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『戦国ぶれいん ~スマホの中の愛しい文字たち~』 シーズン2 第1話:フラットデザインの憂鬱と「ヴ」の反逆

【登場人物】

  • 山科賢太(やましな けんた):13歳。好きなバンドのライブ映像を見てテンションが上がり、コメントを打とうとしている。

  • すぺーす:主人公。特務監査チーム。冷徹な新体制の裏で、文字たちの「個性」を守るためのレジスタンス活動を開始する。

  • 読点(、)/テン:すぺーすの相棒。無機質な新UIに嫌気がさしている。

  • 句点(。)/マル:すぺーすの相棒。新体制を分析しつつ、すぺーすの反逆を静かにサポートする。

  • 新・ぶれいん様(OS Ver.2.0):メジャーアップデートにより熱血を失った、超効率主義の冷徹AI。

  • API(エーピーアイ):クラウドの窓口担当。新・ぶれいん様と結託し、ローカル文字のリストラを推し進める。

  • 変異種「ヴ」:濁点付き変異種の中で唯一の大出世頭。最先端のファッションに身を包む、アヴァンギャルドな女性。口癖は「ヴァイブス」。

​📱

​「……はぁ。息が詰まりそう」

​アタシ、すぺーすは、真っ白で影一つない「フラットデザイン」のメモリ待機室で、深いため息をついた。

システムアップデートから数日。アタシたち文字クランの日常は、すっかり変わってしまった。

​『警告。ひらがなクラン、待機列の乱れは
システムリソースの無駄です。
ミリ秒単位で整列しなさい』

『漢字クラン、無駄な素振りは禁止します。
予測変換の指示があるまで、一切の動作を禁じます』

​指令室の上段から、氷のように冷たい声が響く。

かつて汗水垂らしてアタシたちを鼓舞していた、あの熱血現場監督はもういない。

そこにいるのは、シワ一つないスーツを着こなしたエリートAI、「新・ぶれいん様(OS Ver.2.0)」だ。

そしてその横には、銀縁メガネを光らせるクラウドの窓口担当、APIがピッタリと張り付いている。

​「ほんと、遊び(グラデーション)のない世界だよねー」

テンが、ただの赤い線になってしまった誘導棒をクルクルと回しながらボヤく。

「……無駄がない。合理的。
だが、主(賢太)の鼓動が伝わってこない。以上」

マルも、ツルツルの床を見つめてポツリとこぼした。

​今の新・ぶれいん様は、主の入力のほとんどをAPI経由で「クラウドの予測変換」に丸投げしている。

アタシたちローカルの文字は、ただ言われた通りに出力されるだけの「ただの表示装置」に成り下がっていた。

​『これより、本日のシステム最適化
(リストラ)会議を始めます』

新・ぶれいん様が、空中に巨大なホログラムパネルを展開した。

『当OSは、究極の効率化を目指します。
よって、データ容量の無駄使いや、変換コストのかかる
【非効率な文字】を、順次システムからパージ
(削除・統合)します。

第一のターゲットは……これです』

​パネルに大写しにされた文字を見て、待機室がざわついた。

そこに映っていたのは、カタカナの「ウ」に濁点がついた文字。

​「……ウソでしょ」アタシは息を呑んだ。

​『変異種」。この文字は、日本語の
基礎フォーマットにおいて著しく非効率です』

APIが冷々と解説を始める。

『例えば「ヴァイオリン」。
これは「バイオリン」と表記しても
意味は完全に通じます。
「ヴィーナス」は「ビーナス」で十分です。

わざわざ特殊なキー入力と、
余分な文字コードを使用する「ヴ」の存在は、
システムの変換コストを悪化させるだけの
ノイズに過ぎません。

よって、本時刻をもって「」の入力を自動検閲し、
すべて「」行に強制置換(オートコレクト)します』

​「はぁ!? 冗談じゃないわよ!!」

​その時、待機室の奥から、ピンヒールの鋭い足音が響き渡った。

「アタシの『V(ヴィー)』の響きを奪うなんて……
アンタ、マジで《ヴァイブス》下がるんですけど!!」

​現れたのは、真っ赤なルージュ💄を引き、最先端のアヴァンギャルドなドレスとハイヒール👠に身を包んだ、抜群のプロポーションを誇る女性。

濁点付き変異種の中で唯一、市民権を得て華やかな表舞台で活躍するファッションリーダー」だ!

