『戦国ぶれいん ~スマホの中の愛しい文字たち~』 シーズン1 第6話:恐怖のトンネル!通信圏外サバイバル
【登場人物】
山科賢太(やましな けんた):13歳。クラスメイトの影響でSNSを始めた。現在、家族旅行で山奥へ向かう車の中。
すぺーす:主人公。特務監査チームの文字プロデューサー。変換と空白を操る。
読点(、)/テン:すぺーすの相棒。チャラい交通整理役。
句点(。)/マル:すぺーすの相棒。文章のストッパー。
ぶれいん様(OS):スマホ世界の熱血現場監督。圏外という絶望的状況で配下を鼓舞する。
API(エーピーアイ):外部業者「クラウド」の窓口担当。電波がないとポンコツになる。
各クランのリーダーたち:ひらがな、漢字、カタカナ、数字の熱きローカル戦士たち。
👦
「おーっ、すごい景色!」
僕、山科賢太は、車の窓から見える緑豊かな山々を見上げて歓声を上げた。
今日は家族旅行で、山奥の温泉宿に向かっているところだ。
中学生になって少しスマホの操作にも慣れてきた僕は、最近クラスメイトたちがやっている「SNS」というものを始めてみた。
みんなが日常のちょっとしたことや、お出かけの写真をアップしているのを見て、僕も自分なりの「旅行記」を書いてみたくなったのだ。
「よし、今の景色を写真に撮って……っと。
それに合わせて、旅行記の文章を書こう!」

僕は意気揚々とSNSの投稿画面を開き、フリック入力のキーボードを立ち上げた。
『家族で、山奥の温泉に向かっています。』
そう打ち込もうとした時だった。車が、長く暗いトンネルに入ったのだ。
画面の上の方にあった『4G』のマークが、スッと消えた。
代わりに表示されたのは、『圏外』という見慣れない二文字。
「あれ? ネットが繋がらないぞ……?」
SNSの画面がクルクルとロード状態になったまま、動かなくなってしまった。
📱
『ビィィィーーーッ!! ビィィィーーーッ!!』
中枢指令室に、耳をつんざくようなけたたましい非常用アラートが鳴り響いた。
真っ赤なパトランプが回転し、メモリ待機室は一瞬にしてパニック状態に陥った。
「な、なになに!? どうしたのよ!」
アタシ、すぺーすが慌てて指令室に飛び込むと、ぶれいん様が頭を抱えてメインコンソールに突っ伏していた。
「終わった……!! 主(賢太)の乗っている車が
トンネルに入り、電波が完全に遮断された!
現在、このスマホは外界から完全に孤立した
『通信圏外(オフライン)』状態だァァ!!」
「ええっ!? 圏外!?」
「そうだ! すなわち……!」
ぶれいん様が指差した先には、外部業者である「株式会社クラウド」の窓口担当、APIの姿があった。
彼はいつもの冷徹な顔のまま、空中でピタッと静止している。
「……通信エラー。サーバーに接続できません。
タイムアウトしました。……通信エラー。
サーバーに……」

APIの体はノイズまみれになり、やがてフッとホログラムのように消滅してしまった。
「あああっ! 便利な予測変換を出してくれる
APIさんが消えちゃった!」
テンが頭を抱える。
最近のアタシたちは、主が長文を打つ時、APIがクラウドから持ってくる「AI予測変換」のパッケージにかなり頼っていた。
数文字打てば続きの文章を丸ごと出してくれるアレがないと、アタシたちの作業量は跳ね上がるのだ。
「……主の指が動いた。テキスト入力、再開」
ステータスモニターを見ていたマルが、静かに告げた。
画面の向こうで、賢太はSNSアプリを閉じ、標準の「メモ帳アプリ」を開いていた。
「とりあえず、電波が復活するまでメモ帳に
旅行記を下書きしておこうっと。ええと、
『家族で、山奥の温泉に向かっています』……と」
賢太の指が、キーボードをタップし始める。
「おいおいおい! 予測変換のサポート無しで、
この長文をゼロから手打ちする気か!?
主の入力スピードに、俺たちローカルの
処理能力が追いつくのか!?」
ひらがなリーダーの「あ」が悲鳴を上げる。
「ええい、泣き言を言うなァァ!!」
ぶれいん様が、バインダーを床に叩きつけた。
「外部のクラウドが繋がらないなら、
俺たちローカルの底力を見せてやるしかねぇだろうが!
昔は全部、手作業でやってたんだ!
俺たちのキャッシュメモリ(ローカル辞書)の
記憶を総動員して、主の旅行記を完成させるぞ!!」

ぶれいん様の熱いゲキに、指令室の空気が一変した。
「おうよ! やってやろうじゃねえか!!」
漢字リーダーの「漢」が、刀を抜いて高く掲げた。
「外部のAIなんぞに頼らずとも、
我ら漢字クランの熟練の『文脈読み』を見せてやる!
野郎ども、オーディションの準備だ!!」
「カタカナクランも行くぞ!
『ドライブ』や『リフレッシュ』など、
横文字の表現は我らに任せろ!」
「我ら数字クランも、時刻や日数の入力に備えて
待機完了だ!」
各クランのリーダーたちが、次々と名乗りを上げる。
「みんな……!」
アタシは胸が熱くなるのを感じた。
いつもは「出番が少ない」「文字幅がデカい」と文句を言い合っている連中が、外界と遮断された絶望的な状況で、見事な団結力を見せているのだ。

