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『東 京<reprise>』舞台脚本①


作品詳細

タイトル
『東 京<reprise>』

脚本
佐渡ツムジ

上演時期
・2010年3月初演『東 京』
・2014年3月再演『東 京<reprise>』

上演時間
1時間50分ほど

Story

「東京」のことを少し教えてください。

多くの人が待ち合わせ、出会い、すれ違い、別れる場所。
「東京駅」
ここはすべての人の終着点なのか。
それともすべての始まりの場所なのか。

5年前。
ホームすれすれに立つ女。
「私は、太陽に憧れる、大きく欠けた三日月だったのです」
そう言い残し、女は線路に飛び込んだ。

そうして、過去と現在が交錯し始める。

5年後の現在。
電車に乗らない男と女。
待つ女と不幸を依頼された男。
ケンカするカップル。
タクシー運転手と目的地を「東京」と告げる男。
インフォメーション窓口の女と忘れ物承り所の女。
カフェの店長とカフェの取材に現れた女記者。
ホームで乗客を見送る駅員。

これは、人々が居合わせた広すぎる駅で。
人の優しさの意味、生きる意味、太陽と月の光の意味を探す。
過去と現在の二日間の物語。

ここは、どこへでも行ける場所だ。

THE TRICKTOPS 8th『東 京<reprise>』チラシより

登場人物

遠野 三明(とうの みつあき)(25)
電車に乗ろうとしない男。元バンドマン、現会社員。5年前は大学生。

近野 美嘉(こんの みか)(26)
電車に乗ろうとしない女。

森下 陽子(もりした ようこ)(31)
インフォメーション窓口の職員。5年前も同職。

関 晴海(せき はるみ)(31)
忘れ物承り所の職員。5年前も同職。

吾妻 古都会(あずま ことえ)(27)
東京グランスタのカフェ「Drip Maria」の店長。5年前は同店のアルバイト。

内田 幸夫(うちだ ゆきお)(23)
東京駅勤務のJR職員。5年前は上京したての学生。

高良 マチ(たから まち)(25)
東京在住のOL。はじめに仕事を依頼する。5年前は大学生。

濱 はじめ(はま はじめ)(32)
謎の男。5年前は無職。

江藤ひかる(えとう ひかる)(33)
出版社勤務のライター。5年前は違う出版社に勤めていた。

新橋 京一(しんばし きょういち)(30)
旅行代理店の社員。プロジェクトチームのチーフ。5年前も同職。

荒川 優香(あらかわ ゆうか)(29)
旅行代理店の社員。京一の同期だが部下にあたる。5年前も同職。

月島 アキラ(つきしま あきら)(30)
役者志望の男。今回、夢を諦めることを決意。5年前も同職。

日比谷 周次(ひびや しゅうじ)(45)
タクシーの運転手。5年前は日本中を放浪する自由人。

【脚本①】

※この作品は2014年当時の環境や状況をもとに描かれています。

#0 タクシーの中

   朝、雨の中を走るタクシーの中。
   運転手・日比谷周次(45)、後ろの座席には怪しい恰好の乗客・濱はじめ(32)。

はじめ 「(時間を気にしながら)ああ・・・まずいなぁ」

日比谷 「通勤ラッシュとこの雨ですからねぇ、すいません」

はじめ 「あ、大丈夫っす、結局寝坊したの僕なんで」

日比谷 「今日はお仕事で?」

はじめ 「ええ、まぁ」

日比谷 「職場はこのあたりなんですか?」

はじめ 「ええ、まぁ」

日比谷 「・・・」

はじめ 「ねぇ運転手さん、何がいいと思います?」

日比谷 「はい?」

はじめ 「言い訳」

日比谷 「言い訳、ですか」

はじめ 「そ、なんか僕、最近遅刻多くて、こうなったらせめて面白い言い訳でもしないと、何ていうか、自己嫌悪っていうか、モチベーション上がんないんすよね」

日比谷 「はあ」

はじめ 「何かないすか?」

日比谷 「いや、正直に言った方が」

はじめ 「ダメですよそれじゃ、誰も得しないじゃないすか」

日比谷 「得って」

はじめ 「ほら、今までいませんでした?お客さんで、こいつ遅刻してんのになんちゅう言い訳してんだ、みたいな」

日比谷 「うーん・・・あ、面白いかどうかはわかりませんが」

はじめ 「何すか何すか?」

日比谷 「昔、事故に巻き込まれて遅れますって言った人はいましたね」

はじめ 「事故?」

日比谷 「人身事故、よっぽど焦ってたのか隣にいた人にその事故のこと説明させて」

はじめ 「へぇ、それは本当に事故で?」

日比谷 「ええ」

はじめ 「ふーん」

日比谷 「ま、これはさすがに使えないですよね」

はじめ 「いただきで!」

日比谷 「ええ?」

はじめ 「僕今から先方に電話するんで、なんかタクシー事故っちゃってー、的な感じで適当に言ってくださいよ」

日比谷 「え?私がですか?」

はじめ 「もちろん、だって今運転手さんしかいないじゃないですか」

日比谷 「それはそうですけど・・・それはちょっと」

はじめ 「あるでしょ?リアルに事故ったことぐらい」

日比谷 「無いですよ!」

はじめ 「じゃあ事故ったていでいいんで」

日比谷 「ていって」

はじめ 「僕の今日の仕事がかかってるんす」

日比谷 「ええ・・・」

はじめ 「お願いしますよ、リアルな感じで、臨場感大事っすよ、生々しい感じ」

日比谷 「そんなこと言われても」

はじめ 「わかりました、そこまで言うなら、僕轢かれた人の役もやりますよ」

