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廻りゆく混迷の時代の先へ、未来を繋いでいけ。Eveの最高傑作『廻人』に寄せて。

【Eve/『廻人』】

今から3年前、僕は、当時リリースされたEveのメジャー1stアルバム『おとぎ』について、このように綴っていた。

"僕らまだアンダーグラウンド"という号砲が、既存のシーンへ向けた戦線布告のように痛快に響く。2019年、激動のシーンの先駆者となり、時代の空気そのものを丸ごとアップデートしてしまうのは、きっと彼だと思う。

Eveが打ち鳴らした、「次の時代」への号砲

あの時に僕が(そして、同じく彼に期待を寄せていた無数のリスナーたちが)思い描いていたEveの快進撃は、その想像を遥かに超えていくスケールで現実のものとなった。

"心予報"、"白銀"といった超大型タイアップソングを次々と世に送り出しながら、J-POPシーンのど真ん中へと躍進していくEveの姿は、とても頼もしいものであった。もともとは歌い手/ボカロPとして活動を始めた彼が、ネット・ミュージックの世界から果敢に飛び出して巨大な支持を獲得していく過程は、まさに令和の音楽シーンを象徴するシンデレラストーリーだ。

ただ、2020年2月に前作『Smile』を発表してからの2年の間に、未曾有のパンデミックによって、音楽シーンのみならず、世の中全体の在り方が不可逆的に変容してしまった。先行きの見えない灰色の時代の中で、音楽そのものの価値が根本から問い直されている。今、僕たちが生きているのは、そうしたシビアな認識に基づく時代なのだ。

しかし、そうした時代においてもなお、Eveの音楽は、一貫してポップ・ミュージックの果てしない可能性を高らかに示し続けてくれている。この2年間、破格のクリティカルヒットを記録した”廻廻奇譚”、また”蒼のワルツ”や”藍才”をはじめとした新曲を聴きながら、日々、僕はその確信を深めていった。


《目の前の全てから  逃げることさえやめた/イメージを繰り返し/想像の先をいけと》

廻廻奇譚


《ただ願って願って  生まれ変わっても/不確かな未来を謳っては触れたくて/伝って伝って  頬を流れる/その涙の味は  いつかの約束》

蒼のワルツ


《今も未来も超えていけ  君となぞる夢も/確かな命宿して  消えた街の息吹きを/忘れてしまわぬように》

藍才


未知への不安や恐怖が蔓延する現代を、正気を保ったまま生き抜くことは決して安易なことではない。しかしEveの音楽は、そのネガティブな感情を共に受け止めながら、時代の閉塞を突破するための力を授けてくれる。たとえ、どのような悲しみや困難に苛まれたとしても、自分が自分らしく在るために決して譲ってはいけないものを、しっかりと照らし続けてくれる。そして、かけがえのない他者と一緒に生きることの歓びを、目一杯に祝福してくれる。

この時代においても、いや、この時代だからこそ、音楽は、ポップ・ミュージックは、輝かしい価値を放つ。そう信じながら、新たな楽曲を通してコミュニケーションを重ねてきたEveとリスナーたちの2年間の日々が、今回の新作『廻人』において美しく結実している。前置きが長くなってしまったが、2022年のシーンを代表する大傑作であると思う。



言うまでもなく、今作の誕生に至るまでの間には、Eve自身の音楽家としての絶え間ない変化と挑戦があった。キャリア初期の路線を踏襲したギターロックナンバー”廻廻奇譚”と”アヴァン”をアルバムの冒頭とラストに配置しつつ、その狭間で展開されるのは、”夜は仄か”、”退屈を再演しないで”をはじめとしたディスコ/ファンクを基調とする新基軸のダンスミュージックや、”平行線”、”心海”などの端正なポップスである。

この音楽性の飛躍的な拡張は、とても感動的なものだ。目まぐるしく変わりゆく僕たちの日々の生活に寄り添うために、そして、いつまでも続きかねない負のループから共に抜け出すために、Eveは今作に至るまでの過程で、多彩な音楽的エッセンスを取り込み、自らの音楽性を広め/深めていったのだと思う。

そして、自分以外の他者とのコラボレーションを起点とした変化も、Eveにとっては相当大きなものだったはずだ。『呪術廻戦』や『ジョゼと虎と魚たち』の製作陣、各ミュージックビデオの映像作家、そして”平行線”において清廉なデュエットを披露したsuis(ヨルシカ)をはじめとした数々のアーティスト/クリエイターとの出会い。それらを通して、Eveは、次々と新しい音楽の扉を開き、その先に広がる壮大な世界と自らの表現を重ね合わせていった。ポジティブな楽曲であろうとネガティブな楽曲であろうと、全ての楽曲が一貫してポップな佇まいを獲得しているのは、きっとそれ故だろう。


《確かな理由を抱いてここまで来たんだ/まだ終わらない旅路なんだ/いつしか想いは形になる  この真っ白に染まる朝/忘れられないまま  だから》

群青讃歌


特に、Eveの楽曲史上最も鮮やかな祝祭感を放つ”群青讃歌”は、今作の輝かしいハイライトの一つだ。この楽曲は、今一度、自らのルーツであるボーカロイド文化に向き合うことで生まれた楽曲である。過去も今も、全ては未来へと繋がっている。廻りゆく混沌の時代の中で、ただ足踏みをするばかりではなく、いつだってEveは、手付かずの未来を見据えているのだ。その眼差しに映る世界を表現したこの楽曲は、僕たちリスナーに、とても晴れやかな歓びを授けてくれる。

また、怒りの感情をストレートに表現した"暴徒"が象徴しているように、今作においては、各楽曲ごとの喜怒哀楽のコントラストが今まで以上に強まっていて、その意味で、リスナーの日々の生活に寄り添うポップソングとしての機能も格段に増している。

この2年間、Eveは、ライブを通して直接的にリスナーとコミュニケーションする機会を奪われてしまった。しかし、その悲しみや悔しさを糧にして、そして鮮やかに反転させながら、彼は、今回の14曲の楽曲に豊かな感情の機微を刻み込んでいったのだと思う。全編を通して、人生における様々な愛憎を丁寧に紡いでいく、あまりにも感動的な作品だ。


《想いも  声も  言葉も/失くした感情さえ  愛も/廻って  廻って/勝機繋いでいけ》

アヴァン


先行きは見えない。出口が存在するのかどうかさえ分からない。そこに、予期せぬ混沌が次々と重なっていく2022年3月現在、世の中全体を見渡せば、視界に飛び込んでくるのは目を覆いたくなるような絶望ばかりであるが、少なくとも、Eveがいる日本の音楽シーンには、とても眩い希望があると思う。



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