Long Time Gone 歌詞と対訳

楽曲について

Long Time Gone / written by Darrell Scott
トラヴィス・トリットの「It’s a Great Day to Be Alive」、パティ・ラブレスの「You’ll Never Leave Harlan Alive」等、カントリー界に数々の名曲を提供しつつ自身もソロ・アーティスト&全ての弦楽器を弾きこなすマルチ・プレイヤーとして活動する現代の巨匠、ダレル・スコットによる楽曲。
初出は2000年、同じくブルーグラス系ミュージシャンであるティム・オブライエン(Tim O'Brien)との共演版Real Time」収録分ですが、この曲が広く世に知られるようになったのは 2002年、ディクシー・チックス(現:ザ・チックス)のカヴァーによるもの。アルバム「Home」に収録されたそのバージョンはシングルとしてもリリースされ、Billboard カントリーチャートで2位・総合チャートでも7位を記録する大ヒット。翌年のグラミー賞における最優秀カントリーボーカル演奏賞(デュオ/グループ部門)を受賞しました。
一般に広く知られているのはそのザ・チックスのバージョンということで、本稿では彼女らのバージョンに基づいて女性口調の翻訳にしています。

曲を聴く前にイメージしたいこと

親の農場を継ぐのを拒否し、地元の聖歌隊で一緒に歌おうという親友の誘いも蹴り、成功を夢見て音楽の聖地ナッシュビルに乗り込む主人公。しかし現実は厳しく、踵を返して結局は故郷に逆戻り。親友と再会し一緒に教会で歌う日々の中で、ラジオから流れてくる音楽は、かつてカントリー・ミュージックに対し主人公が感じていた「魂」が欠けたものばかり。良質の音楽に恵まれたあの日々は過ぎ去ってしまったのか…。
ストーリーテリング風に始まりつつ 2nd コーラス直後の転調・間奏以降で物語はダイナミックに動き出します。ナッシュビルにおける挫折の日々を高速ライミング乱れ撃ちで表現するブリッジ部分。それに続く 3rd ヴァースはかつて音楽に「魂」を吹き込み続けたカントリーの3大レジェンド、マール・ハガード、ジョニー・キャッシュ、ハンク・ウィリアムズの名を掛けたダブル・ミーニング3連発…まさに圧巻の一言!
カントリー界に多くの楽曲を提供しているダレル・スコットですが、自身の活動のフィールドはカントリーのメインストリームというより少々アウトロー寄りという印象。この曲の主人公と同様に、彼もホンキー・トンク(生演奏を提供する安酒場)の酔客相手に演奏する長い下積み時代を経験しています。苦労の末にソングライターとして大成した彼だからこそ、2000年代以降マーケティング優先で大味になっていくカントリー・ミュージックに対し辛辣に物申したくなったのでしょう。
一方のチックスもまた、デビュー早々に大成功を収めながらも、自分らしくあり続けるという点で常にアウトローっぽさを漂わせてきました。そんな彼女たちだからこそ、この曲の「魂」が刺さり、レパートリーとして取り上げるに至ったのではと推測します。
振り返ってみると、本来のカントリー/アメリカン・ルーツ・ミュージックが持つ魂や良心にフォーカスする音楽活動を「アメリカーナ」と称し、カントリー・ミュージックの本流とは異なるムーブメントになっていったのは、この楽曲に前後する時期だったような気がします。今にして思えばこの楽曲こそが「アメリカーナの分水嶺」だったのかもしれません……それではどうぞ!

歌詞と対訳

Daddy sits on a front porch swinging
パパは 玄関ポーチの揺り椅子に座り
Looking out on a vacant field
放ったらかしの休耕地を 眺めてる
Used to be filled with burley t'bacca
かつては一面 タバコ畑だったのに
Now he knows it never will
もう 再開する気は無いみたい
My Brothers found work in Indiana
兄たちは インディアナで職にありつき
M' Sisters a nurse at the old folks HOME
姉たちは 老人ホームで介護士をしてる
Mama still cooking too much for supper
でもママは相変わらず 夕食を作りすぎるの
And me I’ve been a long time GONE
とっくの昔に私は居ないというのに

Been a long time gone
時は 過ぎ去ってしまった
No, I ain't hoed a row since I don't know WHEN
最後に野良仕事をしたのは いつかしら
Long time gone
時は 過ぎ去ってしまった
And it ain't coming back AGAIN
あの日はもう戻ってこない

