多肉のお勉強 #1|アロエ・ハオルチア・ガステリアの系統分類について
こんにちは、ちゃんぬの夫です。
多肉植物のことを結構本気で勉強していくシリーズです。(ほぼ自分で見返す用)
私は、多肉植物の中でもハオルチアが特に好きです。
なお、妻は妻でエケベリア集めに奔走してるので、家庭内で棲み分けはできています。
一言で「ハオルチア」と言っても、
軟葉系・硬葉系とか、近縁の「ガステリア」とか、大分類としての「アロエ」とか、色々あります。
園芸コーナーを見ていると、分類は結構あやふやですよね。
可愛ければそれで良いんです。
とはいえ、箱推しの私としては、
それぞれ何がどう違うのか知りたくなってしまったという訳です。
全般的なこと
そもそもハオルチアは「属」の名前です。ハオルチア属。
分類名を具体的に書くと、
「キジカクシ目 ワスレグサ科 ツルボラン亜科 ハオルチア属」です。
※ 植物の分類はコロコロ変わるので、現在これが正しいのかは自信ありません。
キジカクシ目は広すぎるので割愛。
ラン とか アヤメ とか ヒガンバナが含まれます。
ワスレグサ科 (Asphodelaceae) は 3つに分類されます。
・ススキノキ亜科 (Xanthorrhoeoideae)
・ワスレグサ亜科 (Hemerocallidoideae)
・ツルボラン亜科 (Asphodeloideae)
系統的にはこんな感じ⇩

そして、我らがツルボラン亜科 (Asphodeloideae) は 2つに分類できます。
・アロエ類
上図の Aloidendron から Aloe までの部分。
もともとは、アロエ亜科 (Alooideae) に分類されていたものです。
・ツルボラン類
上図の Asphodeline から Jodrellia までの部分。つまり、ツルボラン亜科の中の "アロエ類ではないもの達" のことです。
こういうのを側系統と言います。
なお、古くは(少なくとも 2000年時点では)こういう系統分類でした ⇩

アロエ亜科 (Alooideae) とツルボラン亜科 (Asphodeloideae) が明確に分かれています。
あと、内部の分類もちょこちょこ違いますね。詳しくは後述。
アロエ類の分類
現在の (?) アロエ類の定義の基となる論文が、Manning らによって 2014年に発表されました。
その名も "A Molecular Phylogeny and Generic Classification of Asphodelaceae Subfamily Alooideae: A Final Resolution of the Prickly Issue of Polyphyly in the Alooids?"
和訳すると、
「ワスレグサ科アロエ亜科の分子系統と属分類:アロエ類における多系統性という厄介な問題の最終解決か?」です。
なお、prickly は直訳すると「棘だらけの」と言う意味なので、明らかにアロエの棘とかけています。おしゃれ。
この論文のまとめの図がこちら⇩

つまり、(ハオルチアに限定して述べると、)
ハオルチアは 3種類に分類すべきだ!ということです。
・ハオルチオプシス属 (Haworthiopsis)
・ツリスタ属 (Tulista)
・ハオルチア属 (Haworthia)
しかも、それぞれの属が遺伝学的には結構遠い、ということも分かりました。
一般的に、系統解析をする際は、DNAを調べます。
DNAは全ての生物が持っている物質であり、色んなタンパク質を作る基になったり、それ自体を制御したりします。
言わば生命の設計図です。
もちろん我々ヒトにもあります。

高等生物では、基本的に両親由来のDNAが様々な形で子供に受け継がれます。これが遺伝です。
当然、それは親と子の二世代に限った話ではなく、脈々と続く歴史の中で幾重にも繰り返されてきた継承の履歴です。
つまり、色んな生物のDNAを調べることで、それらがどう進化をしてきたのかが分かる、というわけです。

この論文では、
アロエ類が持つ葉緑体と核から DNA を抽出し、それぞれの特徴から種の類似性を探索しています。
・葉緑体DNA:母系遺伝で組み換えがほとんど起こらないため、進化的に長期間変化しづらい。
・核DNA:両親からの遺伝なので、複雑ではあるが、短期的な変化も反映される。
つまり、
① 葉緑体DNAを参照してざっくり分けて、
② 核DNAを参照して細かく分ける
ことで、信頼性の高い系統分類ができました。

