湿っぽくなるからさよなら|短編|家電文学
家電文学とは・・・
日常の中で黙々と役目を果たしてきた家電たちの、壊れゆく姿や、役目を終えたあとの沈黙に想いを馳せる文学ジャンルである。
劣化、故障、収納。
その静かな時間を通して、人の暮らしや記憶の積層を描き出す――
季節労働者のオレたちは、夏は閑散期なもんで、お暇をもらって、じっと寝て過ごす。
冬眠ならぬ、夏眠ってやつだ。
いや、本当にあるんだよ、夏眠って。
カタツムリとかヒキガエルとか、夏は暑くてやってらんねぇから活動を止めるのさ。
効率的だよな、人間もそうすりゃいいのに。
まあ、オレたちは暑さがダメってわけじゃない。
湿気がダメなのよ。
この先、梅雨が来て、夏もじめじめするだろ。
そうなると、仕事になんねぇんだ。
あんたも律儀だよな。
お別れする前に、ちゃんときれいにしてくれてさ。
でも、最後はしっかり乾かしてくれよ。
オレたちにとって、カビは大敵なんだ。
そういや最近、窓を開けるようになったな。
風が心地いい季節になってから、あんた、オレたちのこと見て見ぬふりしてただろ。
冬場は休みなく働いたってのに、急に場違いな置物扱いだ。
まあ、いいんだけどよ。
オレたちが頑張らなくても、潤いが足りてるってことだからな。
朝起きて喉が痛ぇとか、肌がパリパリするとか、寒くなると人間ってのは途端に弱音を吐き始める。
そんな時期こそ、オレたちの出番ってわけ。
だから、お役御免。
わかってる。
わかってるんだけどな。
お、乾いたみたいだな。
これからしばらく、ウォークインクローゼットの隅でのんびりさせてもらうぜ。
「半年間ありがとな」
なんだよ、それ。
やめてくれよ。
そういうのは柄じゃねぇんだ。
オレたちは、湿っぽくするのは得意なくせに、湿っぽいのは苦手なんだよ。
サーキュレーターのやつ、もう出てきてやがる。
ずいぶん羽振りが良さそうじゃねぇか。
季節は、これから夏へ向かっていく。
涙はいらねぇよ。
カラッといこうや。
いや、カラッとしたら、また帰ってくるけどな。
ウォークインクローゼットの扉が閉まる。
真っ暗だ。
湿っぽくなるから、さよなら。
作者コメント
ようやく、加湿器を片付けました。

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「さよなら、ケトル」
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