日比谷 「いやそういう問題じゃ、ていうか私轢いちゃったんですか?」

はじめ 「轢いちゃいましたよ、そんぐらいじゃないと僕の遅刻は帳消しにならないですから」

日比谷 「いやいやいや・・・」

はじめ 「お願いします!死活問題なんです!」

日比谷 「こっちが死活問題ですよ!」

はじめ 「よーし、電話しよ」

日比谷 「ちょっと、本当にやるんですか!?」

   はじめ、携帯で電話をかけ始める。

はじめ 「(携帯を耳にあてながら)お願いしますね」

日比谷 「電話してたら、余計遅れちゃいますよ」

はじめ 「ここまできたらちょっとぐらい変わんないっす・・・あ、もしもし、濱です、お待たせしてすみません、あの、ちょっと今から電話代わるんで、その人とお話ししてもらってもいいですか?」

   タクシー、停まる。

はじめ 「あ、お願いします(携帯を日比谷に向ける)」

日比谷 「お客さん」

はじめ 「はい」

日比谷 「着いちゃいましたよ」

はじめ 「はい?」

日比谷 「東京駅」

はじめ 「(電話に)・・・すみません、今着いたみたいです・・・ダッシュで向かいます・・・(切る)」

日比谷 「すいませんね、着いちゃって」

はじめ 「まぁ着いちゃったんなら・・・」

日比谷 「お支払いが、2960円です」

はじめ 「はい・・・」

   はじめ、財布から3000円を出す。

日比谷 「はい、じゃあおつりが40円、領収書は?」

はじめ 「あ、お願いします」

日比谷 「はい、宛名はどうしますか?」

はじめ 「そのままでいいっすよ」

日比谷 「はい・・・(領収書を差し出し)お客さん、仕事、何やってる人なの?」

はじめ 「・・・東京駅」

日比谷 「え?」

はじめ 「・・・きれいになりましたよね、前に来た時は工事中だったのに」

日比谷 「はあ」

はじめ 「このきれいさの陰に、どれだけの闇があるんすかね」

日比谷 「闇?」

はじめ 「僕はその闇の中で生きる、ドブネズミです」

日比谷 「え?」

はじめ 「じゃ、どーも」

   はじめ、日比谷の手から領収書を抜き取る。
   ドアが開き、タクシーの外へ。

はじめ 「・・・5年ぶり、か・・・」

   雑踏。
   たくさんの人が交錯し始める。
   日比谷、いなくなる。
   雑踏の中に消えてくはじめ。

#プロローグ 

   東京駅・構内、またはホーム。
   傘をさした無言の群衆が、すれ違う。
   現在と過去が交錯し始める。

   三明とマチ、美嘉とアキラ(過去)。
   陽子、晴海、古都会、幸夫、京一、優香(現在)。

   江藤が一人ホームに現れる(過去)。

   アキラ、手に持っている傘を美嘉に渡す。
   嬉しそうに微笑む美嘉。

   マチ、三明と別れて、いなくなる。
   アキラ、美嘉を残し、いなくなる。

   取り残された三明と美嘉(現在)。

   三明と美嘉、空を見上げる。
   江藤は俯いたまま。
   ホーム上に現れるはじめ(過去)。

江藤  「・・・」

   電車が近づいてくる音。
   徐々に大きくなっていく。

江藤  「私は、太陽に憧れる、大きく欠けた三日月だったんです」
はじめ 「?」

   江藤、そのまま線路に飛び込む。
   激しい音を立てながら、電車がホームに滑り込む。

   暗転。

   電車到着のメロディ。

#1 ホーム 

   ホームに立つスーツ姿の男・遠野三明(25)。
   閉じた傘を持ち、少し離れてホームに立つ女・近野美嘉(26)。

   必死に乗客整理・誘導をしている新人駅員・内田幸夫(23)。

幸夫  「間もなく5番線ホームに電車が到着しまーす!降りる方が先となりますので、それまで2列にお並びになってお待ちくださーい!!」

   電車の到着。

幸夫  「はい、押さないで下さい!順番に奥の方までお進みください!お荷物引いて下さい!・・・お客様は・・・お乗りになりますか?」

三明  「(ヘッドフォンで音楽を聴いている)・・・」

美嘉  「・・・」

幸夫  「はい、それでしたら、次の電車をお待ちください!はい、それでは押しますよー!お荷物引いてくださーい!はい、ドア閉めまーす!!」

   ドアが閉まる。
   電車、出発する。

幸夫  「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

   電車到着のメロディ。

幸夫  「間もなく5番線ホームに電車が到着しまーす!降りる方が先となりますので、それまで2列にお並びになってお待ちくださーい!!」

   電車の到着。

幸夫  「はい、押さないで下さい!順番に奥の方までお進みください!お荷物引いて下さい!・・・お客様は・・・?」

三明  「・・・」

美嘉  「・・・」

幸夫  「では、お客様は次の電車をお待ちください、はい、それでは押しますよー!お荷物引いてくださーい!はい、ドア閉めまーす!!」

   ドアが閉まる。
   電車、出発する。

幸夫  「はぁ、はぁ、はぁ・・・あの、お客様は・・・お乗りにならないんですか?」

美嘉  「・・・」

三明  「・・・乗りたく、ないんです」

幸夫  「・・・何故!?」


②へつづく。

※本作はフィクションです。登場する人物・場所・店名・出来事は実在のものとは関係ありません。


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