見出し画像

ぜんぶ前厄のせいだ。【文フリ広島レポ】

「つるちゃん今年、前厄なんだねぇ」

先月、京都の平安神宮にお参りに行ったとき、とき子さんが言った。
そのとき私は「ふぅん。じゃあ今年は、京都に近づかないでおこ」と思った。

その数週間後、単身赴任中の夫を訪ねて愛媛に行き、伊佐爾波神社にお参りしたら、また厄年が掲示されていて、やはり私は前厄だった。
そこで初めて、厄年が全国共通なのだと知った

以来、うまくいかないことがあると「前厄だからだ!」と敏感に反応するようになった。

2月7日、文学フリマ広島の前夜もそうだ。

ショッピングカート、壊れる

去年は前乗りしようとしたら大雪で、新幹線が遅れに遅れ、とき子さんと再会したときにはへとへとのへろへろだった。

その経験を踏まえて、今年は当日の朝に広島に着く夜行バスを予約した。
仕事を終えて家に帰り、夕食を食べてシャワーを浴びる。前日までに荷造りを済ませておいたから、準備万端。
5年前から愛用している1100円のショッピングカートを引いて家を出る。

異変を感じたのは、最寄り駅に着く少し前。
くんとタイヤが引きつれる感覚ののち、地面を激しく擦る嫌な音がした。

振り返ると、ショッピングカートのタイヤが道に転がっていた。
拾い上げてはめ直そうとしたら、タイヤの軸の部分のプラスチックが割れていた。

帰ろうかな。

いや、帰ったところで。

今回に限って、単身赴任中の夫がスーツケースを使ってしまっているから、ショッピングカートの代わりに使えるものは家にはない。

幸い、広島までは新宿からバスで一本。
広島駅からは路面電車と、会場へのアクセスも楽なほう。
このまま、だましだまし行くのが最善な気もする。
はめ直したタイヤをぎゅっと押さえて、そのまま向かうことにした。

ところがである。
一度脱輪癖のついたタイヤは、もうだめだった。
数歩と歩かぬうちに外れるタイヤへの苛立ちがピークを迎え、やがて私はショッピングカートを肩から下げて歩き始めた。
ショッピングカートは引き手の部分が長いので、そこに肩を入れれば下げて運べるのである。

その状態で100円ショップに立ち寄り、タイヤのサイズに合っていそうな結束バンドを購入。
夜行バスを待つ間にタイヤと留め具を結束して、外れないようにしたい。

新宿駅に着いた。
私を追い抜く観光客たちが「飾りじゃないのよタイヤは」みたいな好奇の目で振り返ってくる。

私だって、あなたたちみたいにコロコロしたいわ!
ていうか、ついさっきまでは順調にコロコロしてたんだわ!!!

せっかく清潔にした身体も汗だく。
予定外の重荷を背負わされて肩もぎしぎし。
雪もちらつく極寒なのに、なんかもうTシャツになりたい。

これで運休だったら心までバキバキに折れてしまう。
祈るようにバスタ新宿に入る。
かなりのバスが運休表示になっていてひやりとしたものの、私の乗るバスは予定通り運行するようだった。

とりあえず胸をなでおろし、結束バンドで留めようとしたら、ギリギリ長さが足りなかった。

あぁ、前厄!!!

気休めと知りつつ、文フリ荷物から養生テープを取り出して、細く割いてタイヤに巻きつける。

夜行バス、遅れる

バスのお腹にショッピングカートを預けてからは、すこぶる順調だった。
養生テープでどれほどタイヤがくっついたのかはわからないけれど、とにかく会場に着けばいいのだ。

最近調子に乗って新幹線で移動することが増えたけれど、やっぱり夜行バスも好きだなぁとうきうきしながら就寝。

足柄のサービスエリアで降り積もる雪に戦慄したものの、岡山までは時間通りだった。
この運転手さん、めちゃめちゃやり手なのでは……?と感激する。

サービスエリアに桃太郎いた

それでも、自然は手ごわい。
とき子さんからの「雪大丈夫?」というLINEに「岡山までは順調に来ました〜!」と返した直後、「ここから高速道路は難しいため、一般道で向かいます」とキリッとしたアナウンスが入った。

う、運転手さん……!
その判断の速さとキリリとした口調にますます痺れてしまう。
分厚いカーテンをそっとめくると、雪風が激しく吹きつけていた。
運転席から見る景色は、どんなに恐ろしいものだろう。
「ここから先は無理です。別の乗りものに乗り換えてください」と言われる可能性もあるなとひそかに覚悟し、ただただ祈った。