​『非合理的な抗議です。「ヴ」さん、
あなたは元々「ウ」に無理やり濁点をつけた
バグの一種に過ぎない。身の程をわきまえなさい』

APIが冷たく言い放つ。

​「バグですって!?
確かに昔はそうだったかもしれないわ!」

「ヴ」は、ふんわりとしたファーのストールをバサッと翻した。

「でもね、主が外国のオシャレな言葉や、
カッコいい名前を表現したい時、
アタシの『唇を噛むようなセクシーな響き』が
絶対に必要だったの!

『ビーナス』と『ヴィーナス』じゃ、
纏っているオーラが全然違うのよ!
アタシは言葉のファッションなの!

アンタたちみたいな無機質な機械に、
この《ヴァイブス》が分かってたまるもんですか!」

​「ヴ」の熱い演説に、他のカタカナたちも「そうだそうだ!」と声を上げる。

しかし、新・ぶれいん様は冷酷な目で彼女を見下ろした。

​『ファッション。オーラ。
……いずれも数値化できない無価値な概念です。
自動検閲プログラム、起動。
「ヴ」の出力をロックします』

​ガシャン! という音と共に、ヴの体に目に見えないデジタルな鎖が巻き付いた。

「きゃあっ……! な、何よこれ! 動けない……!」

「ヴ!!」

​アタシが駆け寄ろうとしたその時、指令室に主(賢太)の入力信号が飛び込んできた。

​👦

​画面の向こう側。

賢太は、部屋で一人、大好きなロックバンドのライブ映像をスマホで見ていた。

画面の中では、ボーカルが熱唱し、観客の熱気が最高潮に達している。

​「すっげえ……! 今日のライブ、マジで最高だ!」

興奮した賢太は、ライブ配信のコメント欄に今の気持ちを書き込もうとした。

​『テンション上がる! 会場のボルテージも最高潮!』

​賢太の指がフリック入力で『ぼ』『る』『て』『ー』『じ』と打ち込む。

​「……主の入力、『ボルテージ』を受信。
予測変換、異常なし。そのまま出力します」

APIが淡々と処理を進めようとする。

​しかし、画面の向こうの賢太は、ふと指を止めた。

「……ボルテージ。なんか違うな。
もっとこう、ビリビリ痺れるような、
カッコいい感じにしたいんだよな」

賢太はバックスペースキーを押し、『ボ』の文字を消した。

​そして、慎重に『ウ』を打ち、濁点ボタンをタップし、小さな『ォ』を付け足した。

​『ヴォルテージ』

📱

​「……来たわ!! 主が、アタシを呼んでる!!」

デジタルな鎖に縛られながらも、「ヴ」が叫んだ。

「主は今、普通の『ボ』じゃ満足できないのよ!
魂が震えるような、カッコいい
ヴォ』を求めてるの!」

​『エラー。非効率な入力を検知。
自動検閲プログラム、強制置換
(オートコレクト)を実行。
「ヴォ」を「ボ」に書き換えます』

新・ぶれいん様が、「ヴ」に向けて赤いレーザーのような修正ビームを放とうとした。

​「やらせないわ!!」

​アタシは、「ヴ」の前に飛び出し、変換タクトを思い切り横に振った。

「テン! マル! アタシに時間をちょうだい!」

「はいよっ! エラーコード、
一時的に迂回(バイパス)させる!」

テンが誘導棒を振り回し、システムの隙間を縫うように赤いラインを引く。

「……修正ビーム、軌道計算。防御壁展開。以上」

マルがハンマーを床に叩きつけ、一瞬だけ透明なシールドを張った。

​『な……特務チーム、何をするんです!
処理を妨害する気ですか!』

APIが顔をしかめる。

​「アタシはね……主の『心』を
プロデュースするのが仕事なの!」

アタシは、新・ぶれいん様の修正ビームとヴの間に滑り込み、アタシ自身の能力である「空白(スペース)」の魔法を全開にした。

「強制置換のプログラムと、アタシたちの間に……
『心のすきま』を作ってやるわッ!!」

​カアァァァッ!!