「すぺーす! お前がタクトで全体を指揮しろ!
テン、マル、交通整理は頼んだぞ!」
ぶれいん様がアタシを指差す。
「はいっ! 任せてください!」
アタシは変換タクトを強く握りしめ、メモリ待機室の最前線へと飛び出した。
『か』『ぞ』『く』『で』
主の指がフリックするたびに、ひらがなたちがディスプレイに飛び出してくる。
「すぺーすちゃん、来たよ!」テンが叫ぶ。
「いくわよ……変換!!」
アタシがタクトを振ると、漢字クランから選ばれし『家』と『族』がバシッと飛び出した。
「よし、次は『山奥』だ!」
『や』『ま』『お』『く』
「変換!!」
今度は『山』と『奥』が完璧なタイミングで現れる。
予測変換のパッケージが降ってこない分、一文字一文字の変換をアタシが手動でコントロールしなければならない。正直、腕がもげそうなくらいしんどい。
でも、不思議と嫌じゃなかった。
「……間を空けるぞ。深呼吸だ」
テンが滑り込んで『、』を置き、文章のリズムを整える。
『家族で、山奥の温泉に向かっています。』
「……第一文、完成。以上」
マルが『。』を打ち、最初の段落が綺麗に仕上がった。
「やった! いいペースよ!」
アタシが喜んだのも束の間、主の旅行記はまだまだ続く。
『空気もきれいで、自然がいっぱいです。夜はご当地グルメを食べるのが楽しみです!』
「ひらがな部隊、急げ! 息を合わせろ!」
「漢字クラン、『自然』と『地元』スタンバイ!」
「カタカナクラン、『グルメ』射出用意!」
指令室内は、まるで戦場のような忙しさだった。
ぶれいん様は全身から汗(排熱)を吹き出しながら、必死にローカル辞書から過去の学習データを引っ張り出して、アタシに変換候補を送り続けている。
「すぺーす! 主は過去に『ご当地ラーメン』と
検索したことがある! 『ごとうち』の変換は
『御当地』より『ご当地』の方が
主の好みに合ってるはずだ!」

「了解! ひらがな交じりで出します!」
クラウドの巨大なAIには敵わないかもしれない。
でも、このスマホの中でずっと主の操作を見守ってきたアタシたちだからこそ分かる、主の「手癖」や「好み」があるのだ。
「ふう……これくらいかな」
画面の向こうで、賢太が満足そうに呟いた。
『家族で、山奥の温泉に向かっています。
空気もきれいで、自然がいっぱいです。夜はご当地グルメを食べるのが楽しみです!』
「……入力終了。主が『保存』ボタンを押した」
マルの報告と同時に、アタシは膝から崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……終わったぁ……!」
「やったァァァーーーッ!!!」
メモリ待機室で、クランたちが抱き合って歓喜の声を上げた。
ひらがなも、漢字も、カタカナも、みんな汗だくだが、その顔は誇らしげに輝いている。
「よくやった! お前ら、最高だ!!」

ぶれいん様も、ボロボロになりながら親指を立てた。
トンネルを抜け、車が再び明るい日差しの中へ飛び出した。
画面の上部に、再び『4G』のマークが点灯する。
「おっ、電波戻った! よーし、メモ帳の文章をコピーして、
SNSに貼り付けて……と。写真と一緒に、投稿!」
シュガァァァン!
心地よい送信音と共に、アタシたちがローカルの力だけで作り上げた手作りの文章が、ネットの世界へと飛び立っていった。
「……通信復旧。サーバーに接続しました。
皆様、お疲れ様です」
空中に再びAPIがホログラムのように姿を現した。彼は何事もなかったかのように平然としている。
「まったく、美味しいところだけ戻ってきやがって!」
テンが苦笑いしながら誘導棒でAPIの肩をつつく。
「でも、たまにはこういう総力戦も悪くないわね!」
アタシは透明なドレスの埃を払い、胸を張った。
どんなに便利な外部ツールがあっても、スマホの根幹を支えているのは、アタシたちローカルの絆なのだ。
「さあ、次はどんな長文でもドンと来いよ!」
温泉宿に向かう賢太のワクワクと共に、アタシたちの戦国ぶれいんも、ますます熱を帯びていくのだった。
✳
【用語解説】
通信圏外(オフライン):電波が届かず、インターネットに繋がらない状態。クラウドでの予測変換やAI処理が一切使えなくなり、スマホ本体(ローカル)に保存されたデータや辞書だけでやりくりしなければならない、文字たちにとっては極限のサバイバル環境。
キャッシュメモリ(ローカル辞書):スマホ本体が「過去にユーザーがよく使った変換」を記憶している引き出し。クラウドの巨大データベースには負けるが、ユーザー個人のクセに合わせた変換を出せるのが強み。
メモ帳アプリ:ネットに繋がっていなくても文字を入力・保存できる、圏外時の強い味方。賢太はここで下書きをするという、スマホ使いとしての賢いテクニックを身につけた。
【次回予告】
無事にSNSへの投稿もでき、スマホライフをエンジョイしているかに見えた賢太。
しかし、ある夜……主の指の動きが、異様に重い。
「……なんだこの空気? バックスペースで何度も文字が消されていく……」
画面に現れたのは、普段は決して姿を見せない、濁音付きの変異種「あ゙」や「え゙」たち!
「痛ぇ! 苦しい! 主の心が悲鳴を上げてるぞ!」
一体、賢太の現実に何が起きているの!?
次回、第7話『異変の兆しと、変異種「あ゙」たちの悲鳴』

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