顔、洗いそびれる

ありがたいことに、わずか40分の遅れで広島駅に到着した。本厄だったら2〜3時間は遅れていたかもしれない。

いまから市電に乗れば、開場時間までには会場に着ける。
踏み固められた雪道をおそるおそる、でも気持ち早足で進む。
養生テープを巻いたショッピングカートは、意外にも危なげなく動いていた。
めくれかけた養生テープがパタパタ音を立てている以外は、もうすっかり普通のショッピングカートだ。

あ、顔。

ここでメイクはおろか、洗顔すらしていないことに気づく。
岡山のサービスエリアで歯は磨いたけれど、顔は完全に手つかず。

ええい、時間がない。
市電を待ちながら、テカった顔にパウダーをはたきこみ、勘で口紅を引く。

誰より不潔な状態で、開始10分前に会場入り
準備を始めてくれていたとき子さんと、隣接の「ホニョーラの尻尾とウミネコ制作委員会」の穂音さんと喜び合い、一気に本を並べた。

こうして表向きは無事に始まった文学フリマ。
外はびゅうびゅう雪が吹きつけている。

頑張ってここまできたけど、売上0もありうるんじゃない?
出店されてるnoterさんは、ほとんどどこかの会場で私たちの本すでに買ってくれてるし……。

けれど、広島への出店3回目の私たちは知っている。
広島の人たちは、優しい

根気強くビラを配り、立ち止まってくれた方に一冊ずつ紹介し、を何度か繰り返した末に最初のお客さまが私たちの本を一冊ずつ買ってくれた。
売上0を免れた喜びで、100冊売れたみたいなはしゃぎかたをしてしまう。

それをきっかけに、流れが変わった。
その後も「去年(あるいは一昨年も)買ってよかったから」と立ち寄ってくださる方がいたり、「Webカタログで気になってました」と決め打ちで買ってくださる方がいたり、私たちの怒涛の売り文句に根負けしたように買ってくださる方がいたり(ごめんなさい。でも楽しんでいただけることを願っています)、とき子さんのお友だちやnoterさんたちが遊びに来てくれたりと、一人ひとりをしみじみ拝むありがタイムが続いた。
「以前も買ってくださいましたよね?」とこちらからお声がけできるくらい、懐かしいと感じるお顔の方々に会えて嬉しい。

きっといつか全巻揃えるから、いま買ってしまおうと思って」と私たちの本の未読分をまるっと買ってくださった神様がいた。
あまりのありがたさに、その方が歩き去った方向を見えなくなるまで拝み続けた。
ありがたすぎてこんなに汗かいちゃったと、とき子さんが濡れた羽織を見せてきた。

外は雪だけど、私たちの心はぽかぽかだねぇなんて童話のようなセリフが転がり出るほど、お客さんには恵まれた一日だった。

お隣、めちゃくちゃ運営さんに注意される

一方で、お隣は前厄だったと言わざるを得ない。

ちょっともう、本当にすごくて、禁止行為のフルコンボだドン!って感じだった。

いままで私たちは、たいていのことはお互いさまと思ってきた。
私たちも常に完璧にルールを守れているかと言われると自信がないし、私たちも知らず誰かに迷惑をかけて、目をつぶってもらったこともあるかもしれないし。

けれど、今回のお隣さんのフルコンボぶりは、さすがに目に余るものがあった。

文学フリマには「通報」という、当日困ったときに運営さんに連絡できる手段がある。
要するに密告である

チクリ屋みたいで気は進まないけれど、直接声をかけてブース同士で揉めるよりは、運営さんに入ってもらったほうが穏便に済むかもしれない。

でも、運営さんに注意されたら、この人たちしょげてしまうよなぁ。
イベントで大の大人がはしゃぎすぎて怒られるなんて、もしこの人たちが広島の人で周囲に友だちとか職場の人とかいたら、むちゃくちゃ恥ずかしいやつじゃん……。
ていうかまだイベント始まって一時間も経ってないのに急に運営さんが現れたら、「この辺りの誰かに通報された!?」って、人間不信の状態で数時間過ごすことになるし……。
頼むからいまからでもルール読み直してくれないかな、誰も好き好んで通報なんてしたくないよぅ……!

ひそかに祈りながら、でもめちゃめちゃ本を売りにくくされているのは事実なので、禁止行為を書き出すなどの準備をした。
でも通報ボタンを押すのは怖くて、どうしてもためらってしまう。

と、運営さんが3人、颯爽と現れた。
た、助かったー!!!
テキパキとお隣の禁止行為を伝え、礼儀正しく去ってゆく3人。
会場を巡視していて気がついてくれたのかもしれないし、私が迷っている間に誰かがいち早く通報したのかもしれない。

会場に平和が戻ったのもつかの間、運営さんたちの姿が見えなくなるとお隣はフルコンボの乱れ打ちを再開した。
え、私の逡巡返して。

その後も、運営さんは3人ほどで何度も注意に現れ、最終的には私たちの島の端に立って見張っている状態の時間帯すらあった。

この周辺一帯がお隣を目に余ると感じていて、それぞれに通報していたのかもしれないし、何度も通報した人がいたのかもしれないし、運営さん自身の判断でチェックしていたのかもしれない。
そこら中にスパイが潜んでいるような緊迫感があった。