ちなみに、系統樹のそれぞれの枝に書かれている数字は、
上: Bayesian posterior probabilities ※ 正しい推測かどうかの確率
下: maximum parsimony bootstrap ※ 再現性の度合い
で、どちらも信頼度のようなものです。
ざっくり言うと、上が 1.00 で 下が 100 なら物凄く信頼できる分類、ということです。
この論文で定義されたいくつかの属を紹介します⇩
ハオルチオプシス属 (Haworthiopsis)
いわゆる硬葉系です。
軟葉系ハオルチアよりも ガステリア (Gasteria) の方が圧倒的に近いとのこと。納得感しかない。
細かい系統樹はこちら⇩

ざっくり 2分類できそう。キリがないので有名どころだけピックアップすると、
・わりと縦に伸びる系
- 鷹の爪 (reinwardtii)
- 九輪塔 (coarctata)
- 十二の巻 (fasciata)
- 松の霜 (attenuata) など
・わりと横に広がる系
- コエルマニオルム (koelmaniorum)
- 竜鱗系の原種? ベノーサ (venosa)
- ソルディダ (sordida) など
※ 瑠璃殿 (limifolia) はどちらにも分類され得る感じ。遺伝的多様性が高い?
※ コエルマニオルム (koelmaniorum) は、違う手法で解析すると別の分類になるため、別の属なのでは?という議論もあります。別の論文の図を引用⇩

ツリスタ属 (Tulista)
硬葉系ですが、何故かハオルチオプシスとは独立している属です。
十二の巻に比べて、少し肉厚で、白いつぶが大きい子達です。
有名どころの交配種だと、
「天使の泪」とか「皇帝」とかなんでしょうか?(これらが本当にツリスタ属交配なのか、私は良く分かっていません。)
細かい系統樹はこちら⇩

アロエの綾錦 (aristata) と近い属のようです。
見た目はすごく似てる。
あとはアストロロバ属。こちらも結構似てる。
ハオルチア属 (Haworthia)
狭義になりました。みんな大好き軟葉系です。
書き始めると多分止まらなくなるので割愛します。
個人的に、玉扇 (truncata) と コンプト (emelyae var. comptoniana) がかなり近縁なことに驚きました。
細かい系統樹はこちら⇩

こういうのを眺めているとワクワクしますね。
じゃあ、どうやってこんな進化を遂げたんでしょうか?
その一端を後述します。
最新研究例
上記論文の発行年は、一番新しいものでも 2016年。
研究というのは、10年も経てば何もかもが劇的に様変わりするものです。
という訳で、最近の研究事例も紹介しておきます。
取り上げるのは、
2025年5月に出た "Nuclear phylogenomics reveals strong geographic patterns in the evolutionary history of Aloe and related genera (alooids)" です。
和訳すると、「核の系統ゲノミクス解析により、アロエとその近縁属 (アロエ類) の進化史に顕著な地理的パターンが見出された」。
この論文をものすごく表面的に説明すると、
「従来法だと系統分類の解像度が低かったので、別の手法でやってみたら新しいことが分かったよ」です。
対象にしているDNAは核のDNAです。(種レベルで細かく見やすい方)
上記 Manningらの論文でも核DNAをターゲットにしていましたが、実は ITS (Internal Transcribed Spacer) と呼ばれる短い領域のみを読んでいました。
※ 当時はこれがとてもオーソドックスな方法だったとのこと。
それに対してこちらの論文では、189個もの遺伝子を読んでいます。誤解を恐れず言うと、いわゆる "オミクス解析" と呼ばれる大規模な解析です。
今回は遺伝子を見ているので gene の omics = genomics 。ただ、それだとちょっと解釈違いになる場合があり、正確に言うなら phylogenomics(系統ゲノミクス)。
※ 2025年現在は、やろうと思えばわりと簡単に全遺伝子の情報を読めちゃう時代です。むしろやらないと論文が良い雑誌に載らなかったり…。
※※ アロエ類だと全部で 40,000遺伝子くらいあるんでしょうか。 もちろん全部読むことも可能ですが、何かと測定しづらい遺伝子も多いので、今回のように少数に絞って精度を上げてやるケースもあります。
この解析をした結果、こんな図が出てきます⇩

