第6話:万人受けを狙わない。クラウドファンディングで「思想」を届ける
これまでに開発してきた「pentagon79」や「VERYKAL」、そして「HEATBLOCK」といったプロダクトは、すべての人に向けた傘ではありません。
世の中の大半の人にとっては、傘は雨がしのげればそれで良く、駅の売店で買える安価なもので十分かもしれません。しかし、世の中には「毎日カバンに傘を入れて持ち歩くから、1グラムでも軽くしたい」という人や、「自動開閉の便利さは欲しいけれど、重くて太いのは嫌だ」という、特定の強い不満やニーズを持つ人が確実に存在します。
私たちは、万人受けを狙う必要はないと考えていました。大衆向けの製品を作ろうとすれば、どうしても角が取れ、どこにでもある凡庸なものになってしまうからです。それよりも、特定の誰かの不満を根本から解消する、エッジの効いたプロダクトを作る。それが私たちのスタンスでした。
しかし、そうしたニッチなプロダクトは、従来の一般的な流通や小売の仕組みだけでは、本当に必要としている人へその価値を届けきるのが難しいという課題もありました。
そこで私たちは2018年、ひとつの挑戦に踏み切ります。 前作の「pentagon79」が累計20,000本を超える販売数となり、そこからさらにどこまで軽くできるのか、シャフトを中心に改良を重ねて開発した「pentagon72(ペンタゴン72)」を携え、クラウドファンディングサイト「Makuake」へ初挑戦したのです。
私たちにとって、クラウドファンディングは単なる「資金調達の手段」ではありませんでした。まだ世の中にないプロダクトの背景にある「引き算の思想」や、素材選定の裏側にある技術的な葛藤をそのまま実直に開示し、それに共感してくれる最初の応援者(サポーター)と直接つながるための場所だったのです。
ページ内では、ただ数値をアピールするのではないモノ作りのプロセスを透明に伝えていきました。 実は、試作段階では60グラム後半の傘を作ることも可能でした。しかし、それでは傘としての耐久性が落ち、生地もたたみにくくなってしまう。自分たちが自信を持って販売できない傘は作らない。そうして試行錯誤を繰り返した結果、軽さと丈夫さを最も良いバランスで備えた「72グラム」に着地したという、開発の裏側も実直に書き記しました。
2018年4月20日の募集終了日までに、プロジェクトには506人もの方が「気になる」登録をしてくださり、最終的に1,100人ものサポーターから、目標金額の1353%にあたる4,060,800円の資金調達をいただくことができました。
寄せられた75件の応援コメントには、私たちが驚くほどリアルな生活の声が並んでいました。「外回りで重い資料を多く持ち歩くので切望していた」という具体的なライフスタイルからの期待。「軽量な傘はこれまでにもあったが、耐久性に難があるものが多くて困っていた」という、私たちが強度のバランスを実直に突き詰めた部分を見抜いてくださる声。
そして、この時生まれた「pentagon72」は、一過性のブームとして消費されることなく、数年が経過した今でも私たちの定番商品として扱われ、売れ続けています。
一般的な傘のライフサイクルは短く、定番商品であっても1〜2年で入れ替わっていくのが一般的です。そのなかにあって、これほど長く定番として残り続けているのは、このプロダクトがトレンドを追ったものではなく、ユーザーの「持ち歩くストレスを無くす」という本質を捉えた道具だからだと考えています。
莫大な広告費を投じてマス(大衆)に認知を広げるのではない、私たちのモノ作りの思想を実直に語り、ニッチな偏愛を持つ人たちと深く握手を交わしていくこと。発売前からこれほどの熱量を持って並走してくれるサポーターの存在、そして長く愛され続ける本質的なプロダクトこそが、小さな会社であるアンベルの何よりの強みになると確信した出来事でした。