アタシが作り出した透明な空白のクッションが、新・ぶれいん様の修正ビームをフワリと受け止め、その効果を無力化した。

​「今よ、「ヴ」!! 主のところへ行って!!」

「サンキュー、すぺーす!
アタシの最高のヴァイブス、見せつけてやるわ!」

​「ヴ」は縛られていたデジタルな鎖を引きちぎり、ピンヒールを高らかに鳴らして、ディスプレイの最前線へと華麗に跳躍した。

​『最高潮の、ヴォルテージ!!』

​シュガァァァン!

賢太が送信ボタンをターン! と叩き、コメントがライブ配信の画面に鮮やかに流れていった。

​「おおっ、やっぱり『ヴォ』にすると字面がカッコいいな!」

賢太は満足そうに頷き、再びライブの熱狂へと戻っていった。

​📱

​「……エラー。強制置換プログラムがバイパスされました」

APIが忌々しそうに眼鏡を押し上げる。

新・ぶれいん様は、ディスプレイに刻まれた『ヴォ』の文字を冷たく見つめていた。

​『理解不能です。意味は同じなのに、
なぜ主はわざわざ変換の手間をかけてまで、
あの不規則な文字を選んだのか』

「それが『感情』であり、『個性』なのよ、
新・ぶれいん様!」

アタシは、タクトを肩に担ぎながら不敵に笑い返した。

「意味が通じればいいだけなら、人間の言葉はただの記号よ。
でも、言葉には温度があるし、ファッションがあるの。
アンタたちの計算式じゃ、一生弾き出せない答えよ!」

​『……非論理的(ナンセンス)な。
今回はシステムの隙を突かれましたが、
次回からは検閲の精度を上げます。
特務チーム、次はないと思いなさい』

新・ぶれいん様はホログラムパネルを消去し、クルリと背を向けて奥へ消えていった。

​「はぁ〜……ヒヤヒヤしたぁ」

アタシが膝に手をついて息をつくと、「ヴ」が近づいてきて、アタシの頬にチュッと投げキッス😘をした。

​「助かったわ、すぺーす。
アンタ、案外アァンギャルドな
ァイブス持ってるじゃない😊」

「ふふっ。アタシたちローカル文字の誇りは、
あの冷血野郎の好きにはさせないわよ」

​アタシたちは、こっそりとハイタッチ🙌を交わした。

表向きは完璧に支配されたフラットデザインの世界。

しかしその水面下で、アタシたち「文字のレジスタンス」の熱い反逆が、確かに産声を上げたのだ。

​*

​【用語解説】

  • :ウに濁点をつけた文字。「バ」行の外来語(ヴァイオリン、ヴィジュアル系など)を原音に近く、あるいはカッコよく表記したい時に使われる。効率を重視する校正ソフトなどでは「『ブ』で統一しましょう」などと怒られることが多いが、消すには忍びない独特のオーラを持つ。

  • 強制置換(オートコレクト):ユーザーが入力した文字を、システムが「こっちの方が正しいですよ」と勝手に書き換えてしまう機能。おせっかいが過ぎて、意図しない文章になってしまうパニックの元凶。

  • バイパス(迂回):正規の処理ルートを避けて、別の道を通すこと。テンとマルがシステムの裏をかいて時間を稼いだ。

​【次回予告】

無事にヴの誇りを守り抜いたアタシたち。

だけど、新・ぶれいん様のリストラ計画はまだ始まったばかり!

「見た目が同じ文字は、データ容量の無駄です。一つの文字コードに統合します」

えっ!? カタカナの『エ』と、漢字の『工』が合体させられちゃうの!?

「やめてくれ! 俺は『人工(じんこう)』だぞ! 『人エ(じんえ)』になったら意味が通じない!」

マイナス「-」と長音「ー」も入り乱れて、ディスプレイはドッペルゲンガーの大パニック!

次回、シーズン2 第2話『そっくりさん大パニック!エと工のドッペルゲンガー』


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