これまた超ざっくり言うと、「これまでの分類を裏付ける結果が得られた」です。
似た結果じゃ面白くないと思うかもしれませんが、科学の世界では「再現される」ことほど大事なものはありません。
しかも、10年の時を経て、技術的にも凄まじく進歩した上での裏付けです。2014年(および更に以前)の論文たちがいかに偉大な功績だったかが分かります。
とはいえ、「再現できました」だけでは論文にはなりません。大事な要素二つ目、「新規性」です。
もちろん、この図だけでも、解像度が上がっているという点では新規のものと言えます。
それに加えて、こちらの図⇩

彼 and/or 彼女らが着目したのは、地理的分布です。
アフリカのどこで自生しているのか、で色分けをしてみました。それも約200種に対して。
その結果、「遺伝的な分類は地理的な分類と強い相関がある」ことが分かりました。
しかも、葉っぱの形や模様などの形態的な分類は、そこまで強くは関係していなさそうということも分かりました。
違うグループの生き物が似たような形に進化する、収斂進化の一種でしょうか。
つまり「アロエ類は、まずアフリカの色んな地域に広がり、それぞれ特有の、しかもかなり過酷な生態系の中で生きる術を獲得し、その環境で進化を重ねてきた」ということが言えます。
何千万、何億年もの歴史を紐解くことができる、進化生物学とは、まさに浪漫の塊です。
また、本論文では、
博物館や大学などに長期保管されていた標本からもサンプリングしています。
つまり、かなり古くなったDNAからも解析に成功したと言うことです。
となると、世界で数例しか見つかっていないようなレアな品種や、もしかすると絶滅した品種なんかも綺麗に解析することができるのかもしれません。
浪漫が溢れて止まりません。
あとがき
まだまだ知らないことはいっぱいです。
初めて多肉植物を買ってから 5年は経ちますが、育て方ですらセオリーの 5%も知りません。
我が家の多肉たちのためにも、色んな角度から知識をつけることが私の使命です。
とはいえ、
一般的な呼び名が変わらない限り、これからも「アロエ」「ハオルチア(軟葉系・硬葉系)」「ガステリア」と呼ぶと思います。
知識は知識として置いておいて、私は愛着を優先します。
人間だもの。
参考論文(発行年順)
[1] Chase, MW. et al. (2000). Phylogenetics of Asphodelaceae (Asparagales): An Analysis of Plastid rbcL and trnL-F DNA Sequences. 𝘈𝘯𝘯𝘢𝘭𝘴 𝘰𝘧 𝘉𝘰𝘵𝘢𝘯𝘺.
[2] Manning, JC. et al. (2014). A Molecular Phylogeny and Generic Classification of Asphodelaceae Subfamily Alooideae: A Final Resolution of the Prickly Issue of Polyphyly in the Alooids? 𝘚𝘺𝘴𝘵𝘦𝘮𝘢𝘵𝘪𝘤 𝘉𝘰𝘵𝘢𝘯𝘺.
[3] Grace, OM. et al. (2015). Evolutionary history and leaf succulence as explanations for medicinal use in aloes and the global popularity of Aloe vera. 𝘉𝘔𝘊 𝘌𝘷𝘰𝘭. 𝘉𝘪𝘰𝘭.
[4] Gildenhuys, SD., and Klopper, RR. (2016). A synoptic review and new infrageneric classification for the genus Haworthiopsis (Xanthorrhoeaceae: Asphodeloideae). 𝘗𝘩𝘺𝘵𝘰𝘵𝘢𝘹𝘢.
[5] Woudstra, Y. et al. (2025). Nuclear phylogenomics reveals strong geographic patterns in the evolutionary history of Aloe and related genera (alooids). 𝘈𝘯𝘯𝘢𝘭𝘴 𝘰𝘧 𝘉𝘰𝘵𝘢𝘯𝘺.