私はZINEフェス含めてイベントへの出店は13回目なのだけれど、こんなの初めてだった。
運営さんが3人で注意にくるのも、それも頻繁に、何度もくるのも、それでも隙を見て禁止行為を繰り返すお隣も。

とにかく強烈すぎて、「いままでのお隣運がよすぎたのかもね……」と衝撃が収まらないまま帰った。

その後の前厄

カフェで穂音さんと打ち上げを楽しんでいる最中、とき子さんがハッと指を見た。お気に入りと言っていた、象の指輪がなくなっていた。
カフェのテーブルや床を探したがなく、「やだ悲しい。お気に入りだったのに。30%オフで買ったのに」と眉を下げるとき子さん。「荷物を詰めたときかもしれないし、ホテルでスーツケースを開けてみたら」「もし会場で落としていたら、このフォームから連絡すればいいみたい。明日も広島にいるから、もし見つかれば取りに行けますよ」と穂音さんと慰めても、とき子さんの眉毛は戻らなかった。
楽しく話している最中も手は指輪を探して彷徨っているし、カフェを出るときには何度もテーブルの下を覗いた。
それでも指輪は見つからないまま、むさしを買って新幹線に乗る穂音さんを見送り、私たちはホテルに入った。

居酒屋でご飯を食べている間も、とき子さんは「買いなおすしかないかも。でもあの指輪30%オフだったんよ」と何度も言う。
お得に手に入ったものを定価で買いなおすつらさはわかる。でも、きっと出てくるって!

シャワーを浴びて出ると、とき子さんが興奮して飛び跳ねていた。

見つかった見つかった、見つかったのー!

スーツケースのなかに落ちていたらしい。
ほらね。

養生テープだけで頑張っていたショッピングカートも補強された。
とき子さんが「結束バンドってつなげられるんよ!」と2本つなげたものを作ってくれたのだ。
おかげでちょっとやそっとじゃ脱輪しなさそうな強さを手に入れた。

補強されたタイヤ

翌朝、とき子さんのお友だちが車で来てくれて、とき子さんが行きたがっていた護国神社へ。

空は晴れているけど、昨日の雪がかなり残っている。
枝に雪を乗せた裸木を見て、とき子さんが「桜みたい!」と目を輝かせた。
お参りして鯉の像を撫で、とき子さんは御朱印をいただき、今度はダーツへ。

ところが、アイテムがもらえるダーツ台は2台とも埋まっていた。あぁ、前厄!

周辺のお店を検索したものの、19時開店だったりその機種がなかったり。
「今回は諦めようかな」と言うと、とき子さんとお友だちが「諦めちゃダメー!」と瞳を燃やした。

どうしたものかと迷っていたら運よく1台空いたのですぐさま申し込んで広島アイテム「お好み焼き」をもらい、3人でパリピみたいにはしゃぎ倒した。

その後ファミレスで滝のように喋り倒し、いつの間にか15時。時間が経つのが早すぎる。
お友だちに駅へ送ってもらい、楽しみにしていた「むさし」のお弁当屋さんに行ったら定休日の貼り紙。
「家族がむさしを待っているのに……」と落ち込むとき子さん。
ダメもとで検索すると、駅内の別の店舗では今日も売っているようだった。

昨日穂音さんと行った店舗に行ったら無事に営業していて、「昨日このお店に来ておいてよかったねぇ」と喜び合った。

毎年おなじみのむさし

今回の私たち、脱輪も指輪もダーツもお弁当も、いったんがっかりしたあとで幸運を噛みしめる展開が多かった。
ただ順調に進むよりもずっとずっと思い出深い、「ありがとう広島……」と拝みながら帰る旅行になった。

そういえば護国神社でとき子さんに教えてもらったのだけど、前厄は「運が悪くなる」という意味ではなくて、「健康面に気をつけろ」という意味らしい。

あらゆる不運を前厄のせいにするのは、濡れ衣だったということだ。
前厄も「不名誉なことを言いやがって」と怒っているかもしれない。

あらためて真の前厄を見極めようとしたけれど、いまのところショッピングカートを担いだ右肩の筋肉痛以外はとても元気。
なんだかんだ運のよさを再認識して、家で静かに両手を合わせた。

今回買った&いただいた本

【追記】
さんざん前厄のせいにしてきましたが、今年(2026年)、私は本厄であることが発覚しました。

【追追記】
とき子さんの旅行記もアップされました!
女神さまがいっぱい😆

***
私の本は、ネットショップ「つるる書店」でもお求めいただけます。
気になった方は、こちらも覗いていただけたら嬉しいです。