自問自答のエッセイ売り
いままでのつるるとき子書店の即売会におけるメンタルの歴史をまとめると、おおよそ三段階に分けられる。
お客さんが立ち寄ってくれることを純度100%に喜んでいた【ピュア期】。
「私たちはもっといけるはずだ!」と内なる松岡修造をたぎらせ、試行錯誤と反省を繰り返しひたすらに高みを目指した【部活期】。
今年の秋、大阪で人気ブースに挟まれて悔しさすら感じない自分たちに気づいた【悟り期】。
現在悟り期中の私たちの心は、すこぶる健やかに凪いでいた。
集うや否やとき子さんの買ってきてくれた551蓬莱の豚まんをむさぼり、文フリ大阪で買った中島浮世さんのエッセイを絶賛&音読し、夫の部屋でダーツに興じてしっかりと熟睡。
翌朝もわしわしと朝ごはんを胃に収め、微妙な小雨をものともせずに会場へ。
お隣のウミネコ制作委員会さんは、すでにほとんど準備万端だった。
綺麗に積み上げられた新刊アンソロジー『あのころ、ひみつきちで』に目を留め、ひとしきりはしゃぐ。
いろんな書き手の創作の原点がぎゅぎゅっと詰まった一冊で、私たちつるときもちゃっかりと寄稿させてもらっている。
手に取ったそばから読み始めそうになって、引きはがすように自分のブース作りに意識を戻した。
今回は隣接だけじゃなく、自ブースも寄稿祭りなのだ。
私たちが寄稿したKaoRu IsjDhaさんの新刊や橘鶫さんの画集を並べ、机の上に勢ぞろいする羽ばたくチームをうっとりと眺める。
お二人の作品を中央に並べたら、本気の鳥好きやコーヒー好きの人が立ち寄ってくれ、客層がぐんと幅広くなった。

そういえば1月に出店したときも感じたけれど、ZINEフェスは文学フリマとは全然雰囲気が違った。
ガチハンターが矢のように飛び交う文フリと違って、ZINEフェスは下校中の寄り道感覚で「これはどんな本なのかしら」と覗きにくる感覚。
はじめましての人たちのなかに見知った顔を見つけた瞬間、ついこちらもクラスメイトを見つけた気持ちでぶんぶん手を振ってしまう。
お立ち寄りいただきましたみなさま、本当にありがとうございました。
いつもよりたくさんお話しできて嬉しかったです。
ここからは、個人的なZINEフェスの感想。
私にとっては、自問自答しまくる回になった。
自問自答、その1。
「事実」って、何?
立ち止まってくれたお客さんに「これはエッセイなんです」「日記なんです」と前置きしてから内容を話していたら、しばらくして「もしかしてこれ、事実ってことすか?」と尋ねられた。
「エッセイ」「日記」と言えば事実として受け入れられるものだと思い込んで説明していた私は、ひゅっと言葉に詰まった。
穂村弘の『にょっ記』やバカリズムの『架空OL日記』みたいな架空の日記やエッセイがあるから、そういうジャンルではないのだね、と確認されたのかもしれない。
あるいは、エッセイ・日記=基本的には事実をもとにした文章、という認識がない人なのかもしれない。
とりあえず、私にとっては。
母親がギラン・バレー症候群に倒れたのも、新婚旅行で夫だけが飛行機をグレードアップしたのも、私がラブレターを密造していたのも。
「全部事実です、ノンフィクションです」と答えていたけれど、はたして本当に事実なのだろうか、とその人が去ったあとに思った。
私にとっては事実だけど、父親や、夫や、友だちにとっては事実ではないかもしれない。
いったい「事実」って、いつから?どこから?
私のエッセイは、あくまで私にとっての事実をもとに書かれた文章である。
見聞きしたこと、行動したこと自体はほぼ共通の認識だったとしても、それに対する感じ方はそれぞれに違う。
当たり前の大前提とあんまり立ち止まったことはなかったけれど、「真実はいつもひとつ」じゃないことに自覚的でありたい。
「私にとっては事実です」なんて言い方では、もしかしたらかえってお客さんを混乱させてしまうかもしれないけれど。
自問自答、その2。
いつまで「新婚」を名乗っていいのか問題。
「私、新婚なんですけど」と何気なく『そばぼうろの夫婦』を指して、固まった。
もう新婚じゃ……ないかも!?
結婚生活も3年目に突入し、新婚感はもはや風前の灯。
そう気づいた途端に異様に気恥ずかしくなって、それ以降「あれは私が新婚だったころのこと……」とまるで語りべの老婆のような雰囲気を出してしまった。
私たち、いつまで新婚を名乗っていいんでしょうね。
私はつい、本が出るときに考えた紹介フレーズをいつまでも使い回してしまう。
一番原稿を読み込んでいるのは本が出る直前で、本が出たあとはあまり読み返さないからだ。
読み返すとたいてい誤字や、いまは選ばない表現が見つかったりして、わーっと恥ずかしくなってしまう。
とはいえ、ちょくちょくアップデートはしなきゃなぁ。
自問自答、その3。
「お二人はいったい、なんなんですか」
あ、喧嘩を売られたわけじゃないんです。
とき子さんとの関係性を聞かれたんです。
noteで出会った友だちです、と、いままでは答えていた。
私ととき子さんは、2022年の文学フリマ東京から4年間、隣で本を売り続けている。
最初の数年はお互いの居住地である東京と大阪を一年に数回行き来していたのだけれど、今年は全国を股にかけての盛り上がりよう。
1月のZINEフェス東京に始まり、2月に文学フリマ広島、5月に文学フリマ東京、8月に文学フリマ札幌、9月に文学フリマ大阪、この10月はZINEフェス東京、そしてラストは2月の文学フリマ広島。
イベント以外にも、3月には川崎でフラダンスの大会を観たり、6月のKaoRuさんの帰国に合わせてみんなで集まって遊んだり、8月に私のトロンボーンをとき子さんの娘さんに引き取ってもらったりとほぼ月1ペースで遊び倒してきた。
……もはや親族。
ついでにいうと私の夫まで、たぶんとき子さんのことも羽ばたくチームのことも親族と認識している。
私を差し置いて「ときちゃん」と呼ぶ夫に対抗するように、最近は私もとき子さんをときちゃん呼びし始めた。
さらにいうと夫はなぜか橘鶫さんに「ぐみつー」、KaoRu IsjDhaさんに「かおるんるん」と勝手にあだ名をつけているが、さすがに私はそのあだ名には乗れない。直接の友だちである私以上に親しい感じを出してくる夫、なかなかに侮れない。
最初はきっと、文フリは会うため、集まるための口実だった。
とき子さんに対しても、羽ばたくチームに対しても、noteで知り合った愉快な仲間たちに対しても。
けれど、そうやって出店を重ねるうちに、いつの間にか私たちは、本づくりを通さなくても集まれるようになってしまった。
どれだけお酒を飲んでも人間としての節度は保ったまま、創作に対する熱を語り倒す人たちと輪になって、「私はきっと、こういう大人になりたかったんだな」と静かに悟った。
【悟り期】を経て私たちがこれからどこへ向かってどこへたどり着くのか、いまは全然わからない。
けれど次が何期だとしても、私たちが私たちでいる以上は、きっと楽しくいられるのだろうなと信じている。
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橘鶫さん
KaoRu IsjDhaさん(石田薫さん)
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