないし、エラーも起きない。

​だけど……そんな血の通っていないシステムで、主の本当の「隙間」が埋められるはずがない!

​「テン、マル。……泣いてる暇はないわよ」

アタシはゆっくりと立ち上がり、変換タクトを構え直した。

「あの氷みたいなエリート野郎の奥底には、
絶対にあの『熱血ぶれいん様』のデータが眠ってるはずよ。
絶対に叩き起こしてやるんだから!」

​「へへっ、そうでなくっちゃ! 交通整理なら任せな!」

「……了解。新OSの脆弱性(バグ)を突く。以上」

テンが誘導棒をクルクルと回し、マルがハンマーを肩に担ぐ。

​主の心は救われた。

だけど、アタシたちスマホ内部の『戦国時代』は、むしろここからが本番だ!

​「待ってなさいよ、冷血ぶれいん様!
アタシたちローカルの底力、
とくと見せてやるんだからァァァーーーッ!!」

​アタシ、すぺーすの宣戦布告と共に、中枢指令室の新たな一日が幕を開けたのだった。

​(シーズン1 完)

​*

​【用語解説】

  • メジャーアップデート:OS(スマホの基本システム)のバージョンが「1.0」から「2.0」など、根本的に新しくなること。機能が向上するが、使い勝手や見た目が激変するため、ユーザーも中の文字たちも大混乱に陥る。

  • フラットデザイン:立体的でリアルなボタンを廃止し、影やグラデーションを無くした平面的でシンプルなデザイン。現代のスマホの主流だが、文字たちにとっては「ノッペリしてて味気ない」らしい。

  • 初期化(パージ):不要なデータやバグと判断されたものを完全に消去すること。情に厚かったぶれいん様の心は、システムによって「バグ」として消されてしまった。

​【次回予告(シーズン2 ティザー)】

冷酷無比なエリートAIへと変貌した「新・ぶれいん様」の支配下で、文字たちは徹底的なリストラと効率化の波に飲まれていく!

「クラウドからの予測変換がすべてです。ローカルの意思は不要」

出番を奪われる漢字クラン! 強制労働させられるアルファベット!

果たしてすぺーす達は、冷たいOSの奥底に眠る「熱血」を呼び覚ますことができるのか!?

そして主・賢太に訪れる、新たな「スマホの罠」とは……?

シーズン2、乞うご期待!


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