Deliah plays that ol' church pian'a
デライアは 教会でピアノを弾いてる
Sitting out on her daddy’s FARM
パパの農場を 手伝いもしないで
She always thought that we'd be together
彼女はずっと信じてた 私たち運命共同体だって
Lord I never meant to do her HARM
ああ、彼女には悪いことしちゃった
Said she could hear me singin' in the choir
彼女が思い描いたのは 聖歌隊で歌う私の姿
Me, I heard another SONG
でも私には 別の「うた」が聴こえていたから
I caught wind and hit the road runnin'
空気を読んで 立ち去ることにしたの
And Lord, I've been a long time GONE
ああ、それからずいぶん経ったわ

Been a long time gone
時は 過ぎ去ってしまった
Lord, I ain't had a prayer since I don't know WHEN
最後に祈りを捧げたのは いつかしら
Long time gone
時は 過ぎ去ってしまった
And it ain't coming back AGAIN
あの日はもう戻ってこない

Now me, I went to NASHVILLE, Tryin' to beat the big DEAL
ナッシュビルに乗り込んで 一発当ててやると意気込み
Playin' down on BROADWAY, Gettin' there the hard WAY
ダウンタウンの店で演奏して すぐに茨の道だと悟った
Living from a tip JAR, Sleeping in my CAR
客からのチップで食いつなぎ 車の中で寝る日々
Hocking my GUITAR, Yeah I’m gonna be a STAR
結局ギターも質に入れた ああ、スターになりたい!

Now, me and Deliah singing every Sunday
そして今 デライアと私は 毎週日曜日に歌う
Watching the children and the garden GROW
子どもたちと庭の草木が 育つのを眺めながら
We listen to the radio to hear what's cookin’
ラジオを聴いて 聞き耳を立てるけど
But the music ain't got no SOUL
流れる音楽は どれも「魂」の無いものばかり
Now they sound tired but they don't sound Haggard
くたびれてるけれど 「やさぐれて」いない
They've got money but they don't have Cash
儲けてるんだろうけど 「現金」じゃない泡銭
They got Junior but they don't have Hank
若々しいけど 「束」のような強固さは無い
I think, I think, I think
ねえ、ねえ、そう思わない?

The rest is a long time gone
時代は 過ぎ去ってしまった
No, I ain't hit the roof since I don’t know when
こんなに怒り心頭なことは 今までに無い
Long time gone, and it ain't coming back
過ぎ去ったものは 戻ってこない
I said a long time gone
もう過ぎ去ってしまったの
No, I ain't honked the horn since I don’t know WHEN
こんな警告をしたことは 今までに無い
Long time gone
過ぎ去ったものは
And it ain't coming back AGAIN
二度と戻ってこない

I said a long time, long time, long time gone……
もう過ぎ去ってしまったの……

  • since I don't know when……この表現はジョニー・キャッシュの代表曲「Folsom Prison Blues」でも用いられており、作者によるキャッシュへのオマージュを含むと筆者は解釈しています。

  • Broadway……ナッシュビル市街中心部の目抜き通り「Broadway St.」のこと。短い区間の中に無数のホンキー・トンクがひしめき合い、競うように毎日ライブを繰り広げます。ストリート・ミュージシャンも多数いて、かつて筆者も店や路上で演奏しては日銭を稼ぐ日々の中で、この街で音楽で成功するというのはまさに茨の道なのだと痛感したことを思い出しながら翻訳しました。

  • Haggard, Cash, Hank……前述の通り、カントリー・ミュージック史における3大レジェンドの名前を用いた掛詞がこの曲における最大のハイライト!和訳は少々こじつけですが何となく言葉遊びのニュアンスを感じ取ってください。ちなみに Junior もこれまたアウトロー・カントリーの重要人物 Hank Williams, Jr.(Hank Sr.の息子)の暗喩です。

  • 常に自分らしさを貫くザ・チックス。この楽曲をリリースして間もない2003年3月、イラク戦争を批判する発言をきっかけに業界を干されるのですが、腐らずむしろトゲトゲしさを磨くこと13年の後、同じ志を持つビヨンセと共に2016年カントリー・ミュージック・アワードのステージに殴り込み、ビヨンセの楽曲「Daddy Lessons(これまたダレル作)」を披露。その際、この楽曲の一節を挿入するという粋な演出をしています。コマーシャリズムに振り回されることなく自分を貫く。この曲は、そんなアーティスト達の矜持を示すアンセムなのかもしれません。


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