創作落語『うるちゅる』
先日、『うるちゅる』というオノマトペについての記事を投稿しまして。
その中で使った小ネタの一つを自分で気に入ってしまい、膨らませてスピンオフを作ってしまいました!笑
旋風亭つむじという架空の落語家による、創作落語です。
どうぞお楽しみください。
演目名 『うるちゅる』
(出囃子)
(舞台袖から現れる旋風亭つむじ、高座に上がり、客席に頭をさげる)
えー、近頃は言葉の移ろいも早いもんで、
若いもんの間じゃ新しい言葉が生まれては消え、
消えては生まれ……
そんな流行り言葉が江戸の蕎麦屋に迷い込むと、どうにもおかしなことになりまして、
一席お付き合い願います。
(蕎麦屋の暖簾をガラッとくぐる動作)
八っつぁん
「おぅ、大将、やってるかい! ……おや、隠居じゃねぇか、どうりで店の空気がピンとしてると思った、隣、いいかい?」
隠居
「おぉ八っつぁんか、相変わらず落ち着きがないね、私は今、大将の打ったこのキリッとした蕎麦をな、静かに味わっているところだよ、邪魔をしなさんな」
八っつぁん
「へへっ、キリッとだなんて、隠居、ずいぶん時代遅れな表現を使うじゃねぇか」
隠居
「何が時代遅れなんだい、蕎麦は角が立って、キリッとしてるのが一番だろうが」
八っつぁん
「今の若ぇ衆は『キリッ』なんて使いませんよ、これからはもっとね、『質感』が必要なんで、大将! いつもの頼むよ!」
(大将、無言で麺を茹で、冷水で締め、盛り付けてスッと出す)
大将
「……へい、お待ちど」
八っつぁん
「待ってました! ……(ズズズッ!)くぅ〜っ! きたきたきたっ!」
隠居
「うるさいね、まったく、静かに食えないもんかね」
八っつぁん
「隠居、分かりませんか?」
隠居
「何がだい」
八っつぁん
「喉を通るときに、こう、水気と色気が一緒になって、滑り込んでくるこの感じ、これぞ———うるちゅる」
隠居
「……は? なんだい、そのとぼけた音は」
八っつぁん
「う・る・ちゅ・る! 潤ってて、つるっとしてて、なのにだらしなくない、大将の腕がついにこの境地に達したんでさぁ!」
隠居
「馬鹿なこと言ってんじゃないよ、だいたい『うるちゅる』なんてのは、おなごが顔や爪に何やら塗ったもんを褒める言葉だろう」
八っつぁん
「だから粋なんじゃないですか、蕎麦にも『うるちゅる』感が必要な時代なんです、大将、これ隠し味に韓国コスメかなんか混ぜたのかい?」
隠居
「食いもんにコスメを混ぜる奴があるか! やめなさい、お前みたいな無精髭の男が『うるちゅる』なんぞ言ったって、脂ぎって見えるだけだよ」
八っつぁん
「時代は変わるんで、これからは『てやんでぇ、べらぼうめ、うるちゅるだ!』なんて江戸っ子が街中に溢れますぜ、ほら、表見てくださいよ、あそこで熊の野郎が間抜け面で通りをうるちゅるしてら」
隠居
「それを言うなら『うろちょろ』だろう、第一、そんなワケの分からねぇ言葉が流行ったら、江戸の粋が台無しだ、なぁ大将、お前さんもそう思うだろう?」
(大将、八っつぁんの前にスッと伝票を差し出す)
大将
「……八っつぁん、お代」
八っつぁん
「あいよ! ここは新時代の江戸っ子らしく気前よくだ!」
(八っつぁん、懐から小銭を出して、大将の掌にジャラッと載せる)
大将
「……まいど」
八っつぁん
「……おい大将、肝心なもんを忘れちゃいけねぇ、うるちゅり(お釣り)はきっちりいただくよ?」
お後がよろしいようで……
(受け囃子)
(つむじ、客席に深く頭をさげ、退場)
旋風亭つむじの自己紹介はこちら▼
